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三人称続きます。
悪い噂が広まったことで孤立したオフェリアを侮る者が増えたのか、侯爵令嬢相手に聞こえるように悪く言い始める者が現れた。
ある時、今までのオフェリアならば、聞こえない振りをして通り過ぎていただろう悪口に足を止め、彼女は高らかに声をあげた。
「あら?この学年には私より高貴な方はエリオス殿下以外いらっしゃらないはずですのに、侯爵令嬢を侮辱して何の咎もないとお思いなのかしら?…あぁ、爵位の序列もわからない馬鹿なのね?低位の貴族家ではそんなことも教えてもらえないのねぇ。」
それはまるで市井で流行っているという物語に出てくる高慢な悪役の様な物言いだった。
それからと言うもの、オフェリアは周囲に対して高慢な態度を取り続けた。そんなオフェリアに食って掛かったのがカリスタだった。
「オフェリア様!子爵家の令嬢を水溜まりに突き飛ばしたのは貴方の仕業ですか?」
「貴方は…ロゼレーヌ伯爵令嬢でしたかしら?仰っている事が何の事だかわかりませんわ。淑女たる者、そんな事は致しません。」
「貴方が誰かにやらせたのではないのですか?」
「それはどうかしらね?取り巻きの沢山いらっしゃるロゼレーヌ伯爵令嬢はそういう時には他の方にお願いされるの?」
「取り巻きではなく友人です!いくら侯爵家の方でもその物言いは酷いですわ!」
「酷い?私は本当の事を言ったまでだわ。貴方は王族の婚約者である私に対して無礼ではなくて?」
「身分が高ければ何をしても許されるのですか?」
「身分の低い者が上の者に楯突くのは良いのかしら?それとも、家を取り潰して欲しいのかしら?お望みならば叶えて差し上げてよ?」
「そんな…酷い…!」
騒ぎを聞き付けてエリオスが駆け付けるとそんな会話が聞こえてきた。エリオスはたまらず声を掛ける。
「オフェリア!どうしたんだ?君らしくもない。」
「あら、殿下。久し振りのお声掛けありがとうございます。しばらく交流も持てていない婚約者様からそんなお言葉をいただくとは思いませんでしたわ。」
にっこりと笑うオフェリアの言葉にエリオスはたじろぐ。
「それは…すまなかった。だが、君はそんな人ではなかっただろう?」
エリオスの言葉にオフェリアは浮かべていた笑みを消す。
「私がどんな人間か…殿下が果たしてどれだけご存知なのかしら?私が軽んじられている理由もご存知ない方のお言葉とは思えませんわ。」
初めて見るオフェリアの表情だった。いつも微笑んでいる彼女が微笑みを消して氷の様な眼差しをこちらに向けている。エリオスは言葉を繋げなかった。代わりに言葉を発したのはカリスタだった。
「エリオス様に対して無礼です!謝って下さい!」
「エリオス『様』…?とても親しくしていらっしゃるのね。婚約者である私ですら『殿下』と、お呼びしておりますのに。」
氷の様な眼差しのまま口角をあげるオフェリアは魔女の様だ。エリオスは取り繕うように言う。
「カリスタ嬢は友人だ。大勢で話す友人の中の一人だ。」
嘘ではない。実際にカリスタは一人でエリオスに近付くことはなかったのだ。あくまでも、多数の友人の中の一人として交流をしていただけ。エリオスはそう思っていた。
「そうですか。婚約者よりも交流を深めたい、さぞ大切な御友人なのでしょうね。素晴らしいことですわ。」
讃えるように拍手をしてみせるオフェリア。そこへエリオスの側近であるテオドールが現れる。
「リディウス侯爵令嬢。このような場で騒ぎを起こすとは…エリオス殿下を貶めようと言うのか?」
一学年上のテオドールを呼びに行ったのかクレオンが後ろについて現れた。殿下の側近とはいえ伯爵令息である彼が侯爵令嬢を止めるのは難しいと考えたのかもしれない。
「私はその様なことはしておりません。ただ、今の二年生は道理もわからぬ馬鹿の集まりなので、苦言を呈したまでです。」
「高慢な態度を改めろと言っているんだ。爵位が高いからと周りを見下して良いわけではない。」
「殿下に蔑ろにされ、低位の者に侮辱されて、それでも黙っていろとおっしゃるの?御自身が同じ立場ならそうなさるのかしら?エヴァンダー公爵令息様は寛大な御方でございますのね。私と違って。」
嘲笑を浮かべるオフェリアにテオドールは眉を寄せる。
「仰りたいことはそれだけかしら?でしたら、これで失礼致します。」
艶やかな笑みを浮かべ、完璧な礼をしてオフェリアはその場を去った。エリオスはオフェリアになんと言葉を掛けて良いかわからなかった。




