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明らかな敵意を向けられ、呆然と立ち尽くしていた私に城の侍女の方が座るよう声掛けをしてくれた。促されるまま部屋のソファに腰を下ろす。
「あの方は…どなたですか…?」
気分が落ち着くお茶を出してくれた私付きになったという侍女のマイアさんに話を聞く。彼はテオドール・エヴァンダー公爵令息。宰相閣下を父に持つ彼は、エリオス殿下の一つ年上の幼馴染みであり側近だそうだ。
「マイアさんは以前の私のことをご存じでしょうか…?」
エリオス殿下に近しい方にあのように言われる程のことをしたのか聞いてみたけれど、言葉を濁されてしまった。そして、エリオス殿下に聞くように言われた。私の現状を慮り、私に伝える情報の制限をしているということなのだろう。
そして、やって来た殿下とのお茶会の時間。私は思いきってエリオス殿下に尋ねる。
「以前の私のことを、エリオス殿下以外の方からも伺いたいのですが…」
それを聞いて殿下の表情が曇る。
「………テオに何か言われたのか?」
あまりの察しの良さに驚き、言葉に詰まってしまう。
「………え?」
「昨日、テオが遅れて着いてきていた。不快な言葉を聞かされたのか?」
眉間に皺を寄せて尋ねる殿下に、首を横に降って答える。
「いいえ。ただ、色々な方の視点から以前の私の印象を伺えば、思い出す可能性も広がるかと思ったのです。」
「テオから何を聞かされたか知らないが、周囲の雑音を君に聞かせたくはない。」
ぎゅっと拳を握るエリオス殿下。私のためを思ってのことだとわかっている。だが、私も引き下がることは出来ない。いつまでもこのままでいて良いはずはないのだ。
「エリオス殿下にご心配頂いていることは本当に感謝しています。ですが、私は早く思い出したい。そのためには手を尽くしたいのです。何が切っ掛けになるかわかりません。例え、私にとって不都合なことでも受け止めます。」
まっすぐに殿下を見つめる。殿下に感謝しているからこそ私は殿下の重荷にはなりたくない。そのためには、オフェリア・リディウスが周囲からどう思われていたのか知らなければならないと思った。
「殿下にお許しいただけないとしても、私はテオドール・エヴァンダー公爵令息に話をお伺いしに参ります。」
エリオス殿下はテオドール様がオフェリアに敵意を向けていることを知っている。殿下が私に知られたくない情報は彼から聞き出すことが出来るはずだ。
目をそらさずにエリオス殿下を見つめ続けると、彼は折れた。溜め息を吐きながら片手で頭を抱えるように俯く。
「………わかった。明日、貴女を執務室に案内させる。そこで、私以外の者から話をさせよう。」
不本意であることを隠さない声音で告げたエリオス殿下に感謝した。
翌日、マイアさんにエリオス殿下の執務室まで案内してもらうと、中にはエリオス殿下の他に三人の側近の方々がいた。その中には勿論、エヴァンダー公爵令息もいる。彼はソファーに腰掛けるエリオス殿下の後ろに立ち、私に睨みを利かせている。
私が殿下の対面のソファーに腰掛けると、側近の一人が殿下の隣に座った。柔和な笑みを浮かべた彼は伺いを立てるように殿下の顔を見る。殿下が頷くと、側近の彼は私に向き直り話し始めた。
「初めまして…になりますかね?私はルカーノ・ニキフォロス。家格は侯爵家です。本日は私がお話をさせていただくことになりました。この中では幾分か客観的な視点でお話しできるだろうとの殿下の判断です。」
友好的に感じる微笑みをたたえながらの挨拶に私も微笑みを返し礼をする。
「この度は私、オフェリア・リディウスのためにお時間を頂き、ありがとうございます。」
挨拶をして顔を上げるとニキフォロス侯爵令息が驚いた顔をしていた。何か失礼な事をしでかしたたろうかと戸惑う私にニキフォロス侯爵令息は安心させるように笑う。
「あぁ、いや。失礼しました。あまりに所作が美しかったもので…驚きました。」
「あ…ありがとうございます。」
「さすがは完璧な淑女と謳われたリディウス侯爵令嬢ですね。」
そう言って、にっこりと笑うニキフォロス侯爵令息はエヴァンダー公爵令息のように敵意を表してくることをしないようだ。
殿下の側近の三人の名は事前にマイアさんに聞いていた。後ろに立つもう一人の側近はクレオン・アルバンティス伯爵令息だったか。彼もエヴァンダー公爵令息ほどではないが、こちらを警戒するような視線を向けてくる。
なるほど。確かに、中立的な態度を取れるニキフォロス侯爵令息は話をしてもらうには適任に思えた。
「私は、私がどのような人間だったのか知りたいのです。包み隠すことなくお教え頂きたく存じます。よろしくお願いいたします。」
「承知致しました。」
そうして、ニキフォロス侯爵令息は語り始めた。




