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記憶をなくした悪役令嬢は想い出を探す  作者: 佐月 水奏


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ヒロインの一人称に戻ります。

「以上が、私達が知っていることです。」


ニキフォロス侯爵令息が話し終えた。

エリオス殿下と側近の方々がこちらの反応を窺っているが、私はまず頭の中で話を整理する。

つまり、記憶を失くす前の私は、悪評を肯定し、エリオス殿下の婚約者を降りようとしていた、ということだろうか。悪評まみれの婚約者など、確かに王族には相応しくない。エヴァンダー公爵令息の敵意は、エリオス殿下の婚約者でありながら悪評を否定せず、寧ろ悪い噂を煽るような言動を繰り返したオフェリアへ向けられたもの、ということか。

そんなことを考えているとエリオス殿下が話し出す。


「……オフェリアは、私ではなくダリウスと婚約したかったのかもしれない。」


懺悔でもしている様な声で話すエリオス殿下だが、私はその言葉を否定する。


「あり得ません。悪評がついて回る婚約者など王族に相応しくありません。そのダリウス様というのは第二王子殿下のことですよね?」


その言葉にその場にいた私以外の人々が一様に驚く。

当然のことを言ったつもりだったが、何か驚かせる様なことだっただろうか…?

戸惑う私にニキフォロス侯爵令息が言う。


「すみません。記憶を失う前…いや、学園入学前のオフェリア様を思い出しまして…記憶が戻ったわけでは…ないのですよね?」


その言葉に頷く私を見てエリオス殿下が、がっかりしたように目を伏せる。また、そんな顔をさせてしまった…そんな風に思っているとエヴァンダー公爵令息の声が聞こえた。


「では、今のお前はどう感じる?記憶を失う前のオフェリア・リディウスの不可解な行動について。」


エリオス殿下の幸せを守るためにいるのだとオフェリアは言っていた。そう言っていたはずのオフェリアが、まるで物語の悪役の様な言動を繰り返した理由。

ここにいる人々はそれが知りたいのだと目で語っていた。

私は記憶を失う前のオフェリアのことはわからない。わからないなりに、もし、今の私がその立場ならどう感じるのかを考える。もし、私なら…


「申し訳ありません。わかりません…」


エヴァンダー公爵令息に頭を下げる。それを見て彼は苛立った様子で溜め息を吐いた。


「やはり話をした程度で記憶など戻るはずもない。殿下、オフェリアを自宅に戻したらどうです?記憶にある場所を見ればまた刺激になるでしょう?」


眉を寄せながらエリオス殿下に提案をするエヴァンダー公爵令息。

自宅に戻る。そう考えて、目覚めた時に見た父母の姿を思い出す。母に触れられた時の恐怖の様なあの心の内も思い出し、手が震える。


「オフェリア!」


エリオス殿下が立ち上がり私の座るソファーにやって来て私の手を握る。優しく力強いその手は私を安心させてくれる。


「顔色が悪い。部屋で休むか?」


隣に座り、私の顔を覗き込むエリオス殿下は心から私を心配してくれている。どうしたらこの方の優しさに報いることが出来るのだろう?


「無理はしなくて良い。少し休もう。」


私を気遣う言葉。嬉しさを感じながらも、それは違うと頭の中で誰かが言う。そうだ。私は無理をしてでも早く記憶を思い出したいのだから。


「エリオス殿下。私もリディウス侯爵邸に戻るのは良い提案だと思います。」


「オフェリア!」


エヴァンダー公爵令息の言葉に賛同した私にエリオス殿下だけでなく、側近の方々も目を見張る。


「私は早く思い出したいのです。」


「許可出来ない。また倒れでもしたらどうする?」


「身体はもう健康だと宮廷医の診断は出ております。王族の婚約者として相応しくないと判断される者がいつまでも王宮に居座ることの方が問題では?」


「私の婚約者はオフェリアだけだ!」


「王族や貴族の婚約は感情だけでどうにかなるものではございません。」


感情的になるエリオス殿下に私は冷静に答える。にらみ合いの様になる私達に吹き出す声が聞こえる。声の方を見ると、ニキフォロス侯爵令息が笑っていた。


「どう見ても殿下の負けです。諦めましょう。」


「ルカーノ!」


ニキフォロス侯爵令息に諦めるよう促され、殿下はまた声を荒らげる。落ち着いて、と声をかけニキフォロス侯爵令息はこう続ける。


「でも、殿下の仰る『オフェリア様は記憶をなくしてもオフェリア様だ』というのが良くわかりました。記憶をなくしても本質は我々のよく知るオフェリア様だ。」


笑顔で私を見るニキフォロス侯爵令息はとても友好的だ。そうして、彼はまたエリオス殿下を見て言葉を続ける。


「このままオフェリア様の記憶が戻らなくてもエリオス殿下は良いかもしれませんが、オフェリア様の仰る通り、世の評判というものがオフェリア様を貶めるでしょう。記憶がないまま弁解や反論の余地もないオフェリア様が耐えられるとは思えません。」


その言葉にエリオス殿下は眉を寄せ下を向く。エリオス殿下だってわかっていないわけではないのだ。


「心配ならエリオス殿下もリディウス侯爵邸についていったら良いのでは?」


ニキフォロス侯爵令息の提案にエリオス殿下が驚く。良いのか、と尋ねる殿下に答えたのはエヴァンダー公爵令息。


「どうせここにいても使い物にならないでしょうから問題ありませんね。」


そうして、私はエリオス殿下とリディウス侯爵邸へ赴くことになった。

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