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オオカミと赤いずきんのベリー売り  作者: ねこじゃ・じぇねこ
古城図書館がお城だった時代のお話

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6.ナイトメアとチリン

 旅人とナナが〈聖熊城〉に戻ると、そこではオッソたちが待ち受けていました。

 彼らには見えていたのです。ナナが角を光らせ、群衆の中にいた黒い謎の生き物を吸い取る様が。それがナイトメアだということはオッソも何となく理解できていたのですが、だとしても、確かめずにはいられなかったのです。


「あなた方は、何が目的でこの地へ?」


 オッソの問いに、旅人は答えました。


「言ったでしょう。ナイトメアの役割は大地の浄化──膿出しです。そして、こちらのナナ──チリンには、ナイトメアを統率する力があります。ナイトメアがたくさん生まれ過ぎれば、大地は膿んで、ベリーにも悪い影響が出ます。そうなれば竜の女神の夢も侵され、やがては女神の地全体へ悪い気が流れていくでしょう。そうならないよう、私は薄明の旅人として、チリンを連れ歩いているのです」


 彼に続き、ナナもまたとことことオッソの前へと歩みだし、見上げながら言いました。


「わたしたち、もりにいきたいの。そこにもおともだちが、たくさんいるから」


 その声にオッソは目を見開き、すぐに手配をしました。


 小一時間も経たないうちに、全ての準備が終わり、オッソたちは旅人とナナを連れて再び〈夕やみの森〉へと足を運びました。

 スピリットベアのおおよその場所は、地図と方位磁石をたよりにすれば、真っ暗闇のこの森でもどうにかたどり着けるはずです。

 しかし、森に入ってすぐに、その歩みは阻まれてしまいました。暗がりより、のしのしと威圧的な足音を響かせながら、巨体を誇るしゃべるヒグマの戦士たちが現れたせいです。

 その中にタローはどこにもいません。

 オッソたちは思わず怯んでしまいましたが、そこへ旅人の肩に乗って同行していたしゃべるカラスのポップが飛び出しました。


「やあ、やあ、君たち。昨日ぶりだね。吾輩だ。ポップだよ。あれから、町の者たちに確認してきたのだが、やはり彼らのせいではなかった。これより、我らが薄明の旅人がチリンに頼んであの地の浄化を──」


 と、そこへ、しゃべるヒグマの一頭が、突如としてポップに殴り掛かりました。すんでのところでポップはそれを避け、ただでさえ丸い目をさらに丸くして叫びました。


「な、なにをするんだ、君たち! 吾輩のことが分からないのか?」


 すると、しゃべるヒグマたちは言いました。


「勿論、分かっているとも。貴様らワタリガラスが悪しき風を外から運んできた死の使いであることもな」


 その敵意あふれる言葉にポップは慌てふためきました。


「な、なにを言いだすのだ!」


 オッソもまた困惑しながら前へと出ました。手には武器がありますが、それを向ける気のない事をまずは示し、落ち着いた声で彼らに訊ねたのです。


「タローはどうした。イビミはいないのか。どうか話し合いをさせて欲しい」


 しかし、そんなオッソに対し、しゃべるヒグマたちは険しい眼差しを向けました。


「二人とも重傷だ。動くことはままならないだろう。憐れなホラアナグマの一族たちも、すっかり怯えている。だから、我らがここへ来たのだ」


 それに続き、別のヒグマも声を震わせながら言いました。


「元来、争いを好まぬ戦士が何名この世を去ったと思う。スピリットベアの想いを守るどころか、その力に手を伸ばそうとするなんて。貴様らに教えたのが全て間違いだったのだ」


 吠えるヒグマを前に、ポップは慌てた様子で言いました。


「ま、待て。待つのだ。吾輩たちがあの地を浄化しないと女神様の夢が──」


 しかし、その声はもう届きませんでした。怒れる彼らが襲い掛かってきたためです。

 戦うしかないのか。オッソが覚悟を決めたその時でした。旅人が静かにナナに声をかけると、途端に、ナナの角が光ったのです。そして、オッソたちは不思議なものを目撃しました。しゃべるヒグマたちの間に、いつの間にか光る目を持つ影法師のような精霊がいたのです。

 子熊、子猫、子兎、子猿、子豚……。すべてのナイトメアがそこにいました。そして、ナナの角に次々に吸い込まれていったのです。

 それらが全部消えてしまうと、しゃべるヒグマたちは途端に大人しくなりました。振り上げた片腕をそのままぴたりと止め、表情を変えて周囲を見渡したのです。

 その様子にオッソたちもまた戸惑っていると、旅人が前へと出て、ヒグマたちに対し、丁寧な態度で語り掛けました。


「どうか、この子の立ち入りをお許しください」


 するとヒグマたちは困惑したように顔を見合わせ、何やら話し合いました。やがて、その全員が戦いの姿勢をやめると、のしのしと背を向け去っていきました。

 彼らの後を追うようにオッソ達も奥へと向かうと、程なくして光り輝くスピリットベアの姿が見えてきました。けれど、結晶の根元が見えてくると、オッソはその光景の異様さにぎょっとしてしまいました。そこにはおびただしい数のナイトメアたちがいたのです。

 どうやらその姿はこの場にいた全員が見えていたようです。同行した開拓民たちは勿論、ポップもまた絶句し、旅人の肩の上で震えていました。

 そんな中で、旅人とナナだけは冷静なまま、そっと前へと歩みだしました。


「皆さん」


 と、ナイトメアたちに旅人は声をかけました。


「お迎えにあがりました。私たちと一緒に夢の旅路を歩みましょう」


 すると、ナイトメアたちはひそひそと語り合い、不思議そうに旅人とナナを見つめました。けれど、ナナがその角を光らせると、ナイトメアたちは目を輝かせ、自ら近づいてきたのです。

 まるで楽しむように次々にその角に吸い込まれていくと、程なくしてあれだけいたナイトメアたちはきれいさっぱりいなくなってしまいました。

 あたりがしんと静まり返ると、森の奥からそっと姿を現す者たちがいました。金毛で全身を覆われたホラアナグマの一族たちです。その中にイビミはいませんでしたが、彼らはそっと旅人とナナに近づくと、何度も感謝を示しました。


「ありがとう」


 そして、イビミもタローも治療が終わり、少しずつ容態が安定している事を教えてくれたのでした。

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