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オオカミと赤いずきんのベリー売り  作者: ねこじゃ・じぇねこ
古城図書館がお城だった時代のお話

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4.恐れしらずの客人たち

 町へと戻ったオッソたちは、さっそく〈夕やみの森〉で目にしたものについて、全ての開拓民たちに向かって報告しました。

 人々はみな、驚きました。ベアは確かに女神より新たな役目を授かり、町へは戻れなくなることを最後の演説で言っていましたが、それが、ベリーの大結晶になることだとは思いもしなかったのです。

 それでも、オッソたちがウソをついているとも思えません。捜索隊に加わらなかった者たちは、オッソたちの報告を静かに受け止め、ベアの捜索が打ち切られる事、そして、二度と〈聖熊城〉の本来の城主が戻ってこなくなった事に、ひっそりとした悲しみを抱いたのでした。


 人々の多くはオッソたちの〈夕やみの森〉を守るという新たな方針に賛成し、ベアが眠っているというその場所を〈スピリットベアの玉座〉と名付け、絶対不可侵の聖域として崇めることを決めました。

 開拓民であるクマ族の大半がそれに同意したため、彼らと協力して町を築いていたコヨーテの客人をはじめ他種族の者たちも、特に反対することもなく、その場はまとまりました。

 とんとん拍子に事が運び、オッソたちはすっかり安心し、改めてベアへの哀悼と、新たな未来をもたらしてくれた旅人とナナへの感謝とを示すために〈聖熊城〉にて晩餐会ばんさんかいを開きました。

 その席で、オッソはひっそりと旅人に対して言いました。


「旅人さん、あなたが来なければ、私たちはベアの姿を見ることも出来なかったでしょう。全てあなたのおかげです」


 しかし、それに対し旅人は言いました。


「いえ、感謝すべき相手は私ではありません。私だって、ナナがいなければ、彼らにとってただの風来坊に過ぎなかったでしょうから」


 そこで、オッソはナナに対しても感謝の意を示しました。

 けれど、ナナは不思議そうにそんなオッソを見上げるだけで、あとはたんまり用意されていたベリーのお菓子にしか興味を示しませんでした。

 ともあれ、彼らのおかげでベアの行方がはっきりとしたことは違いありません。オッソの態度もあり、旅人とナナのことを疑うものはこの場では誰もいませんでした。

 晩餐会はその後も静かに進行し、ベアを懐かしむ思い出話や、この先の未来のわずかな希望について、人々は夜が更けるまで語り合ったのでした。


 しかし、この間、誰もが考えもしていなかったことが起こっていました。

 ベアの身に起こった出来事が、オッソたちの知らないところで広まり続け、やがてはよからぬ者たちの耳にも届いてしまっていたのです。


 この頃、オッソたちはまだちゃんと理解できていませんでした。


 彼らにとってベリーは、生まれてきたころからあって当たり前のものでした。

 その重要性は勿論、神聖さも、幼い頃より知らず知らずのうちに感じ取ってきたものだったので、ベリーを蔑ろにするということに対しては、自然と躊躇いが生まれるものでした。

 この国に入ってきたコヨーテの客人たちもまた、そんな彼らの文化を理解し、尊重する者も当然いました。また、その教えに触れながら生まれ育った者たちは、もともと暮らしていた種族と同じくらいベリーに親しみを感じていました。


 けれど、そういう人ばかりではなかったのです。


 この国には便利な宝石がある。金になりそうなお宝だ。

 そうとしか理解できない悪人は何処にでもいて、とりわけそれがコヨーテの客人たちの場合は、価値観の違いも手伝って、悪人ながら持っている美学というものも根本的に違いました。

 だから、でしょう。

 これまでならば、どんな悪人もやらなかったような愚行が、オッソたちが晩餐会をしている最中に、〈夕やみの森〉で行われてしまったのです。


 その異変に、お城の中で初めて気づいたのはナナでした。

 晩餐会も終わった就寝前、客間のベランダにて更けゆく夜を静かに眺めていた旅人の袖をそっと握り締めたのです。


「どうしました、ナナ?」


 旅人が静かに問うと、ナナはランタンのように光るその大きな目で、一方を見つめました。そして微かな声で囁くように言ったのです。


「おともだちが、たくさんうまれた」


 その方角を見つめ、旅人は黙ったまま笑みを引っ込めました。そのまま、しばし険しい顔でその方角を見つめていましたが、やがて、ナナの手をそっと引くと、ベランダに背を向け、諭すように言ったのです。


「今日はもう遅いから、また明日考えましょう」


 それから数時間後、まだ夜も明けないうちに、オッソの寝室を叩く音が城内に響きました。

 飛び起きて応じてみれば、そこには猫の耳をすっかり倒してしまったウーバスと、町の警備を行っている数名の町民が深刻な顔をして立ち尽くしていました。


「いったいどうしたんだ?」


 オッソが訊ねると、ガタガタ震えるウーバスの代わりに町民たちが答えました。


「夜襲があったらしい。……いや、襲われたのはウチじゃない」


 物騒な言葉に驚きつつ、オッソは訊ね返しました。


「いったいどこが襲われたんだ?」


 すると、町民たちは顔を見合わせ、互いに息を飲みながら答えました。


「〈夕やみの森〉だ。どうやら、コヨーテの客人の一団だったらしい」

「何……? コヨーテの客人の一団?」


 戸惑いを隠せないオッソの様子に、町民の一人──クマ族の男性が言いました。


「やはり、ウチの差し金じゃないようだな」

「当然です! そんな酷い事、するわけないじゃないですか!」


 透かさずウーバスが金切り声を上げました。オッソも同じように慌てて否定するも、すぐに事の深刻さを理解し、町民たちに確かめるように言いました。


「つまり、疑われているのだね?」


 その言葉に、皆が黙り込んだまま頷きました。オッソは毛だらけの額に手を当てると、さっと気持ちを切り替え、皆に言いました。


「すぐに支度する」


 直後、バタリと寝室の扉を閉める音が、城内に響き渡りました。

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