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オオカミと赤いずきんのベリー売り  作者: ねこじゃ・じぇねこ
古城図書館がお城だった時代のお話

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3.かつての友との再会

 その日のうちに、オッソは大勢の捜索隊と共に旅人たちも加えて、〈夕やみの森〉へと入りました。地図に印をつけたあたりをさまよいながら、オッソはベアの名前を呼びます。しかし、もちろん、返答はありません。

 そのまましばらく進むと〈夕やみの森〉は深まり、開けた場所からはだいぶ遠くなってしまいました。そこで、オッソは捜索隊の先頭に立ち、ある名前を呼んだのです。


「おおい、おおい! タロー、イビミ。誰かいないか! 私だ、オッソだ!」


 タロー。そしてイビミ。

 それは、オッソも久しぶりに口にした名前でした。すると、声が届いたのでしょうか。程なくして、〈夕やみの森〉の奥から蛍火ベリーの明かりをたよりにしながら歩いてくる者たちがいました。

 片方はしゃべるヒグマの男性、そしてもう片方は、ホラアナグマの一族の女性です。

 二人の姿に、捜索隊の者たちは目を丸くしました。しかし、そんな各々の反応を気にせず、ふたりはそのままのんびりと、オッソのもとへと歩み寄ってきました。


「おやおや、騒がしいと思ったら、懐かしい顔だね。いったいどうしたというのかね」


 年老いた声で訊ねたのはホラアナグマの一族の女性──イビミでした。


「ここは約束の地点からすでに外れている。すでに我らの領域だ。他のヒグマたちに出会う前に引き返した方がいい」


 警告の姿勢をとるのは、しゃべるヒグマの男性──タローです。

 二人とも、オッソの顔見知りでした。というのも彼らは、数年前、この地の開拓を巡って、開拓に賛成の者と反対の者が対立しあった際に、ベアも含めて平和的な交渉を試みたメンバーだったためです。

 そんな二人を前に、オッソは安堵してから答えました。


「すまない。だが、やむを得なくてね。我々はベアを捜しに来たのだ。この森へ入ったと言われるのが一年前のこと。あれから一切、帰ってきていない。二人とも、ベアの行方は知らないだろうか」


 すると、イビミとタローは一瞬だけ顔を見合わせました。そして、イビミは深くため息を吐いてから、オッソに言ったのです。


「そうか。では、お前たちは知らなかったのだな」

「知らない……というと?」


 オッソの問いに、タローが答えました。


「ベアは言わなかったか。女神の使命を受けたのだと。未来永劫この地を見守り、夢を通じて女神に報告すべく、その身をベリーの大結晶へと変えてしまったのだ」


 タローの言葉に、捜索隊のメンバーたちはざわつきました。

 コヨーテの客人たちはタローが何を言っているのか分からず困惑していましたが、クマ族をはじめこの地に昔から暮らしてきた他の部族の者たちは、深刻な顔をして囁き合っていました。

 オッソは黙り込んでしまいました。せめて骨を拾いたいという思いも頭の片隅にはありましたが、思ってもいなかった答えに戸惑ってしまったのです。

 けれど、すぐに我に返ると、彼らに懇願しました。


「その場所へ案内してもらうことは可能だろうか」


 すると、イビミとタローは再び顔を見合わせました。

 二人の表情からして、それは困難とも思われました。断るための言葉を探しているように見えたのです。けれど、その言葉を口にする前にイビミはふとオッソの隣に静かに控えていた旅人とナナの姿に気づき、目を丸くしました。


「あなたは!」


 イビミの反応で、タローもようやく旅人とナナの存在に気づき、目を見張りました。


「薄明の旅人……」


 そうです。ふたりは知っていたのです。

 百年に一度現れるというチリンを連れた旅人という存在を。そして、その重大性を。


「そういう事情ならば早く言えばいいものを」


 イビミがそう言うと、旅人は静かに口を開きました。


「申し訳ありません。言い出す頃合いを見計らっていたのです」


 とても礼儀正しく彼はそう言うと、静かにその名を名乗り、ナナを紹介しました。


「この子にベアの姿を見せてやりたいのです」


 そんな彼の申し出に、二人は慌てた様子で応じました。

 そして、薄明の旅人の護衛という形で、オッソたちも同行出来ることになったのです。

 イビミとタローの案内もあり、その場所はあっという間に見えてきました。

 明かりの乏しい暗黒の世界でありながら、そこだけは遠目からもぼうっと輝いて見えました。神秘的ながら何故か切ない気持ちになるその理由を、オッソは近づくにつれて理解したのです。


 ──ああ、ああ!


 そして、その光の下までたどり着くと、たまらなくなって膝をついてしまいました。

 さてみなさん、ラズがブルーに案内されて、半ば感動しながら眺めたスピリットベアですが、その昔はだいぶ違う姿をしていました。

 ラズたちが見たのは、大結晶としか言えないものです。美しいものに違いありませんが、生き物の姿をしてはいません。

 けれど、オッソたちが見た時代は違いました。その大結晶は、クマの形──つまりは、知る人が見れば一目でベアと分かる姿をしていたのです。

 まるで、氷漬けにされて、そのままどんどんベリーに侵食されてしまっているかのよう。友のそのような姿を目の当たりにして、オッソは涙を流してしまいました。


「ああ……ベア……どうして……どうしてそんな姿に!」


 嘆かずにはいられなかった彼に対し、気遣うように声をかけたのはイビミでした。


「どうか泣かないでおくれ。これはベアの遺志でもあったのだ。この地は竜の女神にとっても大切な地。そうであることを人々に示すため、自分はここを棺とすると。いずれまた再会できる時が必ず来るだろう。その日まで、どうかここを守っていて欲しい。それが、彼の願いだった」


 オッソはそんなイビミの言葉を聞きながら、何度も頷きました。

 そして、この日を境にベアの捜索は打ち切り、代わりにこの〈夕やみの森〉を守ることを決め、町へと去っていったのでした。

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