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オオカミと赤いずきんのベリー売り  作者: ねこじゃ・じぇねこ
聖なるクマと図書の町

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35.ラズの手紙

〈可愛らしいクマ族の子どもたちが本を読んでいる絵柄の便せんに、ちょっと焦り気味の筆跡で手紙は書かれています〉


 親愛なる グース姉さんへ


 おかわりはありませんか? 

 このお手紙が届くころ、きっとお家にはクランもいることかと思います。

彼からもう聞いたかもしれないけれど、クランとはこの一か月、〈図書の町〉で一緒に過ごしました。

 その傍らには、以前もお手紙で紹介した、しゃべるオオカミのブルーがずっと一緒でした。


 お祖母ちゃんはまだ、ブルーのことを心配していますか?

 それなら、安心して大丈夫だよとお伝えください。クランからも聞いているかもしれませんが、この一か月、ブルーはとてもいい子にしていました。

 世の中に安全オオカミの証が登場してだいぶ経ちますが、きっとブルーほど相応しいオオカミも珍しいでしょう。

 それに、私の方はブルーと出会ってから、モノの見方がすっかり変わったように思います。たとえるならば、視野が広がったというか、見えないものが見えるようになったというか、うまく言葉で例えるのは難しい感覚なのですが、ブルーと触れあうようになってから、お客さん達の心にもっと寄り添えるようになった気がするんです。

 勿論、まだまだ至らない点も多いとは思うんだけど。


 前にお手紙に書いた、絵本作家さんのこともそうです。

 彼に出来たお手伝いはほんの少しの事だけだったけれど、ブルーも一緒だったから、きっといい方向に歩みだすきっかけができたんだと思っています。

 同封しているこのポストカードは、その証の一つかもしれません。

 サインを見て貰ったら分かると思いますが、これはウー・ヴァ・ウルシーさんから貰った描きおろしのポストカードなんです。

 私の貰った分と、ブルーの貰った分の一部が入っています。姉さんや、お母さん、お祖母ちゃんにもどうしても見せたくて、手紙で送っちゃいました。

 私が帰って来るまで、お家で飾って貰えたら嬉しいです。


 それはそうと、姉さん。

 図書館は好きですか?


 子どもの頃、よく〈夕焼け村〉に移動図書館が来ましたね。あの時にだけ借りられる本が、幼い私にはどれもキラキラ輝いて見えたものでした。

 今では〈古城図書館〉をはじめ、もっと大きくてたくさん本を保管している図書館にも行けるようになりました。でも、あの頃のわくわくした気持ちは今でも忘れられません。

 ブルーと一緒に〈図書の町〉を観光していると、あの頃の純粋な気持ちに戻れたような温かい気持ちになりました。

 それに、子どもの頃に学校で学んで、以来、何となく気持ちで頭に入れていたスピリットベアの言葉の重みもよく理解できたような気がします。


 姉さん、私、この町の事が前よりもさらに好きになったような気がします。

 そりゃ歴史は複雑だし、今だって対立は続いています。

 しゃべるヒグマに襲われてしまう人だって、なかなかいなくならないでしょう。そう……私たちの父さんのような悲劇だって。

 だけど、しゃべるヒグマやクマ族の中にも色んな性格や信条を持つ人がいて、その中には歩み寄ろうとする人達だっていっぱいいるんだってことを、今回の滞在でよく理解できたような気がしたんです。

 その思いを伝える手段の一つが物語なんだってことも、ブルーに出会ってから何となく理解したことの一つでした。

 勿論、物語にも色々ありますし、捉える人、広める人によって捻じ曲げられてしまうことだってあります。時には、誰かの思惑で悪用されてしまう事だってあるでしょう。


 でも、私、それでも物語が好きです。

 好きなんだって事もまた、今回の滞在で気づきました。

 この気づきはきっと、次に向かう町でも強く感じることでしょう。


 さて、私とブルーはこのまま〈夕日丘〉を越えて、〈銀幕の町〉へと向かいます。無事にたどり着いたらせめて電報だけでも送るようにします。

 それでは、行ってきます。


 あなたの妹 ラズより

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