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オオカミと赤いずきんのベリー売り  作者: ねこじゃ・じぇねこ
聖なるクマと図書の町

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24/43

23.めまぐるしい一日の終わりに

 ウルシーが帰ったあとも、ラズのお店にはたくさんのお客さんがやってきました。その大半はクマ族でしたが、いずれもウルシーよりも小柄で、あまり怖くはありませんでした。

 むしろ、お客さんの方がブルーに一瞬だけぎょっとするほどでした。けれど、いずれのお客さんたちもブルーの首に安全オオカミの印が下がっているのを見ると納得したように胸をなでおろすので、その日は何の問題もなく過ぎていきました。


 ラズが少し気がかりだったのが宿のことでしたが、そちらもすぐに解決しました。

 もともと借りた部屋が広かったおかげで、ブルーが一緒に泊まるという許可もすぐにもらえたのです。何なら、安全オオカミ用のお風呂のサービスもあると案内されるくらいでした。

 それはいいのですが、少しだけラズには不満が生まれました。というのも、ラズとブルーのふたりきりのはずだったお部屋の片隅にもう一人、新顔がいたからです。


「ちょっとクラン? お宿は別だったんじゃないの?」

「そっちはキャンセルしたさ。で、こっちの受付に聞いたら、『ああ、もう一人くらいは大丈夫ですよ』って言われたのでね」

「言われたのでね、じゃないでしょう。全く、私に無断でいつの間に」

「仕方ないだろう。そいつが正真正銘の安全オオカミなのか、今日からしばらくこのオレがそばで見張ってなきゃならないんだから」


 そう言って空色の目を細める彼に、ラズは心底呆れてしまいました。


「全く、勝手な人なんだから。ごめんね、ブルー。お部屋が狭くなっちゃって」

「ううん。いいの。ボクもクランさんとお話ししてみたかったし」


 無邪気に答えるブルーに、ラズは苦笑いしてしまいました。


 さて、見張るなんて言っていながら、日が落ちるとクランはひとりで繁華街へと出かけて行ってしまいました。どうやら、故郷のお母さんに贈るプレゼントを探したいとのこと。

 そんな彼を見送ると、ラズはホッと一息つきながら、本日の帳簿をまとめてしまいました。そして、お姉さんのグースに送る予定の手紙の文言を考えてみましたが、どうがんばっても思いつかず、机の上に置いていた小さな絵本を手に取りました。

 と、そこへ、隅で横になっていたブルーの眼差しが向けられました。


「それは何?」


 ラズはハッと気づいて、ブルーに絵本を見せました。


「これは絵本。さっき会ったウルシーさんの描いたやつだよ」

「なるほど、それが絵本なんだ。ボクも見てもいい?」

「もちろん」


 ラズが答えると、ブルーは尻尾を振りながら近づいてきて、机に前足をかけました。そしてラズが開いていたページをのぞき込んで、不思議そうに首を傾げました。


「なるほど、これが絵なんだ。ボク、知っているよ。〈氷橋〉の雪の上に誰かが描いた奴とかをボクも見たことがるんだ。それに、しゃべるヒグマは爪を器用に扱えるから、簡単な絵が描けるんだって自慢していたもの……で、横の模様みたいなのは……文字ってやつ?」

「読める?」


 短い問いに、ブルーは残念そうに首を横に振りました。


「ちっとも。ここにはなんて書いてあるの?」

「物語が書いてあるの。このページはね『そして、いつしかベリー売りのもとにはナイトメアがお客さんで来るようになったのです。タッチ、チャット、スメル、アイ、ヒアリング……』って書いてあるよ」


 タッチ、チャット、と、ブルーは反すうするように言いましたが、ぴんと来たのか耳を立てて、前足をそっとその絵柄に向けました。


「この子たちのことだね。うんうん、分かるよ。ナイトメア五兄弟だ……五姉妹だったっけ? ともかく、五つ子の精霊なんだよね」

「そう。五つ子のナイトメア」


 ラズはくすりと笑いました。しゃべるオオカミであるブルーと同じおとぎ話を共有していることが少し不思議で、なんだかとても嬉しかったからです。


「五つ子のナイトメアのことはどのくらい知っているの?」


 そう、ラズがたずねると、ブルーはすぐに答えました。


「ちょっとだけ。でも、最低限の事は分かるよ。たとえば、タッチは手が器用で、お猿さんみたいな姿をしているんだ。その手で色んなことができるけれど、たまに悪いこともしてしまう。チャットは口の大きな子熊で、おしゃべりが大好きなものだから、あることないこと言っちゃうんだ。それで、いろんなトラブルが生まれるんだったかな」


 ブルーは次々に語りました。

 スメルはイヌ族やオオカミ族よりも鼻がとても利く子豚のような見た目をしていて、悪いことが起きるニオイをすぐに感じ取ります。それはいいのですが、仲間のナイトメアたちを呼び寄せてしまうので、物事はたいていの場合、悪い方向にかたむいてしまうのです。

 アイは目を光らせる子猫のような姿をしています。その目で、世界の人々が何をしているのかを注意深く観察するのです。アイの前では、こそこそ行動することはできません。何もかも、その目に映り、あばかれてしまうのです。

 ヒアリングは耳の長い子兎の姿をしています。長い耳に集まるのはささいな雑音で、聞き流したっていいようなことも聞き逃しません。ヒアリングが聞き取った話はたいていの場合、チャットが言いふらしてしまうため、時にトラブルに繋がってしまうのです。


「『そして、もう一人、ベリー売りのもとへと向かうナイトメアたちを見守るものがいました。チリンという一本角とチョウのはねを持つ子馬の姿をした特別なナイトメアです』」


 ラズがそう語ると、次のページにはウルシーの描いたチリンの姿が一面に現れました。ちょうど私たちに馴染みのあるユニコーンの子どもにチョウの翅が生えたような見た目をしています。


「チリン! 知っているよ。ナイトメアたちのお父さんやお母さんなんだよね」


 ブルーは興奮気味に尻尾を振りながらそう言うと、今度はラズを見上げました。


「ねえ、ラズ。もしよかったら、でいいんだけど、初めからこのお話を聞かせてくれない?」


 おずおずとうかがうようなブルーの申し出に、ラズは快くうなずきました。

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