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オオカミと赤いずきんのベリー売り  作者: ねこじゃ・じぇねこ
聖なるクマと図書の町

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19.大きなクマのお客さん

 役所での全ての手続きが終わると、ブルーの首にはピカピカに輝く首輪がはめられました。

 その首輪についている、ちょうど私たちの世界での犬の鑑札かんさつのような札こそが、安全オオカミの印と呼ばれるものでした。

 〈図書の町〉で手続きをし、予防接種をした事も示すもので、人間たちの町を自由に行き来してもいいという身元を証明するものでもありました。

 ラズが一緒だったおかげで順調に事が運び、まさにあっという間にブルーもまた人間たちの世界の仲間入りを果たしたのです。


 終わってみれば、あっという間でした。

 首に下がる印の感触に満足感さえ覚えつつ、ブルーは高まる気持ちを抑えながらラズと並んで歩きました。

 さっきまで気になっていた人目も、もう気になりません。安全オオカミの印があるというだけで、人々の眼差しがガラリと変わってしまったようです。おかげでブルーは胸を張って歩くことができました。


 一方、ラズの方もホッとしていました。ブルーがどういうオオカミなのかは共に〈夕やみの森〉で過ごしたことから十分理解していましたが、周囲の人間たちはそうはいかず、もしかしたらブルーに対して酷い言葉を投げつけてくるものがいるのではないかと怖かったのです。

 世の中の大半の人はそんなことはしませんが、ほんのわずか、そういう人もいるということをこれまでの旅でラズはすでに知っていたのです。

 それらは大抵、誤解がもとでしたが。その誤解をいちいち解いていくのは大変ですし、その度に、ブルーの心はどんどん傷ついていってしまいます。そうなるのがラズは嫌だったのです。


 幸い、そんな人には出会わずに済みました。役所でも、大通りでも、そしてベリー市場でも。

 そして今は、ブルーを一瞬だけ気にして視線を向けてくる人達はいても、首に下がる安全オオカミの印に納得して、すぐに興味を失う人ばかりです。

 時折、多種多様な種族の小さな子どもたちがブルーに関心を示しましたが、そこには微塵も悪意はありません。おかげで、すっかり安心しながらラズたちはクランの待っている持ち場に戻る事ができました。


 と、そのお店が見えてきた時の事です。

 ラズはふと立ち止まってしまいました。

 赤ずきんとオオカミ。そのコンビは遠目でもよく目立ったのでしょう。クランがいち早く気づき、ラズに対して手招きをします。

 その目の前にはお客さんが座っていました。そのお客さんこそが、ラズの歩みを止めてしまったのです。


「わあ、大きな人だね」


 感心したようなブルーの言葉に、ラズは無言のまま頷きました。


 そうです。そこにいたのは大きなお客さんでした。

 ただ大きいだけじゃありません。大きな、クマ族のお客さんだったのです。


「クマ族にしてはちょっと変わっているね。みんな真っ黒なのに赤みがかった毛だし、それにあの大きさ。まるで──」


 ブルーは言いかけて、そのまま口ごもりました。

 まだまだ人間の世界を知らない彼であっても、その先を言葉にするのがはばかられたのでしょう。しかし、ラズには彼の言わんとしていることが分かりました。


 ──そうね、まるで。


 と、ラズはお客さんをまじまじと見つめました。


 ──まるで、しゃべるヒグマみたい。


「おーい、ラズったら。早く来いよ。そっちのお客さんなんだってば」


 そこへクランの声がはっきりと届き、ラズは我に返りました。

 大きなクマ族のお客さんは、背中を丸めつつ、うんとラズたちを振り返りました。そして、ラズと目が合うと、慌てたようにお辞儀をしました。

 見た目はとても迫力がありましたが、その振る舞い、その眼差しからして、どうも荒々しいタイプではなさそうです。その事に少しだけ安心をしながら、ラズは急いでお店に戻っていきました。


「遅いじゃないか。ずっと待っていたんだよ。……すみませんね、ウルシーさん」


 クランの言葉を聞きながら、ラズはふとその名前に引っかかりました。


 ──ウルシーさん? どこかで聞いたような。


 しかし、深く考えられたのもそこまででした。クマ族のお客さん──ウルシーが、ラズの売り物のうちの二つをその長い爪で指さしたからです。


「こちらの勇者のベリーと、こちらの魔女のベリーを一つずついただきたいのです」


 非常に優しそうな男性の声でした。


「はい、勇者のベリーと魔女のベリーを一つずつですね。いずれのベリーも同意書が必要となるのですが、よろしいでしょうか」

「ええ、勿論」


 ウルシーは落ち着いた様子で頷きました。

 ラズは急いで棚の下から紙を取り出しました。ベリーの取引のための同意書です。勇者のベリーも、魔女のベリー──つまりサイコベリーも、心身に負担がかかるために必ず特別な手続きを踏まなくてはならないのです。

 どうやらウルシーはその事をよく理解しているようでした。ラズがペンと共に同意書を差し出すと、長い爪で器用にペンを握り、慣れた手付きで名前を書きました。


 ──ウー・ヴァ・ウルシー。


 その名前を見つめ、ラズはハッとしました。

 ウー・ヴァ・ウルシー。職業は作家。

 間違いありません。ラズも持っているあの小さな絵本『夕焼け村のベリー売りの』の作者だったのです。

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