0.この世界のことについて
これから皆さんに、現在暮らしている場所とは全く違う世界の物語にお付き合いいただきますが、その前に少し知っていただきたいことがあります。
それは、この物語の舞台となる世界についての事です。説明のために、しばしお時間をいただくことをお許しください。
物語の舞台は、私たちの知る世界とは全く違う別の世界にある、とある大陸の中部にある国で、北は雪山、南は砂漠、そして東と西は海に囲まれています。
中央付近には荒野が広がっていて、そのちょうど真ん中あたりの地域は、大きな時計塔がそびえたつ、〈ゆりかごの都〉と呼ばれる首都があります。そして、その首都を中心として四方八方に点々と大きな町が存在しています。
その首都と各町を結ぶように伸びているのが〈ハニーレンガの道〉という古い道路で、そこは別名〈ベリーロード〉とも呼ばれていました。
ハニーレンガなのに、何故、ベリーなのか。それは、この国が出来てから長い事、その道を歩むのがもっぱらベリー売りという職業の人々だったからです。
この世界におけるベリーとは、私たちが知るベリー……すなわち、ラズベリーやブルーベリーなどのようなものではなく、グミやキャンディのようなお菓子によく似た宝石のことを言います。
木や地面、岩肌から生えてくるその色とりどりの宝石たちは不思議な力が秘められており、食用、薬用、観賞用などあらゆる用途で取引される、この国にとってなくてはならない代物でした。
そんなベリーの存在だけでも十分不思議な世界なのですが、この国にはさらに私たちにとっては不思議な特徴があります。
それは、ここに暮らす多種多様な人々の存在です。
この世界には、私たちのような人間のほかに、私たちのよく知る犬や猫がそのまま大きくなり、二本足で立って服を着ているという種族もおりました。彼らはイヌ族やネコ族と呼ばれ、ヒト族と同じように人間らしい生活をしています。
さらにはクマ族やウサギ族、スイギュウ族やシカ族など、ありとあらゆる種族がそれぞれの地域で、人間として暮らしているのです。
けれど、例外もいました。その一つがしゃべるヒグマです。
クマ族は人間の一種として人間らしい生活をしているのですが、しゃべるヒグマは違います。しゃべる、と言われている通り、彼らは人間の言葉を理解し、話すことも出来るのですが、人間らしい暮らしを拒絶し、未開拓の土地で昔ながらのクマとしての伝統的な暮らしを守る事を誇りにしているのです。
それだけではありません。時に人々を襲い、食べてしまうこともあったので、この世界の人々から、かなり恐れられていました。そして、そんなしゃべるヒグマたちと同じように恐れられていたのが、しゃべるオオカミでした。
この物語は、そんなしゃべるオオカミのひとりであるブルーと、旅をするベリー売りの赤ずきんラズの出会いから始まります。