酒場
「ちょ..ちょっまっ、てマスター!」
フリスクはモンスターたちの行き交うにぎやかな大通りを前にして、その活気に圧倒されていた。
マスターは慣れたように、流れてくる多種多様なモンスターを避けながら前進していったが、
フリスクはマスターの後を追うのにせいいっぱいで街の景観を楽しむ余裕などなかった。
実際、その場所は、その町独自の建築技術が詰め込まれた立派な観光名所だったが、
モンスターをよけるのはそれを経験していない誰にとっても非常に困難だったのだ。
大きさ、身長、形、速度、それぞれが全く異なっているおかげで、
上にも下にも注意しなければならない。
まるでFPSゲームをしているように神経をすり減らし、見事に体力を持っていかれたころ、
マスターは大通りから逸れた裏路地に進行方向を変えた。
フリスクはそれに続く。
裏路地は不衛生には見えず、整備されているようだった。
裏路地の終わりはなにかしらの建物の壁でふさがれ、通過することはできないようだったが、
途中にひとつ、小さな看板が置かれているのが目に入った。
看板が前に置かれている扉にマスターが鍵を入れ、右側に回すと、ぴたっとピースがはまるような気持ちの良い音が響き、
扉が開いた。
「ようこそ、集いの酒場へ」
温かみのある木目調のテーブルや、どこで買えば手に入るのかわからないような、
数々の独特な雑貨たちは隠れ家的な雰囲気を作り出し、
どこか安心できる、そんな酒場だった。
マスターは並べておいてあるコレクションのようなグラスのなかからひとつを選びそこに深い琥珀色をはらんだ飲み物をそそぐ。
しかしフリスクは今年で16だ。飲酒はあと2年またなければならない。
慌てて制止するが、笑いながらマスターは言った。
「ハハ!これはジュースだよ。飲酒できない年齢だってことくらいわかるよ」
なんだその反応は。
まるでこっちがバカみたいじゃないか。
フリスクは頬を膨せ、注がれたシューズを一気に飲み干す。
ジュースはほのかなブドウの甘みと、炭酸の生み出す刺激が特徴的で、
フリスクは空になったグラスをマスターに渡す。
「もう一杯」
マスターは笑みを浮かべ(実のところあんまわかんないんだけど)
その要望に応え、グラスにもう一杯ジュースを注ぐ。
そんなやり取りを4回ほど繰り返し、フリスクは合計四杯、瓶一つ分を飲み干してしまった。
じゃっかん飲みすぎたことをフリスクは後悔する。
なんでこの気持ち悪さは飲み終わった後に来るんだ。飲んでる途中に来たらいいのに。
この感覚になる意味がない。このタイミングじゃあ。
机にうなだれながら、そう心の中で愚痴をこぼす。
1分ほどして調子が回復し、
この町に滞在する期間は長くないんだし、時間を有効的に使わなくては。と思い
フリスクが立ち上がろうとすると、
酒屋の扉が誰かによって開かれた。
二人が扉の方向を向くと、そこには、
液状のモンスターはゆっくりとカウンターのほうに向かっている姿が見えた。
そのモンスターは、目や口はないように見えるが、眼鏡と髭がついており、液状といっても、ある程度のまとまりになって動いている。
スライムというやつか。
フリスクは、モンスターが本当に多種多様であることを改めて感じ、じーっとそのスライムを観察していた。
スライムは、近くの柱を経由し、カウンターに乗っかると、メニュー表の気まぐれグラタンの欄を指さした。
「了解。気まぐれグラタンね。」
「アリミスさんほかには?」
アリミスは動かない。
「。。。okそれだけね」
マスターは厨房に具材の確認に行こうとしたが、一度立ち止まって、
フリスクにめがけてひとつのカギをなげた。
「それ二階のカギ」
「あと3時間営業するからそこで待ってて」
フリスクは返事をし、二階へ続く階段を昇って行った。
カギを開け、部屋に入ると、そこは秘密基地のような、言い換えると乱雑な部屋だった。
汚い、というわけではないが、モノが整理整頓されていない。
棚の上には埃がたまっている。
フリスクはリュックを床におろし、
適当においてある本や雑誌などをもと種類ごとに分けて置いていく。
ほこりも近くにあった掃除用具でとり、部屋をできる限り清潔にしようとする。
しかし、掃除をしようとした矢先、外から大きな爆発音がした。
ほこりをかぶったカーテンを勢い良く開けると、惑を開け、外へ体を乗り出す。
周りを見渡すと、人がこちら側に流れてくる様子が見えた。人の流れの元を辿って見ると、ひとつの工場のような建物が、火に包まれていた。
さらによく見ると、その建物の前にあきらかに他と違う、人間が3人ほどたっていた。