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ハジメ

 

「痛っ…」


 頭がガンガンする。深い眠りから目覚めた僕は割れるような鋭い痛みに顔を歪めた。目は霞むし、頭の中は空っぽ。重く冷えた空気が肺を満たしていく。埃っぽさにせそうになりながら周りを見渡してみれば、アルミ缶のような宇宙船のような、銀色の筒状の建物の中。周りには誰もいない。どうやら僕は見知らぬ場所の床に寝転がされていたみたいだ。


 ココはどこだ?わけも分からぬまま、痛む頭を押さえて起き上がる。自分の置かれている状況を考えたが、何も出てこない。むしろ自分が何者かさえも分からなかった。


 もしかして記憶喪失ってやつだろうか――。


 虚ろな脳裏に一つの疑いが浮かび上がる。何も分からないし、思い出と言った類のモノが根こそぎ頭の中から消えてる。まるで全てがリセットされてしまったかのように。


 マジか……。


 自分の置かれている状況を把握して、絶望に打ちひしがれる。落ち込むくらいだから感情の類は残ってるみたいだ。それに日常生活に困らない程度の知識だけは残っているらしい。入口を探すとか使えそうな物はないかとか咄嗟に探している辺り状況に応じる能力は持っている。


 しかし、何故ココに閉じ込められているのか、そもそも誰かに閉じ込められたのか、いったいここで何をしているのか?記憶のない僕には検討すらつかなかった。


 疑問は沢山あるが今の僕には答えを導き出すことは出来そうにない。何故か後悔するような気持ちでいっぱいだ。“間違えてしまった”理由はわからないがそう思う。


 酷く落ち込んだ気分で膝を抱えると、掌に【出るな】と赤いペンで書いてあった。


 僕が書いたのか?それとも別の人が書いたのか?戒めるような力強さで書かれた文字にゾクリと背筋が冷える。文字の端から赤いインクが垂れて、まるで血が滴っているかのようだ。呪いの言葉みたいに思えて怖い。


 とにかくこのままボーッとしてたって何も始まらない。謎のメッセージに恐怖を覚えた僕は立ち上がって建物の中を調べることにした。とはいえ、建物の中には何もない。だだ広いワンフロアの空間に永遠と銀色の壁が広がっているだけだ。スイッチもなければ、出入口もなく、窓も換気口すらも見当たらない。唯一あるとすれば、天井に設けられた蓋のような物だけ。ひょうたんのような形をした蓋だ。


「……ただの点検口か?」


 ピッタリと閉じられた蓋を見つめて考える。そうだと言われればそうにしか見えないし、違うと言われれば別のモノにも見える。奇妙だ。しかし、外に繋がってそうな出入口はアレしかない。だとしたら悩んだって仕方がないか。前に進むには開けるしかないのだ。 


 ありがたいことに足を引っ掛ける凹凸が壁に設けられている。わざわざ、こんな場所に足場を作るなんて変。これは、ひょっとしたら正解かも知れないぞ。そんな淡い気持ちを持ち、慎重に足場を登っていく。逸る気持ちを抑えて点検口をズラすと、泡が弾けるように光の粒子と風が吹き込んだ。


「うわ……」


 外に出たら視界いっぱいに夜空と星と見知らぬ花が広がった。蛍光塗料を塗ったみたいに淡く輝いてる。幻想的で綺麗だ。でも、おかしい。外の感覚はあるが、どう見たって外じゃない。だって真っ暗な空に見えるのは月じゃなくカラフルな惑星だ。それも埋め尽くす勢いの数。咲いている花も発光してるし、到底、地球だとは思えない。この場所はいったい何だ?建物の中?


「……ハジメ?」


 空を見上げていた僕の顔を愛らしい少女が覗く。まさか人が居るとは思っていなかったから面食らってしまった。驚きのあまり声が出ない。クルクルに巻いたツインテールに白いワンピース姿。紫の瞳が印象的な、無邪気さが残る14歳くらいの少女。華奢で可愛い。妖精みたいだ。しかし、温かい声とは対象的に瞳は冷たい。病んでる、僕が彼女に抱いた第一印象はまさしくそれだった。


 それにしても、やけに心臓が煩い。『ハジメ』というのは僕の名前だろうか?だとすれば有り難い。僕は“ハジメ”と言う名の少年。それが分かっただけでも収穫だ。



「あ、えっと……。君は、誰だっけ?」



 恐る恐る尋ねた僕に少女は一瞬だけ息を飲んだ。ピリッとした重い空気。悲しげに曇る少女の表情。


 しまった。もしかして知り合いだったか?記憶がないだけに無駄に焦る。よく知った人物だとしても記憶を失ってしまった今の僕に彼女が誰かなど分かるはずがない。



「ごめん。記憶がなくて」

「そう」

「僕達どこかであった?」

「えぇ」

「名前は?」

「……コナミ。それが私に与えられた名だ」



 ひと呼吸置くと少女は消え入りそうな声で僕に名前を告げた。パチっとした目が僕の思考を捉える。


 コナミか……。空っぽの頭の中に教えられた名を刻み込む。頭を支配しているのは、逸る気持ちと胸を掻きむしりたくなるような懐かしさだ。


 “懐かしい”そう思うんだから僕は彼女のことを知っているんだろうか?もしかして忘れているだけ?疑問が押し寄せる。



「ココは?」

「生誕と終焉の地」

「生誕と終焉?」

「宇宙の果て。魂だけが留まる世界」



 首を傾げた僕にコナミは睫毛を瞬かせ、この場所がドコなのか教えてくれた。


 次元が歪んだ場所。簡単に言えば異空間らしい。4次元、5次元……、そっちの世界。宇宙の始まりでもあり、終わりでもある場所。


 ここから旅立った魂は転々と星を変えながら生まれ変わり、最終的にはここへ返ってくる。天国とか地獄とか、そう言った類のモノ。他にも人が居たが既に消滅してしまった。残されたのは僕達だけ、だとか。



「そうなんだ…」



 熱心に語るコナミに苦笑いを向ける。疑いたくはなかったが、僕は彼女の話が信じられなかった。記憶がないとはいえ、僕は普通の人間としての感覚がある。不思議な話を聞かされて違和感を感じるのは仕方がないことだった。だってそうだ。そんな非現実な話。信じられるものか。



「どうすればココから出れる?」

「何もせずとも」

「勝手に出れるってこと?」

「えぇ」



 質問を浴びせた僕にコナミは静々(しずしず)と頷いた。待っていれば7日後に扉が現れて外に出れる、と。それを聞いて僕は喜んだ。何故ココに来てしまったのかは分からないが、とにかく待ちさえすれば外に出れるらしい。



「出たい?」

「そりゃね。出たいよ」

「そっか」



 頷いた僕にコナミは視線を落として口の端だけで笑った。コナミは外に出たくないんだろうか?そもそもコナミは何者だろう?随分、この世界に詳しそうだが、この地の番人みたいな者なのかな?外に出れると知り、安心したのか僕の頭には疑問が次々と浮かぶ。



「コナミは出たくないの?」

「私は出られない」

「なんで?」



 頭に浮かんだ疑問をぶつける。しかし、コナミは何も教えてくれなかった。口をパクパクと動かすだけ。どうやら教えるのは禁忌らしい。言えないもどかしさからだろうか。コナミは諦めたように口を閉じると瞳に哀愁を漂わせて、そっと瞼を伏せた。


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