バレンタインにコイをした。
今年もバレンタインですね。キュンキュンしますね。
めっちゃ実話の体でnoteにも載せてます。
胸の鼓動と手汗が止まらない。
ずっと好きだった水島さんが、
可愛い包み紙を持って登校してきたのに気づいてから。
その包み紙の中身が僕に向けられたものだったらいいのに。
そんな期待を打ち切るように昼休み終わりのチャイムが鳴った。
虚を見ていると、あまり話したことがない女の子が目の前でモジモジしていたことに気づいた。
そのまま僕の机に包み紙を置いて行った。
小さな勇気に、気づくこともないままその子の恋ははじけて消えた。
きっと僕が水島さんに告白しても同じことなんだろうと思うと申し訳なくて虚しかった。
正直知ってた。クラス1イケメンの鈴城くんとずっと仲よかったから。
斜め後ろの鈴城くんの机に積まれているチョコの山の一つに消えたんだ。
直視したくなくて学校が終わるまで一度も後ろを向けなかった。
トボトボ下を見て歩く帰り道。
坊主頭の田中の「お前今年チョコもらってんじゃん!」という羨望の声に苦笑いした。
田中との会話で、明るいテンションを保つのがしんどくて、「今日別のところに用事あるから」と田中を振り切って、回り道で、公園を通る道の方で帰ることにした。
僕の憂鬱を知らない田中は「青春だね〜!」なんておっさんぶってた。
やるせなくなって公園のベンチに座り込んでると、池の方からポチャっと音がした。
池の端に水島さんがいた。
可愛くデコレーションされた包装紙をくしゃくしゃにして中のチョコを取り出して、
一つずつ、池に投げ込んでいた。
咄嗟に、
「捨てるくらいなら、僕にくれよ!」
と叫んでしまった。
水島さんは困った顔をしていた。
「鈴城に受け取ってもらえなかったからってさ、」
「え?なんで鈴城くんなの?」
「だっていつも仲良さそうだったし、あっ、ごめん辛かったろうに掘り返して」
「え、これを鈴城くんにあげると思ったの?」
「うん」
「ないない。あんなにもらってる人にあげてもおもしろくない。みんなチョコあげてるじゃん」
「へ?」
絶対ないみたいな顔で首を振っていた。
「じゃあ他の人に、」
「いや、人じゃないよ。コイにあげてるんだ」
「え?」
水島さんがチョコを投げたあたりに無数にアホ面をしたコイが群がって口をパクパクさせていた。
「でも、これ、どう見ても手作りじゃないか、コイからしたらそんなんすらわからないんだよ、既製品と変わらないんだよ」
「だからするんじゃん!」
真剣そうな顔で水島さんが僕の顔を見つめる。
「受取り手は、私が作ったかどうかという情報じゃなくて、チョコそのものを判断して食べてる」
「コイなんて鼻くそでも食べるじゃないか!」
「でも誰もやったことないじゃない!」
水島さんも声を荒げる、
「私は、そういうことがしたかったの。わざわざ手作りして包装までしたチョコをさ、視力0.1もないドブ池に住んでるコイにあげる。こういう無駄をしたかったんだ」
夕日が彼女の白い頬を紅く照らす。
「これこそ、コイなんじゃないかな」
「全然違うと思うよ」
コイしちゃったんだ。多分、気づいてないでしょう♬