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戦の中

「今度の戦場、勇者様がついに出てきてくれるらしい」

「ああ、そういえば……将軍様んとこの神童も初陣らしいな」

「何かが変わっていっているんだろうな……よーし!俺だって魔物共を殺しつくして、英雄になってやるよ!」

兵士達が道端で談笑している。二人とも、三ヶ月後には戦場で骸を晒すことになる。


「ルーア様……準備は出来ましたか?」

髭をたくわえた初老の男が扉を叩く。その体は引き締まっており、歴戦の雰囲気を感じさせる。


金色の髪の女性が振り向く。その顔は凛々しく、目は猛禽類のような鋭さがある。

「ええ、行きましょう。ランドルフ将軍」

立ち上がる。彼女の背は以前より高くなっており、並の男性ほどもある。

靴音を立てながら歩く。彼女を見ると皆が道を開けていく。

彼女は以前とは比較にならない程、研ぎ澄まされた精神を持っている。

王宮の中で毒を盛られ、犯されたあの日以降、彼女の心は常に戦場にあったと言ってもいい。

それが彼女の立ち居振る舞いを作り、彼女自身の身体をより強固にしていった。

もはや、この地上に彼女の敵はいない。

……にも関わらず、彼女は全く笑わず、その瞳は時々、全てに対する敵意を剥き出しにする。

今もそうだ。

鳴り止まない拍手の中、彼女の目は暗く、怒っていた。



そして、王宮の端、人目を偲ぶような場所にある部屋。

その中では一人の青年と、小さな老人が話していた。

「……それで、将軍の失脚は、可能かね」

老人が青年に尋ねる。

「ええ、可能です。根回しも済んでいますし……あとは、この戦争を失敗させればそれで終わります」

「……失敗は許されんぞ、何のために、お前を軟禁されていた所から助けてやったと思っているのだ」

青年は返事をしなかった。代わりに、深々と一礼をした。

老人は満足そうに鼻を鳴らして、部屋から出ていく。


青年は、老人がいなくなった後の部屋で独りごちる。

「……痩せ細った老人風情が、お前こそ、誰のおかげで今生き長らえていると思っているんだ?」

もはや王宮内にネヴェルが警戒する相手は殆ど居ない。

彼はたった三年で、殆どの敵対勢力を潰したのだ。

残るは、勇者、それと実の父たる将軍、ランドルフ。

ネヴェルにはこの戦争で、両者を排除する考えがある。

彼は笑った。いまここに、彼の夢が成就しようとしている。




戦が始まった。いや、正確に言うならば、軽い小競り合いから、激しい戦いへ移行しただけだが。

もう何百年前から魔物と人間の戦いは続いている。何度も勢力は変化しており、人類が魔物を滅ぼす寸前まで行ったこともあれば、魔物が人類を滅ぼそうとしていたこともある。

この大地全てを賭けた戦争は、いついかなる時も火種として燻り続けている。

そして今、その火は、勇者という存在によって業火へと変わろうとしていた。



人類が待ち焦がれた勇者が、遂に最前線へと姿を見せる。

人類側のボルテージは最高潮に達し、一気呵成へ魔物達の砦に向かっていった。

それに呼応するかのように魔物達の士気も上昇し、戦場の火は激しく燃え上がる。

そんな時、ついに渦中の人物達が現れた。


「勇者様、副将軍のガリアと申します。遂にお姿を拝見でき、このガリア大変嬉しく思っております」

「副将軍、ガリアさん。知っています。

……共に、この地上を我らだけのものとしましょう」

ルーアはそう語りかける。ガリアだけではない。他のその場にいた下士官へと、隣にいるランドルフへと、偽りの言葉を、心にもない、空虚な言葉を言う。

その言葉を聞いた面々は興奮し、未来への希望を胸に返事をする。

……その場の全員が気付かない。ルーアを勇者として見ているからこそ、気付くことがない。

その言葉を吐いた時の彼女の瞳は、暗く濁っていたことを。

勇者の裏切る日は極近く、それは同時に、人類の衰退を意味していた。



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