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剣闘士  作者: ゴミゴジラ
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第一話

 「こいつなんていかがでしょうか 歳は10かそこら 体格は同い年と比べちゃあ 大きい方でしょ しかしなんて言っても手がつけられなくて躾に困ってるんです ほら試しに手を入れてみてください 噛みつかれますよ」


 「そうか なら試してみよう おう 本当に威勢が良いな なるほどこいつはおれが求めてる奴隷かもしれん いくらだ 値段は勉強してくれよ」


「もちろんですとも 私としちゃあ こんなに手をつけられない奴隷を買い取ってくださるのですから そうですねぇ 金貨5枚で良いですよ このぐらいの男の子は男娼やら なんやらに買い手がつくもんですけど こいつはダメでしたからね」


「よし 買った 金貨5枚だ ほらよ こいつを鍛えて剣闘士として 金を稼いでもらうとしよう 死んでは困るがまあ 仕方あるまい その生が尽きる最後の瞬間まで俺のために戦ってもらおう」


「毎度ご贔屓に 奴隷の登録は済ましておきましたからどうぞしっかりと役立ててくださいよ そいつが有名になったら宣伝になりやすから」


 こうして俺は剣闘士として買われた。家族まで殺され、人としての尊厳まで奪われた俺は見せ物の獣としての生活を余儀なくされた。俺だって奴隷が売られた後の扱いはゴミ以下だって理解していた。しかし俺の生活はそんなもんじゃなかった。飼い主が持っている豚小屋が俺の寝床だった。豚の糞と共に寝起きする毎日。飯は豚が食べるものと一緒で飼い主の残飯があったら運がいい。育ちざかりの俺には到底十分ではなく体力は日に日に減って行くばかりで一向に回復しない。


買い主が言っていた。剣闘には年齢制限が設けられていると。曰く幼い剣闘士は瞬殺されてしまい賭けにならないそうだ。お前が一定の年齢に達するまで外の世界に出て化け物を殺してもらうと。精々頑張るようにと言われた。上等だやってやると思っていたが現実はそんなに甘くはなかった。


買い主は俺に寂れた剣を渡し外の化け物の巣へと連れて行かれた。寂れているとはいえども剣は重く子供の俺が振るには筋力が足りていなかった。だがそれでもやらなければならない。なぜなら剣闘士には自由を買い取る事が認められているからだ。剣闘に勝ったときに褒美として貰える金があるらしい。それで自分を買い戻した剣闘士もいるにはいる。それまでは絶対に死なないと決意を新たにして巣の中へと入って行く。


洞穴のようだが俺の匂いが臭いからだろうかとてつもない雄叫びと共に大人よりも大きい鹿の様な生き物が出てきた。しかし鹿にはない長い尻尾と鱗のような体表。そいつは俺を確認するのと同時に突進してきた。速い。しかし体格差のおかげで避けることができた。大きすぎるが故に足元がお留守のようだ。今更になって足がすくむ。 鹿がもう一度突進の構えをとる。震えが止まらない手で剣をしっかりと握りすれ違いざまに切りつけようとしたが、弾かれた。なんて硬さだ。そのことに気を取られて鹿がいつのまにか突進の構えをしていたことに気がつかなかった。すかさず避けようとするが間に合うわけもなく真っ向からくらった。


とんでもない衝撃と共に壁に打ち付けられ気を失った。気がついたらいつもの豚小屋で寝ていた。起きあがろうとすると胸に痛みが走り思わずうめいてしまう。

よくみると手当されている。誰がこんなことをと思っていると買い主が現れた。


 「生きているか 大したものだ まだ死なれては困る。 まだ1銅貨もお前から回収していないのだからな。 だからこれを食べろ その怪我が治ったらもう一度あの化け物を倒しに行くぞ」


 と差し出されて飯はお粥だった。薬草やら鶏肉やらが入っている。俺でも知っている薬草だった。


 「どうして俺を助けた 俺は奴隷だ 死んだらそこまでの存在だろ 確かにあんたの物だが、あんな化け物から俺を連れて帰るほどの存在じゃない 一体どうして」


「ふむ 少し昔話をしよう。ある男がいた。そいつは他者を簡単に捻り潰せるほどの力を持っていて富も名声も思うがままにした。しかしそんな奴でも老いる。戦いに出ることもできなくなったその男を誰も見向きしなかった。その男は愚かだった。失ったものに気づくのが遅すぎた。だから自分の代わりとなる存在を必要とした。」


「何が言いたいんだ ガキにそんなこと言って理解できねえょ」


「まあ そうだな。つまり精進しろ。あの鹿は後ろ足の鱗は脆い。お前の剣でも切れるはずだ。剣を振る時は腕で振るのではなく体で振れ。そうすればお前の力でも威力が乗る。」


急に買い主がそうやって話し始めたからすっかり毒気が抜かれてしまった俺は生返事を返すことしかできなかった。しばらくぼうっとしていたが自分の手の中のものに気づいた。もらった粥を急いで食べる。久方ぶりのまともな飯だ。なんてうまいんだろうか。家族と食べた以来の普通の飯だ。残飯でもなんでもない。がむしゃらに食べた。気づいたら空になっていた。


 一週間ほどそんなご飯をもらった。あんなに酷かった傷は塞がりつつある。そんな中 買い主がやってきた。


 「明日 もう一度あの場所へと向かう。あいつに勝ったらそうだな 褒美をやろう なんでも良い 言ってみろ」


「それじゃあ 俺に剣を教えてくれ 俺はもっと強くなりたい。 あんな鹿を簡単に殺せるぐらいにもっと強く。」


「なるほど そうきたか。わかった。約束しよう。お前を最強の剣闘士にしてやる。それならば早く寝ろ。 剣闘士に必要なものはどんな場所でも休むことができることだ。」


そう言うと買い主は上機嫌に自分の家へと戻って行った。あんなに上機嫌なのは初めて見た。鼻唄なんか歌って帰って行った買い主の後ろ姿を見るとふと父のことを思い出した。


 父は猟師だった。大きい鳥を仕留めた時はあんな感じで上機嫌に歩いていた。父は奴隷狩りから最後まで母と俺を守って死んでいった。俺も父のように戦えるだろうか。抗えるだろうか。しかし悩みなんて些細なものだ。俺は明日生き残る。剣闘士として成り上がり奴隷から自らを解放するためにこんなところで死ぬわけにはいかない。この前のような失敗は絶対にしない。明日への決意を固め床についた。


「わかっていると思うがあの鹿の弱点は後ろ足だ。すれ違い様に切り付けるのは難しい。 限界まで引きつけてから最小限の動きで避け 渾身の一撃を叩き込め」


 その言葉を背にあの巣へと入って行く。前回同様向こうから来てくれた。


 「こんなところじゃつまづいてられないんだ。 絶対に生きて帰る。 リベンジマッチだ。 さぁ来い!!」

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