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96. 捕獲作戦の決行

 二人は賭博会場から出ると、そのまま一旦屋敷の庭に出て、手袋を投げ捨てた。


 それから屋敷の庭で待機している馬車の運転手に、無人のまま公爵邸へ帰るように促すと再び屋敷に戻った。


 マリーはオリバーに寄りかかると、具合が悪いふりをしてフラフラとした足取りで屋敷内を歩き始めた。


 一階にいた警備兵も、オリバー達以外にも屋敷を徘徊する者が後を絶たなくなったため、この二人のことを怪しむようなそぶりはなかった。


「このまま真っ直ぐ行くと、地下への階段があります。見張りの者が数名います」


 マリーがそういうとオリバーは黙って頷いた。



 二人が地下へ続く階段の付近まで歩くと、そこには見張りの警備兵が三人立っていた。マリーはオリバーにもたれかかるようにフラフラと歩き、警備兵の方へ近づいた。


「ここから先は通すことができません。賭博場の方へお戻りください」


 警備の男の一人がオリバー達に声をかけた。


「私のレディが気分が優れないのだ。お手洗いがこちらにあると聞いてきたのだが」


「こちらにはございません」


「ではそこまで案内しろ」


 オリバーは苛立ったように言った。警備の男達は顔を見合わせていた。


「承知いたしました」


 そのうちの一人がそう言うと、オリバー達に背を向け、賭博場のある方へと歩き始めた。


 その時だった。


 マリーは男の背後に静かに近寄り、隠し持っていた毒を塗った短剣を男の首に突き立てた。そして、抵抗できず、膝から崩れ落ちる警備の男の腰から剣を奪った。マリーはすばやく短剣についた血を男の服で拭い取り、再びガーターベルトにつけると、奪った剣を両手で構えた。


 オリバーも二人いた警備の男のうち、小柄な男の方に狙いを定めて飛び込んで剣を奪うと、男の脇腹を刺した。男はそのまま倒れ込んだ。それからオリバーはもう一人の男に剣を向けた。


 残った男がオリバーに斬り掛かった時、マリーが横から剣でその男の首を斬った。


「斬る時はできるだけ急所を狙ってください」


 マリーは何事もなかったかのように言った。


「わかりました」


「では、地下に進みましょう」


 地下道に灯りはなく二人は真っ暗な中、手探りで長い階段を降りていった。階段を下り切ると、地下通路が広がっていた。ところどころ蝋燭が灯されている。そして確認できるだけでも五人の警備の男達が見張っていた。


「五人くらいであれば、行けそうです。マリーは私の後ろに」


 オリバーはそう言うとマリーの一歩前に出た。


 マリーは黙って頷くと、オリバーの後ろで剣を構えた。


 オリバーは走り出し、一番手前にいた警備兵に斬りかかった。その様子を見た残りの四人もこちらに向かって走って来た。マリーもオリバーの後ろで、剣を構えた。


 オリバーは軽々と三人を斬り倒して行った。残りの二人が同時にオリバーとマリーに斬りかかった。オリバーはあっさりと男を斬り捨て、残された一人の男がマリーと対峙していた。


「剣を捨てろ」


 そう言ってオリバーは残った男に剣を向けた。男はあっさりと剣を捨て、両手を上に上げ降参のポーズを取った。


「宝石商がいる部屋まで案内しろ」


 オリバーは喉元に剣を当てると言った。男は黙って頷いた。



 オリバーは剣を向けたまま歩き始めた。


 地下通路の両端にはいくつか隠し部屋があった。


 男はしばらく歩き、小さな扉の前まで来るとこちらを見て立ち止まった。


「確認したいことがあるから、扉を開けるように言うんだ」


 オリバーが小声でそう言うと男は黙って頷いた。男は扉をノックした。


「護衛の者だ。ちょっと確認したいことがある。開けてくれないか?」


「……まず合言葉を言え」


 中から返事が返ってきた。男は再びオリバーの方を見た。オリバーは目配せをし、合言葉を言うように促した。


「東の太陽、西の月」


「……」


 男が合言葉を言うと、しばらくして扉が静かに開いた。



 オリバーはその場で護衛の男を斬り捨て、マリーと共に中に入ると扉を閉めた。


 薄暗く狭い部屋の中には、小さなテーブルがあり、三人の宝石商がテーブルを囲んでいた。テーブルの上には宝石が所狭しと並んでいる。


「そのまま動くな」


 オリバーとマリーは剣先を向けながら言った。


 宝石商達は突然のことに、何が起こっているのかわからないという顔を浮かべていた。


「動いたら殺す」


 オリバーがそう言うと、宝石商達は黙って頷いていた。


「両手を頭に付けたまま立て」


 宝石商達は一斉に手を頭に付けて立ち上がった。


「一人ずつ、着ている服を脱げ」


 オリバーが服を脱ぐように促すと、三人は順番に渋々と言った様子で服を脱ぎ、下着だけの姿になった。


 マリーは、宝石商が着ていた服を使い、一人ずつ縛り上げて、猿轡をかけた。


 オリバーは首から麻のタイを外して、三人が単独で動けないよう、そのタイで三人の宝石商を繋いだ。


「行きましょう」


 オリバーとマリーは顔を見合わせると頷き合った。


「私が地下道の扉まで煽動します。このまま下水路に続く扉を開け、一気に兵達を突入させます。オリバーは殿しんがりを頼みます」


 マリーはそう言うと、再び地下室のドアを開けた。



 宝石商達がいた小部部屋より先に、灯りはない。


 外に出ても見張りの気配はなく、あたりに殺気は感じられなかった。二人は宝石商を連れて、暗がりに向かって歩き出した。


 マリーが先頭に立ち、その後ろを宝石商達が歩き、一番後ろをオリバーが歩いた。


 壁づたいに、ようやく屋敷の隅にある地下道への扉まで辿り着くところまで来た時だった。



 微かに足音が聞こえた。


「後ろから、見張りのものが来ています」


 マリーが声を出した瞬間、明かりを持った数人の男が二人に襲いかかってきた。


 オリバーとマリーは暗がりで背後からの攻撃をかわした。オリバーは襲ってきた男の足元を蹴り上げて男を倒し、その男の脇腹を刺した。マリーも襲いかかってきた男の首に剣を突き立てた。


 もう一人の男が隙を見てマリーに襲い掛かろうとしたが、オリバーがその男に斬りかかり、男はその場に倒れ込んだ。。その隙にマリーはもう一人の懐に飛び込み心臓を刺した。


 四人の見張りの男を倒し、宝石商と共に先を急ごうとしていた時だった。


 暗闇に紛れて残っていたもう一人の男が背後からオリバーを切りつけそうになった。


 その瞬間、マリーは素早くオリバーとその男の間に入り、覆い被さるようにしてオリバーを庇った。


 男は躊躇なくマリーの背中を切りつけた。マリーは背中に熱い衝撃を感じその場に倒れ込みそうになった。しかし、なんとか両足で踏みとどまり、グッとかがみ込んで、体を反転させた。


 そして、髪に差していたかんざしを引き抜き、襲いかかってきた男の喉仏に突き立てた。男はその場に倒れ込んだ。


 マリーは力無くその場にしゃがみ込んだ。


 マリーはかなり広い範囲を斬られているようだった。斬られた背中が脈打ち、血が流れ出ているのを感じる。それでも、コルセットのおかげで傷はそれほど深くないはずだ。マリーは、これまでだってどんな痛みにも耐えてきたのだから、このくらいの傷の痛みなど耐えられると、自分に言い聞かせた。


 赤いドレスを着ていたため、怪我をしていることは、オリバーには悟られないだろう。


 マリーは気力を振り絞って再び立ち上がった。


 オリバーはマリにー駆け寄った。


「マリー、大丈夫ですか?」


「……私は、大丈夫です。もう少しで地下道の扉です。早く進みましょう……」


 そう言うとマリーは何事もなかったように歩き始めた。


 暗闇の中をしばらく進むと、ようやく鉄の扉を見つけ、二重にかけられた鉄の間抜きを外して扉を開けた。



 扉の外には、ランタンを持った騎士達が兵と共に待機していた。


 宝石商は騎士に引き渡され、待機していた兵達は屋敷に突入して行った。


 兵達が突入する姿を見届けたマリーは、その場に崩れ落ちた。


「マリー!」


 オリバーがマリーを抱き止めると、ぬるっとした生ぬるい感触を感じた。嫌な予感がした。


 赤いドレスを着ていたために気が付かなかったが、マリーは背中を大きく斬られ、血が大量に流れて出ていた。


 マリーの顔からは血の気が引き、ほとんど意識がなくなっている。


「マリーが斬られた! 至急来てくれ」


 オリバーはそう叫ぶと、着ていたブラウスを脱ぎ、斬られた背中を止血した。


 二人の騎士が駆けつけ、ブラウスで包まれたマリーを抱き抱えた。


「すぐに私の屋敷に運べ! それから医者の手配も! 急げ!」


「御意」


「私は現場に残る。お前達はマリーを頼む!」


 オリバーはそう言うと、再び屋敷の地下通路に消えて行った。


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