表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/108

9.  皇太子と密輸と汚職問題

 翌朝、目を覚まし準備を終え朝食を摂ると、ルイは会議室に向かった。


 ルイは今回、この宝飾品の密輸と、その組織的な犯行に関する報告のために呼ばれていた。


 ルイが会議室に入るとすでに王と役人たちは揃い、意見を交わしていた。

 王がルイに目配せをし、側近を呼んでお茶の用意をさせた。


 今回の密輸を追っていた役人の担当者が今回の経緯を手際よく説明した。


「今回、我が国で出回っていた宝飾品は、おそらく本国に旅行で訪れたトルアシアの貴族によって買われています。


 買われた宝飾品は関税を通さずトルアシアに持ち込まれ、その後闇の流通に乗せられています。わかっている限りでは二人以上の宝石商の手に渡った後、足がつきにくい状態となったその貴金属はトルアシアの貴族に売られています。


 貴族の手に渡った後、再び宝石商を介して宝石協会に持ち込まれ、その後宝石協会の鑑定書が付けられた値段で再び流通されています。


 鑑定書がつけることにより実際の値よりも約1割程、値を上乗せしているようです。上乗せされた価格で再び教会に所属している宝石商にそれらの宝飾品を卸しているのです」


「何? それは本当か?」


「はい。また、ピンハネした分の利益はブルスト教が主宰するチャリティーオークションで寄付という形で使われ、お金はブルスト教会に流れています。


 ブルスト教会と結託している貴族が今回の資金集めの黒幕とも言えますが、アルメリアの国外で起こっていることのため、我々の調査ではこれくらいしかわかっていません。


 こちらで名前を把握しているのはハンブルグ侯爵家、スミス侯爵家、リチャード伯爵家です。」


「貴族の名前まですでに把握しているのか。私もその名前には聞き覚えがある。ハンブルグ侯爵は確かに貴族の中でもチャリティーへの意識が高い。


 骨董品や絵画への造詣が深いので、絵画のオークションの出展に関わることも多い家柄だ」


 ルイはハンブルグの侯爵の顔を思い出していた。議会でも大きな発言権を持ち、トルアシアの中央集権の中枢にいる家柄だった。


「なるほど、これは厄介だな」


「アルメリアとしましては、トルアシアの国で起こることに関してとやかくいうことはできません。

 

 ただ、本来かけられるはずの関税がかけられていないということについては、多少なりとも損害が出ているというのが現状です」


「確かに。大きい小さいではなく、アルメリアにも損害が出ているということは非常に問題であろう」


「最初にアルメリアで宝石を買った者の足取りは掴めているのか?」


「はい。こちらが把握している者が、何名かおります。決まって男爵家の貴族で、金で雇われているのでしょう。今回のルートを探るため、これまで泳がしておりましたが、現在は出国の際の取締りを強化しています。


 ただ、この売人は毎回変わっているので、現場を抑えないことには取締るのは難しいのが現状です」


「なるほど」

ルイはアルメリアの役人の話を黙って聞いていた。


「それから。これは非常に申し上げにくいことではございますが、今回の件を調べておりましたらトルアシアの現皇后陛下のご実家であるハンプシャー家も関与されていることがわかりました」


 とアルメリアの役人は申し訳なさそうにルイにそう伝えた。


「何、どういうことだ」


 ルイは思わず役人を睨んだ。


「はい。僭越ながら申し上げます。アルメリアが調べられる範囲での話ではございますが、トルアシアの権力も一枚岩ではないと存じております。


 議会で権力を持つ大きな派閥は現在皇帝派が六割弱、中立派が三割程度、それからあまり力を持たない地方貴族が一割程。しかしこの力を持たない貴族は、現在は皇帝派の派閥に属しているフリをしています。


 もし、今後議会の力関係が変わった時には、どの派閥に属するのかはわからない、そう言った意味では非常に危うい存在と言ったところです」


「うむ。まさにその通りだ。派閥の力関係が変わる、ということか?」


「その通りでございます。現在、トルアシアは皇帝陛下の力の元、統治されている状態です。今のまま行くと、おそらくルイ殿下が後継者となられることでしょう。


 しかし問題はルイ殿下が皇帝の座に着いた後の議会の派閥です。現在、皇帝派と呼べる存在は約六割ですが、もしもその派閥の中から買収されるものが現れた場合、今後の政治運営は大きく変わりますでしょう。


 今の六割のうちの一割でも買収されるものが出てしまった場合や、地方貴族がそれに肩入れした場合、今ほど物事は円滑に進まなくなるでしょう。


 私利私欲に目が眩んだ者達が今後さらに結託する可能性が危惧されるというのが我々アルメリアの見解です。


 その兆しが今回のこの宝石の件でも見え隠れするのです。そして、この件には現皇后のご実家であるハンプシャー侯爵家も関わっておられます」


「母上もこの件に関与している可能性がある、ということか」


「残念ながら、皇后自身が関与しているかどうかまでは今の我々には判断できません。


 ただ、議会でも権力を握るハンプシャー侯爵家が今回の件に関わっているため、皇后自身が清廉潔白とも考えにくいというのが我々の見解です」


「父はそれを知っていて、私をアルメリアにやった、そういうことだな」


「はい」


「そうか。よく調べたな。ご苦労であった」


ルイはそう言うのがやっとだった。


 アルメリアの調査員は一体どこまで他国の事情を把握しているのかと思うほどに、トルアシアの情報は全て筒抜けであることがわかった。


 それ以上に、身内の裏切りを他国の役人から聞かされるほど情けないものはなかった。


 アルメリアの王はずっと黙ってこのやりとりを聞いていた。


「アルメリアは、どうやってこの情報を得ているのですか?」と王に問うと王は涼しげな顔で「はは。それこそ国家秘密ですな」と笑った。


 アルメリアは国規模で言うとそこまで大きな国ではない。トルアシアからしてみると小国ともいえるだろう。


 しかし、周辺諸国との関係性、経済の健全性、国の豊かさ、国民の幸福度、全てを総合的に判断した時に、トルアシアにはない安定性を感じる。


 そして、発展する未来への希望が見えるのだった。その希望はこの国に住う国民にも見えているのだろう。街に出た時に、ルイはそれを感じていた。国全体が生き生きとし、民はこの王に敬意と畏怖を抱いているのがよくわかる。


「アルメリアは我が国とは全く違った統治を行い、そしてそれがうまく機能しているのですね」

 とルイは言った。


「我が国は小国であろう。トルアシアのような大きな国とは、根本的にやり方も考え方も違うのは当たり前のことだ。


 ただ、私はこの国を、そして周辺諸国を自分の家族だと考えている。常に王は国民と共にあり、家族共に発展する。これがアルメリアのやり方だ」


 と王は目を細めた。


 ユーリも「家族」と言う言葉を使っていた。ルイは自分にとっての家族と、彼らにとっての家族の意味が違いすぎていることを改めて感じて、胸が痛くなった。


 皇后である母について、ルイはあまり良い感情を持ったことはなかった。しかし、彼なりに距離を取り、うまく付き合っているつもりでいた。


 しかし、それ以上に皇后のことを知ろうとはせず、なるべくであれば関わらないように過ごしてきた。それが裏目に出ていたのだろう。


 大事なことを見落としていたのかもしれない。弟である第二皇子であるマティスはお世辞にもあまり政治向きであるとは言えないが、彼らの腹の中をルイは計りかねていた。


 これまで、特別に憎いとも思ったことはなかったが、この国の行末を考えた時、皇后に大して明るい気持ちにはなれなかった。


 暗い顔をしているルイを見て、アルメリアの王は口を開いた。


「私はアルメリアの王でもあるが、君の父上とは古くからの友人でもある。なるべく穏便に物事が進むよう、出来る限りのことはしたいと思っている」


「ありがたきお言葉にございます」


 ルイはその言葉に少し救われた気がし、この王の言葉は信じてもいいかもしれないと思った。


「また追って君の父上に使いをよこすことにしよう」

 と言う王の言葉により、今回の会議は閉会となった。


ルイはその足で急いでトルアシアの帰路に着いた。


この度はお読み頂きまして、誠にありがとうございました。


もし、よろしければ最後までお付き合いいただけますと幸いでございます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 問題が発覚して、とてもワクワクする展開ですね。本来なら訳が分からなくなってしまいそうな内容を、とても上手な文章で分かりやすく書いていただいたため、すんなり把握することができました。 [一言…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ