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78. 過去を知る者

 翌朝、アリエルはルノー公爵夫人が準備した私兵の制服に着替えて部屋を出た。


 エントランスホールには騎士隊も揃っている。その中にシモンの姿もある。公爵夫人の計らいにより、私兵の制服を借りることができ、皆ルノー公爵家の私兵に扮している。ルイも宮廷服が目立たないように、フードがついた外套をすっぽりとかぶっている。


 ルイとアリエルは夫人が用意してくれていたルノー家の馬車に乗り込み屋敷を出た。私兵の制服を着た騎士隊が前後を取り囲んでいる。傍目にはルノー家の人間が街に出ているようにしか見えないだろう。


 ルイとアリエルを乗せた馬車はモンテッサの市街地を通り過ぎ、あまり舗装されていな少し外れた場所まで来た。


 市街地を越えると、家はまばらになっていた。ほとんど周りに建物のない、領地の外れにある山の裾野にその家はあった。


 家の周りは膝丈の草で覆われている。その家に続く道は細く、馬車はとても通れるような道ではなかった。


「ずいぶん、荒んだところに住んでいるのだな」

「ええ。本当にひっそりとお住まいのようですね」

「ここからは歩いて行こう」


 そういうとルイは馬車を降りた。シモンが先導し、騎士隊がルイとアリエルを囲う形で細い道を歩く。


 馬を降りたシモンは、ドアをノックした。


 しばらくすると、老齢な女性の声が聞こえた。


「……はい。どなたでしょうか」


「皇室の使いで参りました。こちらにムハンマドさんはおいででしょうか?」

「……」


 しばらく沈黙が続いていた。


 すると、ドアが開き、白髪の高齢の女性が顔を出し、青白い顔をして深く頭を下げた。


「……主人はもう、ずいぶん前から病に伏せっております。どうか、このまま安らかに逝かせてやってくださいませ。どうか、どうかお願いします……」


「ご夫人、頭を上げてくれ。私たちはあなたの夫を取り立てに来たわけではない。話を聞かせてもらいたくて来たのだ。主人のところに案内してもらえないか?」


 ルイは務めて優しく諭した。


 老婆はしばらくの間、ルイの顔を見つめて沈黙していた。


「……狭いところですが、中へどうぞ」


 老齢の女性は小さな声でそういうと、ルイ達を中に招き入れ、ムハンマドが眠る部屋へと案内した。


 案内された部屋は、粗末なもので、痩せ細った老人の男が床に臥せっていた。


 ルイは被っていたフードを取り、老人の顔を見た。


「突然の訪を許せ。私はトルアシア帝国皇太子のルイだ。どうしてもあなたに尋ねたいことがありここまで来た」


 ルイがそういうと、ムハンマドは微動だにせず、その目だけをルイの方へ向けた。


 ルイは、ブルーサファイアのブローチを老人に見せた。


「このブローチに見覚えはないか?」


 そのブローチを見たムハンマドはしばらくの間、驚きのあまり言葉を失っていた。それからゆっくりと上半身を起こした。


「……ルイ皇太子殿下にご挨拶申し上げます……」


 掠れたしゃがれ声で頭を下げた。


「堅苦しい挨拶は不要だ。あなたの知っていることを聞かせてくれ」


「……それは……申し訳ございません。前皇后陛下とのお約束ですので、いくらルイ皇太子殿下でも、私の口から申すことは致しかねます……」


 とムハンマドは言い、口をつぐんだ。


「やはり、お前は何か知っているのだな?」


「……」


「今は、時間がないのだ。頼む、知っていることを教えてくれ」


 ルイはくい下がった。


 それでもムハンマドは黙っていた。しばらくの間、沈黙が続いていた。


 その時だった。


「……ルイ殿下、昨日の皇后の遺言の本をお見せしてはいかがですか?」


 アリエルは静か言った。


 ルイは頷き、胸元に入れていた皇后が残した児童書をその老人に手渡して言った。


「この本は、母が私に遺言として残したものだ。いずれ、わかる時が来たら、私が真実に辿り着けるよう、託されたものだ。頼む。どうか力を貸してもらえないだろうか」


 ムハンマドは、ルイから本を受け取ると、骨ばった細い手で震えながらページをめくっていった。


 ムハンマドはしばらくの間、天を仰ぎながら何かを考えているようだった。しばらくして、ぼそぼそと口を開いて喋り始めた。


「……そうでしたか。立派になられましたな、ルイ皇太子殿下……私が一度殿下をお見かけしたのは、まだ殿下が幼子の頃でした。その時もその本を大事に持っておられた……そうでしたか……皇后が……この本を……」


 ムハンマドは、その本を閉じ、ルイに返した。


「……わかりました。お話しましょう……人払いをお願いできますか?」


 ムハンマドはそういうと、護衛を見渡した。


 ルイは家の外で待つように目配せをした。


 アリエルも皆と一緒に退出しようとした時、ルイはアリエルの手を掴んで引き留めた。



「あなたには一緒に聞いてもらいたい」

 ルイはアリエルの目を見つめた。


「……でも、よろしいのですか?」


「ああ、そのためにあなたはこんな格好までして、ここまで来たんだろう?」


 ルイは繁々とアリエルの姿を見つめた。


「……でも……」


「私の婚約者だ。一緒に話を聞く。構わないな?」


 ルイがそういうと、ムハンマドは驚いた顔でアリエルの方を見ていた。


「……こちらが未来の皇后になられるお方か。なんとお美しい方だ……」


 と言って微笑んだ。


「……では、私のわかる範囲のことはお話しましょう」


 ムハンマドはそう言うと、ルイとアリエルの前に居住まいを正した。


お読みいただきましてありがとうございました^^


楽しんでいただけましたら幸いです。

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