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7.  再会と髪飾り

 こんなにも早くアルメリアに赴く機会がやってくるとは思ってもみなかった。


 アルメリアから密輸された宝石が、年々増えているという情報はトルアシアの政府も掴んでいた。


 闇の宝石商と貴族とが結託しているといこともおおよそはわかっていて、黒幕とされるだろう、貴族もいくつか話題に上っていた。


 しかし、ブルスト教会まで関わっていると言うのは、トルアシアでも掴み切れていない情報だった。


 それをアルメリアの情報機関は既に調べ始めていると言うのを父から聞かされたときは驚いた。


 アルメリアの情報機関はルイが考えるよりもずっと精度が高く、綿密な調査を行っていた。


 ルイは今回アルメリアの調査結果とこちらで掴んでいる情報のすり合わせるをするため、アルメリアに派遣されることとになったのだった。その時にふと頭を過ぎったのがデューク伯爵家だ。


 デューク伯爵はこの件に関わっているのだろうか。悪い方に関わっていて欲しくはないと思うと同時に、ユーリの無邪気な顔が脳裏に浮かんだ。


 だから今回のアルメリアへの旅では、デューク伯爵家が営んでいる宝石店にも顔を出すことにした。


 しかし、それはただの言い訳でしかなかなく、単純に、もう一度あの娘に会いたいと言う気持ちがあった。


 そのため、多少無理をしてもアルメリアの王都の街へ寄ることを旅程に入れ込んだのだった。


 久しぶりに会ったユーリは相変わらず美しく、溌剌としていた。彼女にエメラルドを贈ったのは、ユーリの瞳の色だったからだ。


「豪奢な髪飾りも似合うが、あの奥ゆかしい美しさにはきっと金の小ぶりな髪飾りの方が似合うだろう」

 と思った。


 そんなことまで考えてしまうなど、どうかしているな、とアルメリアの城に向かう馬車の中で思い出しては苦笑いした。


 帰り際、ユーリから渡された短剣を手に取ってみた。


 短剣の鞘にはエメラルドとダイヤが埋め込まれていた。短剣を手渡して来た時のユーリの悪戯な笑顔が目に浮かんだ。

 

思わず、口をついて出てしまうくらい彼女は美しかった。


 *


 城に着くとすぐに謁見の間に通され、アルメリア王と皇后と共に席を囲んだ。


「よくいらしてくれた」


 と王と皇后は歓迎の意を表した。


 アルメリアの城は、簡素で美しく、そしてどこか暖かい造りだった。トルアシアの城とは何もかもが違っていた。


 アルメリアの王は、どこか見たことがある面影をしているような気がした。


 そして、皇后を見ているとなんとなく、ユーリを思い出させた。きっと、この国の美しい人の基準は皇后なのだろうなという思いが湧いた。形式的な挨拶を済ませると、すぐに晩餐の時間になった。


 今回の訪問では、ルイのためにアルメリアの王族が集まる晩餐会が用意されていた。


 正装したルイは、丁重に晩餐会の会場へと通された。


 そこには、アルメリア王、皇后、王子と王太子妃、三人の王女とその配偶者が参加していた。どこか家庭的で暖かい雰囲気のある会場で時間と共に皆が集まり席についた。


 しかし、末席の一つは晩餐会が始まっても空席となったままだった。


「我が娘たちは美しいだろう」


 とアルメリアの王は笑顔でルイに皇后と王女達を紹介した。

 三人の王女はそれぞれ美しく、明朗快活な女性達だった。


 しかしこの日はまだ、四人目の王女は姿を見せていない。この国の第四王女は病に伏せりがちで、あまり顔を出すことがないと聞いたことがあった。


 おそらく空席になっているのも、きっと第四王女のために設けられた席なのだろう。今日も体調がすぐれないのかもしれない。しかし、こうして席を設けているのは、家族なりの配慮だからなのだろうと思った。


 食事の時間が半分ほど過ぎた頃だった。晩餐会場の後ろのドアが静かに開き、側仕えに手を引かれた女性がふらりと入って来た。


「お父様、お母様、遅くなり、大変申し訳ございません」


 消え入りそうな声で挨拶をする女性の方をルイはチラリと見た。


 灰色に染まった髪は良く梳かされてはいるが艶はなく、全体的に精気が感じられない顔色に、目の周りは隈に囲まれている。


 それを隠すかのように大きな眼鏡がかけられていた。


 身につけているドレスも体型を隠すためなのか、ひとまわり大きい、お世辞にも似合っているとはいえないものだった。


 彼女が第四王女だと言うことはすぐにわかった。


「おお、私の可愛いアリエル。こちらに来て、顔を見せておくれ」


 と王は大げさに第四王女を呼び寄せた。


「はい、お父様」


 そういうと第四王女はアルメリア王の側に近寄った。


 アルメリア王は、何か彼女に何か耳打ちした。そして、そのささやきに第四王女は微笑んだ。


「殿下、私の愛娘であるアリエルだ。よろしく頼む」

 とアルメリア王はルイに第四王女を紹介した。


 ルイは立ち上がり、


「トルアシア帝国より皇帝の使者として参った。皇太子のルイ・ハーノバーです」


と挨拶をした。


「トルアシア帝国より、ようこそおいでくださいました。ルイ・ハーノバー王太子殿下にご挨拶申し上げます。アルメリアの王の四番目の娘、アリエルにございます」


 アリエルは消え入りそうな声で、俯きがちに膝を曲げた。


 ルイが相槌を返すと、静かに礼を返した。

そして静かに自分の席を探し、末席に腰を下ろした。


 その様子を、皇后を始め兄弟たちは黙って見守っていた。


 その後も第四王女が話に参加するとはなく、ただ静かに食事を共にしていた。そして食事が終わると誰よりも早く晩餐会の会場から消えた。


 ルイは特に彼女について思うことは何もなかった。おそらくアルメリア王をはじめ、彼女の家族は彼女がその場に参列させたことに意味があるのだろうという程度にしか考えていなかった。


 さして彼女に対して興味が湧くわけでもなく、だからと言って彼女に同情するような気にもなかった。


 それよりも、これから大きな問題になりそうな宝飾品の密輸に関することが頭をもたげていた。


この度はお読み頂きまして、誠にありがとうございました。

読んでくださっている方がいることが非常に励みになっております。


もし、よろしければ最後までお付き合いいただけますと幸いでございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 描写が細かく描かれていて情景を想像しやすいです。そして文章に工夫がみられ、とても興味深いです。 [一言] とてもドキドキしました。二人の関係がもどかしい展開ですね。読んだときはとても続きが…
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