68. 小さな約束(第2章最終話)
会食を終えると、ルイと従者と護衛を残し、各々闇に紛れて帰路についた。
二人は久々に執務室のソファに隣り合って座り、会議で持ち込まれた書類に目を通していた。
「どうやら、伯爵令嬢との逢瀬は最後になりそうだな」
ルイは優しい声を出した。
「ふふ。私、殿下と一緒に帝都の街に出かけることができて、とても楽しかったわ」
「明日以降は私の婚約者として、堂々と城に招くことができる。どうか手を貸して欲しい」
ルイはそう言うと、アリエルの手を取り、甲にキスをした。
「ええ、もちろんです、殿下。……でもこの国を支えているものが、根底から覆るかもしれません……」
「腐敗した主柱は、放っておけばいずれ倒れる。ただ、黙って倒れるのを見ているか、自分の手で倒すかの違いだけだ。私は、その支柱が倒れたとしても、これから新しくこの国を支える者達が必ず現れると信じている。そして、あなたも間違いなくその中の一人だ。だからどうか、どうか、私の側にいてくれ」
ルイはアリエルをきつく胸に抱いた。
「はい、殿下。そのかわり、私が死ぬ時は手を握っていてくださるのよね?」
アリエルは腕をルイの背中に回した。
「ああ、そのつもりだ。あなたを置いては先に死ぬことは許されないからな」
ルイは悲しそうに笑った。
「……リー、私があなたを妃として迎えることで、あなたはこれまでのように動くことは難しくなり、自由は奪われてしまうだろう。時に民衆からの好奇の目や、どす黒い闇のような悪意に晒されることもある。
それでも、私はあなたを手放すことができない。自分勝手な男だ……」
「……本当は、婚約したばかりの頃、殿下には本来の姿を明かさないでおこうって思っていたの。そして、本件が片付いたら婚約を破棄してもらってアルメリアに帰るつもりだったわ。
ユーリとして出会ったことは素敵な思い出として胸に留めて、再び国の諜報員として気ままな生活をしようって、そう思っていた」
「……」
「でも、できなかった……気がついたら、いつも殿下が心の中にいたから。
殿下の心にある孤独が見えてしまった時から、あなたの心の中を少しでも暖める存在になりたいと思うようになってしまったの。それに、あなたのそばで、この国のために命を燃やして生きることができるなんて、本望だわ。
私の幸せは、愛する人に愛し愛されて生きていくことですもの」
「ああ、私もそう思う。そして今、私は間違いなく幸せだ」
ルイは優しくアリエルの唇にキスをした。
「リー、最後の逢瀬だ。執務の後、あなたの部屋を訪っても?」
ルイはアリエルの顔を両手で包んだ。
「ふふ。結婚するまでは、どうこうする気がないのであれば」
アリエルは頬を包むルイの手に、自分の手を添えた。
「今夜も優しい拷問に耐えることにしよう」
ルイは嬉しそうに微笑んだ。
「きっと来てくださいね、約束よ?」
アリエルは小声で言うと、ルイの胸に顔を埋めた。
ここまでお読みいただきましてありがとうございました。ずっと2章の完結を考えていたのですが、ここでが2章の最終話となります。
ここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございました。もしよろしけば、感想やもっとこうしろなどのご意見、評価などにて改善点をお聞かせいただけますと嬉しいです。
ここまでお付き合いいただ来ましてありがとうございました。
次回から3章になりますので、もしご興味がありましたらお付き合いいただけますと幸いです。




