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59. 王女、オペラ観劇へ

 ルイは晩餐会の翌日、ルイはオリバーと共に城の執務室にいた。


「オリバー、私と伯爵令嬢と逢瀬しているということをもっと公にできる良い社交の場はないか? 舞踏会や晩餐会には流石に連れ出すわけにはいかない。だからと言って、街にばかり出ていくのも憚られる……何か良い社交の場はないだろうか」


 ルイの問いにオリバーはしばらくの間考えていた。


「そうですね……手っ取り早く御令嬢の存在を強調でき、社交もそれほどする必要がないとなれば、オペラ鑑賞なんかがよろしいかと。いくつか招待状も来ております」


 オリバーはそう言うと招待状をいくつか並べてみせた。


「ふむ。なるほど。それは良いな。今、帝国劇場でやっている劇の千秋楽が良いだろう。明日の夜、早速行くことにしよう。正面のロイヤルボックスを押さえてくれ。私が行くことも広めておいてくれるか?」

 とルイは言い、招待状をオリバーに手渡した。


「承知いたしました」

「護衛は多めにつけろよ」

「わかっております」

「この執務が終わったら帝都の屋敷に戻る。しばらく屋敷で過ごすことにする」


 オリバーは嬉しそうに言った。

「では後ほど書類をお届けに上がります」

「……宝石絡みの件でこちらも忙しいのだが……」

「公務も抜かりなくというのは陛下の指示ですから」

「……」


 ルイは山積みになっていた書類を片付け、日が暮れる頃に帝都の屋敷に到着した。


 屋敷に着くとアリエルも執務室で書類と向き合っていた。


 それでもアリエルはルイの顔を見ると嬉しそうに駆け寄った。


「殿下、おかえりなさいませ」

「ああ。今日から再びこちらで過ごすことにする。それからリー、明日の夜オペラに行こう」

「まあ! 素敵! ずいぶん長い間観劇などしておりませんでしたの。よろしいのですか?」


 アリエルの笑顔に、ルイは思わず体を抱き寄せた。

「ああ、もちろんだ。あなたを周知させるのに、ちょうどいい社交場がオペラだということになったのだ」


「なるほど。確かよい策ですわね」そう言うとアリエルは嬉しそうに笑った。


「エミリーには私からもしっかりと着飾るように伝えておくことにする」

 そう言うとルイはアリエルの頬にキスをした。


「明日の夜が楽しみだな」

「……」



 翌日、アリエルとエミリーは昼間から全く姿を見せなかった。


 ルイは執務室でオリバーと共に持ち込んだ書類の山に目を通し、次の視察の予定を組んだ。そしていくつかの会議の準備を終えると、すでに日が暮れかけていた。


 ルイが夜会用の衣装に召し替えてサロンで一息ついた頃、ようやくアリエルはルイの前に姿を現した。


「ルイ殿下、オリバー様、お待たせいたしました」

 ドレスに着替えたエミリーの声でルイとオリバーは顔を上げた。


 普段から美しい娘だとは思っていたが、今日のアリエルの仕上がりは完璧だった。


 紺とも緑とも取れる光沢のある生地に金の刺繍が美しい艶やかなドレスをまとい、大きく開いた胸元にはルイが贈った大きなアレキサンドライトのネックレスが輝いている。


 体の線がくっきりと出るドレスはアリエルの華奢な体によく似合っていた。ルイがエミリーに助言して作らせたものだ。


 金と銀を混ぜたような髪は絹のように滑らかに輝いていた。繊細にまとめ上げられ、エメラルドの髪飾りが刺されていた。


 シミのない白い肌には艶やかな化粧を施され、潤んだ目元と口元は惑わされそうなほど妖艶で情欲的だった。


 ルイもオリバーもアリエルの美貌に、圧倒されていた。


「……殿下、今日はお手伝いができなくてごめんなさい」

 ルイの前に立ったアリエルは申し訳なさそうにそう言った。


「……いや、いいんだ……それよりリー、本当に綺麗だ」

 ルイは照れくさそうに頬を撫でた。


「今日の殿下もとても素敵だわ」

 アリエルはそういうと目を潤ませて照れたように笑った。


「アリエル様は、喋らなければ本当にお美しい方だったのですね」

 オリバーは感心して言った。


「あら、私からおしゃべりを取ると何も残らないわよ」

 とアリエルは笑った。


「アリエル様、そういうところですよ。今日はなるべく余計なことは口にされませんようお気をつけくださいませ」

 エミリーは呆れ気味に言った。

「……わかってるわよ」


 アリエルはオリバーをまじまじと見つめた。

「ねえ、オリバー。あなたって、本当に美丈夫よね。きっと、この国の貴族の女性に人気があるのでしょう?」

「……いえ、それは……」

 オリバーは何と答えて良いのか分からず目が泳いだ。


 事実、オリバーはハミルトン公爵の三男でもあり、金髪に碧眼のその見た目はルイと並んでも引けを取らないくらいの美貌の持ち主だった。


 貴族子女の間でも、オリバーとの結婚を望む声は高いことは明白だった。彼の素行調査もしたが、真面目なところがあり、特定の恋人がいるわけでもなく、火遊び的に娼館に通っているということもなかった。


「オリバー、お願いがあるの」

 アリエルはオリバーの目を見た。


「……はい。なんでしょうか?」

 オリバーは嫌な予感しかせず、訝しげな顔をしながら後ずさった。


「今日はハンブルグ家の次女も来るのよね?」

「……はい、おそらく……」

「面識はあるのかしら?」

 アリエルはオリバーに迫った。


 半月ほど前、ハンブルグ家の舞踏会に忍び込んだ後の、ハンブルグ家の様子がアリエルは気になっていた。


「はい……挨拶を交わす程度には……」

「ふぅん、じゃあちょうど良いわね」


「何が、『ちょうど良い』のだ、アリエル?」

 ルイが話に口を挟んだ。


「せっかくなので、オリバーにハンブルグ家の御令嬢をナンパしてもらって、先日の舞踏会の後の様子を聞き出してもらえないかと思いまして」


「……なっ……」

「あなたの甘いマスクなら、ちょっとお酒を飲ませて気を持たせるフリでもすればすぐに口を滑らすわ」

 とアリエルは微笑んだ。


「ふむ。それは悪くないな。オリバーしっかり頼むぞ」

 と、ルイはオリバーを見てニヤリと笑った。


「……承知いたしました……」

 オリバーはしぶしぶと言った様子では答えた。

 そんなオリバーにエミリーは同情の眼差しを向けた。


「では、行こう。私とアリエル、従者の三人で馬車に乗ろう。オリバーは先頭の馬車に、エミリーとシモンは最後尾の馬車で来てくれ。今日は多めに護衛をつけている。お前たちも用心するように」

 ルイがそう言うと皆頷いた。そして各々の馬車に乗り込んだ。


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