55. 皇太子と王女、再び街へ出る
ルイが目を覚ますと、アリエルはルイの腕の中で静かに眠っていた。
ルイは頭を撫で、アリエルの額にキスをした。
「リー、支度を済ませたら街に行くぞ」
と声を掛けるとアリエルは飛び起きた。
「……」
「私の自制心に感謝してもらいたいな」とルイは笑った。
「……結婚するまでは、どうこうしようと思っていないと言ったわ」
アリエルは無邪気に笑った。
ルイはアリエルを見つめ、押し倒して組み敷いた。
「どうこうとは、こういうことか?」
アリエルは唇をかみ、顔を赤くしながらルイを見た。そして愛おしそうにルイの頭を抱き寄せてキスをした。
「でも残念ながら今は時間がございませんわ」
「……準備に時間がかかるのだろう? エミリーが探している、もう行け」
「殿下の寛大な計らいに感謝を」
アリエルは膝を曲げて頭を下げ、ルイにキスをすると部屋を飛び出していった。ルイは大きくため息をついた後、従者を呼んだ。
ルイとアリエルは支度を済ませるとすぐに街へ出た。先導する騎馬隊と皇室の紋章が刻まれた三台の馬車が街を通ると、行き交う人たちは足を止めてこちらを見た。
馬車は帝都で一番大きな宝石店の前で止まった。以前アリエルがイーサンと出会った宝石店だ。建物はとても豪奢な作りで、一際目を引く店構えだ。
「では、行こうリー」そういうとルイは馬車から降り、アリエルの手を取った。
ルイもマリーの報告書を読み、この店のことは大まかなことは頭に入っている。
皇室の馬車が店の前に止まると、中から店員が総出で飛び出してきた。皆一様に深く頭を下げた。
「顔をあげよ」
店主と思われる身ぎれいな男が、二人の前に出た。
「皇太子殿下にご挨拶申し上げます。ご尊顔を拝し恐悦至極にございます。よろしければ店までご案内させていただきます」
「こちらの令嬢に似合う宝石を探している。用意してくれ」
「ただいま特別室にご案内いたします」
店主はそういうとすぐさま二人を特別室に通した。
「殿下、御令嬢に似合いそうな品をご用意させていただきました。よろしければお手に取ってご覧くださいませ」
そういうと店主は応接テーブル一杯に宝石を並べた。
「リー、好きなものを選べ」
ルイは隣に座っていたアリエルに目配せをした。
「ありがとうございます、殿下」
そういうとアリエルは一つずつ宝飾品を手に取り、太陽に透かしあらゆる角度からすべての宝石を丁寧に確認した。
「あの、失礼なことを重々承知でお尋ねするのですが、こちらの宝石に鑑定書は付きますでしょうか?」とアリエルは店主に尋ねた。
「はい、もちろんでございます。当店のすべての品に鑑定書がついております。お買い上げの際にお付けしておりますのでどうぞご安心くださいませ」
「ありがとう、安心いたしました」
とアリエルは笑った。
「リー、あなたが気に入るものはあったか?」
「ええ、殿下。でもとても一つに絞りきれませんわ」
とアリエルは微笑んだ。
ルイはアリエルの肩を抱き「欲しいものはすべて買えば良い」と言った。
「まあ、殿下! よろしいのですか?」とアリエルは大袈裟に喜んでみせた。
「ああ、もちろんだ」
ルイはそう言ってアリエルの手の甲にキスをした。
アリエルはすべての品の中から十数点程宝飾品を選んだ。一つだけ派手で豪奢なブローチがあったが、それ以外はどれも古めかしい垢抜けないデザインのもので、値段も決して高価とは言えない。
ルイはなぜアリエルがこれらを選んだのかわからなかった。
次の店でもその次の店でも街中の店をまわり、アリエルは最初に鑑定書の有無を尋ね、全ての品に鑑定書を付けさせた。そして一点だけきらびやかで美しい品を選び、それ以外は値段が張らない地味でパッとしない古めかしい宝飾品を十数点程購入した。
「リー、どうして地味で古い臭いものばかりを選ぶのだ?」
ルイは馬車の中で聞いた。
「金、銀、プラチナの純度が高く、使われている石が良質で、尚且つ見た目故に値段が抑えられている品を選ぶと、どうしてもこのような物に限定されてしまうのです。
購入した品は一旦溶かして仕立て直す予定なのです。きっと売却する時には、びっくりするほどの高値が付くと思いますわ」
そういうとアリエルは嬉しそうに笑った。
「……最初から売るつもりだったのか……」
「ふふふ。でも、不純物の含有量が多すぎる金や贋作が混ざっている宝飾品に鑑定書を出している証拠と、アルメリアから密輸されたものに鑑定書を付けている証拠を押さえたかったので、念の為そちらも購入しております」
アリエルは得意げに言った。
「ははは。あなたは本当に面白い女性だ」
想像以上のアリエルのしたたかさに、おかしさがこみ上げルイは声を出して笑った。
「あと、一軒だけ視察してもよろしいでしょうか、殿下?」
「ああ、構わない。私も今回のことで学ぶことが多いからな」
ルイは楽しそうにそう返答した。




