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53. 皇太子の一日

 ルイは夜が更ける頃、ようやくすべての書類の精査が完了した。湯あみまで終えて、空が明るくなる前になんとかアリエルの寝室までたどり着いた。


 静かにベッドに潜り込むと、アリエルの小さな体を抱きしめた。アリエルの鼓動を聞いているうちに、すぐに眠りに落ちた。


 目を覚ました時、既にアリエルはいなかった。

 従者を呼び、支度をさせていると扉がノックされた。


「殿下、おはようございます。オリバー様がご到着されております。執務室にお通ししてもよろしいでしょうか?」


「ああ、そうしてくれ。私もすぐに向かおう」


「承知いたしました」


 ルイは支度を終えると、執務室に向かった。

 執務室の扉を開けると、すぐに奥の机に座っていたアリエルと目が合った。


「ルイ殿下!」


 アリエルは嬉しそうにルイに駆け寄った。


 アリエルは昨日購入した明るい黄緑のドレスを着ていた。


 ルイは口には出さなかったが、今アリエルが着ているドレスが一番彼女に似合うだろうと思っていた。ルイの想像した通り、ドレスはアリエルにとてもよく似合っていた。髪も美しく結われ、陶器のような白い肌に繊細な化粧が施された顔は、作り物かと思うほどの美貌だった。


髪にはルイが贈った髪飾りが刺されている。


「ルイ殿下、おはようございます。お疲れは取れましたか?」


「ああ、おかげでよく眠れた」

 そう言うとルイはアリエルの手を取り、手の甲にキスをした。


「今、オリバーに書類を見てもらっていたの。それから処理の仕方も教わったわ」


「そうか。オリバーも朝からご苦労だったな」


「おはようございます、殿下。書類が全て片付いていて驚きました」


「なんだ、お前が終わらせるようにと置いていったのだろう?」


「ええ、まあそうですが、きっと終わらないだろうと思っておりましたので……」


「礼ならアリエルに言ってくれ。補佐が良かったのだ」


「はい。アリエル様が添えられている特記事項の記述が的確でしたので、私も驚きました。さすが有能なお方だ。これで殿下の執務も捗りますね」


「……これ以上増やすなよ」


「……」


「確認が終わったら城に戻るぞ。エド達との面会の約束がある。夕方にはまたこちらに顔を出すことにしよう」


 オリバーとアリエルが書類をまとめている間、ルイはエミリーを呼んで何やら話し込んでいた。


 アリエル達は玄関でルイとオリバーを見送った。


「では、アリエル、また夕方こちらに戻る」

「はい殿下、いってらっしゃいませ」アリエルはにこりと笑った。


 ルイはアリエルを抱き寄せて耳元で言った。


「今日のことはエミリーに任せている。エミリーの言うことをしっかり聞くように」


「エミリー、任せたぞ」


「承知いたしました」

 エミリーは深く頷いた。


 ルイは城に戻り簡単な食事を済ませると、オリバーと共にすぐにエドの執務室に向かった。


 オリバーがドアをノックし、訪いを入れるとすぐに扉が開いた。


「ルイ殿下お待ちしておりました」

 部屋に入ると、ソファに座っていたエド、サイモン、アレン、ハラスが立ち上がった。


 ルイはソファの上座に腰をかけ、オリバーはルイの隣に立った。


「遅くなってすまない。では、はじめよう」


「はい。それでは私から説明させていただきます」

 エドはそう言うと、何枚か書類を机の上に並べた。


「先日、アリエル様の指示により買収出来そうな財務担当の役人の選定を行なっておりました。この中で特にハンブルグ家よりの人間がおりました。


 まずはその者達にさりげなくハンプシャー家がハンブルグ家から機密情報を持ち出し、皇帝に媚びている噂があるという流言を流してみましょう」


「ふむ。アリエルの持ち出した機密文書持ち出しがここでも役立つな」


「はい。実際に文書を持ち出されたハンブルグ家は、ハンプシャー家に疑いの目を向けるでしょう。書類の盗難については表沙汰にできる内容ではないため、疑心暗鬼になることは確かです」


「そうだな」


「それからハンプシャー家の直属の役人達には、ハンブルグ家とスミス家がハンプシャー家が揉めて、ハンプシャー家は皇帝側に着くらしいという流言を流すことにしてはどうでしょうか。ハンブルグ家が裏切ったと考えるハンプシャー側の人間も疑心暗鬼になることが予想されます」


「ふむ。ではその線で進めることにしよう。流言については、ひとまずこのくらいにとどめておこう。人の噂話は尾ひれがついて広がるものだ。この噂がどうなるか、一旦様子を見ることにしよう」


「はい。我々もそれが賢明かと思います」

 エドは深く頷いた。


「来週、皇室の晩餐がある。その時までにマティスに補佐官を着けるように父上に進言しておいてもらいたいのだが、頼めるか? 欲を言えばアレンとハラスをマティスの下に付けたい」


 ルイがそう言うと、皆顔を見合わせて頷いた。


「我々もその案に賛成です。早速陛下にお伝えしてみることにしましょう」


「ああ、皇后も皆の前で補佐官の話をされたら、無下にはできまい」


「それから昨日アリエルと街へ出てドレスを購入した。支払いを頼むぞ、エド」


「……承知いたしました」


「店で売られている商品の中に粗悪品が混ざっていた。店主も気がついていないくらいの巧妙な手口でだ。アリエルとエミリーが目利きしたのだから間違いないだろう。皇室とも取引のある店だ。これから注視してくれ」


「承知いたしました」


「晩餐の日まで、私は帝都の屋敷と城を行き来する。私の代わりに、できるだけマティスが自由に動けるよう、気を配ってやってくれるか?」


「もちろんです」


「では、引き続きよろしく頼む。経過はオリバーを通じて逐次報告してくれ」


「御意」


 ルイはエド達の面会を終えると、夕方までの間、執務室に戻り書類仕事をすることにした。

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