52. 二人の時間
日が暮れかかる頃、ルイとアリエルは屋敷へ戻った。執務室にはすでにオリバーからの書類が届けられていた。ルイが信頼を寄せている従者も既に屋敷に到着していた。
「明日の朝、オリバー様が殿下をお迎えに来られるそうです」
ルイとアリエルを執務室に案内したシモンは言った。
「そうか。では私は執務に取り掛かることにしよう」
「お手伝いいたします、殿下」
「アリエル、今日は慣れないことばかりで疲れたであろう。無理はしなくとも良い」
アリエルを抱き寄せるとルイは優しく笑った。
アリエルと共に食事を済ませると、ルイはすぐに執務室に篭った。アリエルが湯あみを終え、執務室の前まで行くと、扉の外に従者が立っておりまだ明かりが灯っていた。
アリエルは思わず扉をノックした。
「殿下? アリエルです。まだ、そちらにいらっしゃいますか?」
「ああ。アリエル、入ってくれ」
ルイは快くアリエルを迎え入れた。
「……殿下。今回の件で、殿下への負担が増えてしまったのではないでしょうか?」
「なんだ、そんなくだらないことを気にしていたのか?」
「……」
「私があなたの側にいたくてそうしているのだ。あなたが気に病むことではない」
「……そうではなくて、私もご一緒したいのです。せっかく共に過ごせるのだから、私にも手伝わせてくれてもいいでしょ?」
「ああ、それなら大歓迎だ」
二人は並んでソファに腰を下ろした。
「殿下、お時間を取らせることになるかもしれないけれど、大まかに書類の読み方を教えていただけませんか? 概要だけ教えてくだされば後は他の書類と照らし合わせながら自分で考えます。そして私が判断できるものはこちらにまとめ、付箋で必要事項を書き残すわ。そして殿下に目を通していただいた方が良いものだけ、優先的にお目通しいただくようにこちらに重ねておきます。どうかしら?」
「ああ、それは助かるな、リー……」
ルイは隣にいたアリエルを強く抱きしめた。
「……ルイ殿下?」
「……ああ。では始めよう」
ルイはアリエルを腕に抱き抱えたまま、書類を見せ端的に説明すると、再び執務用の机に戻った。
アリエルの飲み込みは早く、執務の処理はいつもより格段に早く進んだ。
「殿下、こちらの書類の処理は終わったから、お茶の用意をさせるわ」
そう言うとアリエルは立ち上がった。
「リー、おかげで助かった。私のことはもういいから、先に休め」
ルイは諭すように言った。
「……わかりました。では、お茶を用意するように伝えておきますね。あまりご無理なさらないで……おやすみなさい、ルイ殿下……」
アリエルはルイにそう伝えると、なぜか急にとても寂しい気持ちになった。しかし、これ以上邪魔することも憚られ、そのまま部屋を出ようとした。
するとアリエルは腕を掴まれ、ルイの胸の中に抱き寄せられた。
「リー、あなたが嫌でなければ、執務が終わった後、あなたの部屋を訪うことを許してくれるか?」
ルイは耳元でささやいた。
「私、眠ってしまっているかもしれないわよ?」
アリエルはとっさにそう答えた。
「ああ、別に構わない。何かしようなどと思っていない、ただ側で眠るだけだ」
「……きっと来てくださいね、約束よ?」
そう言うとアリエルは抱きしめた腕に力を込め、胸に顔を埋めた。
夜明けが近づき、空が少しずつ白んできた頃だった。
アリエルは寝室のベッドの上で、自分を抱きしめる温かい存在に気がついて目を覚ました。
目を開けると、アリエルを抱きしめたまま眠るルイの姿があった。
アリエルは嬉しくなり、そのままその腕にくるまり再び目を閉じた。
隣に眠る彫刻のように美しい人が、愛おしそうに自分を見つめて「美しい」と言ってくれることがどれほど嬉しいのか、アリエルはようやく気がついた。
そんなことを考えていると意識がぼんやりと遠くなった。




