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51. 王女、皇太子と街へ出る

 ルイが屋敷を一通り案内され、出されたお茶を飲み終わった頃に、ようやく準備を終えたアリエルは現れた。


 エメラルドグリーンのシフォンドレスを着たアリエルを一目見たルイは「よくやった。見事な手腕だな」とエミリーを褒めた。


「アリエル、これからは美しくあれ。それがあなたの今の仕事だ」

 美しく仕上がったアリエルの頬をそっと撫で、ルイは言った。


「では、街に行くぞ。エミリーと護衛、従者を連れて、三台の馬車で行く。シモンは屋敷のことを頼む。オリバー、お前は城に戻って書類と滞在の準備を進めてくれ」


「……承知いたしました。殿下、くれぐれも任務であると言うことをお忘れなきよう」


「……わかっている」


 ルイとアリエルを乗せた三台の皇室の馬車は、街中でも一際目立っていた。


 人々の目線を浴びながら馬車は走り、街の中心部にある大きな仕立屋の前で止まった。


 大理石に施された彫刻が見事な建物で、大きなショーウィンドウには煌びやかなドレスがいくつも並べられている店だった。


「まずは仕立屋から行くことにしよう。ユーリ、ここからは常に見られていると思ってくれ」


「承知いたしました」

 ルイはアリエルより先に馬車を降り、アリエルの手を取った。


 二人が馬車を降りると、行き交う人は皆足を止めて注目した。


 ルイは片方の手をアリエルの腰に当て、「ユーリ、こちらへ」とエスコートし店の前まで歩き始めた。

 エミリーと従者、護衛も馬車から降りて後に続いた。


 そんなルイとアリエルの姿を確認した店員達は、慌てて飛び出し、ルイの前に跪いて頭を下げた。

「かしこまらなくとも良い、顔をあげよ」とルイは言った。


「皇太子殿下にご挨拶申し上げます。ご尊顔を賜り、恐悦至極にございます。皇太子殿下、この度はようこそおいでいただきました」


「ああ。今日はこちらの令嬢に似合う服を探している。見繕ってくれ」


「もちろんでございます。応接室をご用意いたします。どうぞお入りくださいませ」


 ルイ達は店の二階にある応接室に通された。応接室の天井にはシャンデリアがあり、店構えと同様豪奢な造りの部屋だった。一階の店内には、ところせましと様々なドレスが並べられている。


 ルイとアリエルが応接室のソファに並んでかけると、すぐにお茶が振る舞われた。二人がお茶を飲む間、店員は恐ろしい速さで次から次へとドレスを並べた。


 ルイはその度アリエルとドレスを見比べていた。


 雛形にかけられたドレスが応接室いっぱいに並べられると、店主は言った。


「皇太子殿下、こちらの御令嬢に似合いそうなドレスをご用意いたしました。ごゆっくりとご覧くださいませ」


 ルイとアリエルの急な来店に、店の者は皆緊張で張り詰めた顔をしている。エミリー達も応接室の壁際に立ち、店員の動きを見ていた。


「どうだ、ユーリ。この中にあなたが気に入らないものはあるか?」


 ルイは隣に座るアリエルに体を寄せ、髪を撫でながら聞いた。

「そうですわね……」


 アリエルは立ち上がり高齢の店主に尋ねた。


「こちらの、お品は触ってみてもよろしいかしら?」


「もちろんでございます。ぜひお手にとってご覧くださいませ」


「ありがとう」


 アリエルは繊細な刺繍が施された淡い桃色のドレスに近寄り、ひとつひとつの細工や刺繍に目を凝らした。


「この金の刺繍や金細工に使われている金や金糸は、純金かしら?」


「……おそらく、使われている金糸は金でできたものかと……」


「ふうん。そう……」


 それからアリエルは嬉々としてドレスの周りを動き回り、ひとしきり触り、目を凝らし、時にエミリーを側に呼んで耳打ちをした。ルイはその様子を愛おしそうに眺めていた。


 アリエルはすべてのドレスを見て回ると再びルイの隣に腰を下ろし、ルイの肩に頭を預けた。


「あちらの淡い桃色のドレス、それからこちらの光沢のある黒いドレス、それとあの向こう側の黄色いドレスはあまり私の好みではございませんわ」


「ふむ。わかった。それ以外はどうだ?」


 ルイはアリエルの頭を抱きながら尋ねた。


「とても素敵なお品物だわ」


「そうか。どれも美しいあなたによく似合いそうだ」


 ルイはそう言うとアリエルを見つめ、頬に触れた。


「店主、聞いていたか? 桃色、黒色、黄色のドレス以外はすべて買い上げる。今日中に指定した屋敷まで運んでくれ。それから、仕立ての衣装も作りたい。明日の昼頃にでもその屋敷に人を寄越してくれ。支払いにはこちらから使いの者をよこそう」


「承知いたしました。身に余る光栄にございます。心より感謝申し上げます」

 店内にいたものは皆深く頭を下げた。


「では、もう行こう」


 ルイは立ち上がり、アリエルに手を差し出した。アリエルはルイの手を取って立ち上がり、その手をルイの腕に絡めた。


「世話になったな。明日はよろしく頼む」


 ルイとアリエルは店の外まで全員に見送られた。店を出ると、二人は再び街行く人達からの視線を感じながら馬車に戻った。


 馬車の中で向かい合って座ると、アリエルは興奮気味に言った。


「殿下、ありがとうございました! ドレスを選ぶのって、とても楽しいことだったのですね! 姉様やエミリー達の気持ちが少しだけわかった気がするわ!」


 アリエルがそう言うと、ルイは声を出して笑った。


「そうだな。私が意図した趣旨とは少し違っていたが、確かにあなたは楽しそうだった。何よりも私があなたを着飾るという楽しみができた」


「ところで、なぜあの三着は気に入らなかったのだ?」

 ルイは尋ねた。


「はい。桃色のドレスは刺繍や金細工に使われている原料が金糸や金ではなく金メッキでした。黒色のドレスは、黒いから目立ちませんが、絹糸が太く生地が重たかったのです。それに糸の太さも不揃いで目が荒いのが気になりました。黄色のドレスは全体にちりばめられている宝石の装飾に贋作が混じっています」


「ふむ、なるほど。あなたが楽しそうにしていた理由がわかった。あの店は皇室とも取引があるのだが、随分と荒い商売をしているようだな」


「殿下、以前私たちが帝都で一番大きな宝石店に視察に行ったのですが、その時も店頭に並んでいた宝飾品に使われている金に混ぜ物が多く色が不自然だったものがいくつかありました」


「そうか。どうも宝飾品やその原料に問題がありそうだな。では次は宝石店の視察に行くことにしよう。そこでユーリに似合う宝石を贈ろう」


「それは楽しみだわ! 実は殿下から頂いた髪飾り、とても気に入っているの!」


 アリエルが嬉しそうに言うと、ルイは優しい笑顔を見せた。


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