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48. 離間計

 アリエルがエルに通達を出すように伝えた日の夕方、サイモン、アレン、ハラスの三人は早速離宮にやってきた。


 アリエルをはじめエミリー、マリー、シモン、エルも会議室の席に着いた。


「今日は、エドはお忙しいのかしら?」


「いえ、それが、エド様は陛下に謁見の通知をお渡しに行ったきり戻られておられなかったので、我々三人は先に馬で参りました」


「そうだったの。きっとエドもお忙しいのね」


「では、時間もないので早速始めましょう」


 その時だった。会議室のドアがノックされ、

「アリエル様。ルイ殿下、マティス殿下、オリバー様がおいでです」というエルの声が聞こえた。


「まあ、御三方が? いらっしゃったの? すぐに入っていただいて」

 アリエルは嬉しそうに言った。


 ルイとマティスが部屋に入ると、皆立ち上がった。ルイは迎え入れたアリエルの肩を抱き、頬にキスをした。


「殿下! こんなに早く来ていただけるとは思っておりませんでしたわ。お呼び立て申し訳ございません」


「あなたに呼ばれたら、どんな時でもすぐに飛んで来よう」

 そう言ってルイはアリエルの手の甲にキスをした。


 アリエルと目があったマティスは深く頭を下げた。

「またお会いできて光栄です。アリエル殿下」


「私もです、マティス殿下。城を抜けるのは大変ではございませんでした?」


 アリエルは笑った。

「兄上とオリバーが協力してくれた」とマティスは嬉しそうに言った。


 そんな三人のやり取りをサイモンとアレンは不思議そうに見ていた。


「そうだ、せっかく皆揃っているのだから、マティス殿下に二人のこともご紹介したいわ。よろしいですか?」


「ああ、もちろんだ」とマティスは笑った。


「マティス第二皇子にご挨拶申し上げます。陛下直属の秘書官をしております、サイモン・ホナートにございます」


「同じくアレン・ヨークにございます。お目にかかれて光栄にございます」


「サイモン、アレン、お前達のことは兄上とアリエル殿下からも聞いている。これからよろしく頼む」

 マティスが顔を向けると、サイモンとアレンは膝を折った。


「アレン、サイモン。マティス殿下はこの国の状況についてすでにご存知よ。ルイ殿下のご協力を得てマティス殿下ともお話することができたの。マティス殿下も、同じように今の状況を憂いておられるわ。だから、お知恵をお借りしたくて今日お呼びしたのよ」


「よろしく頼む」

 とルイが言った。


「ルイ殿下、マティス殿下……お二人が揃われている姿を見ることができ、本当に嬉しゅうございます」

 アレンが言うと、サイモンも感無量だというようにしきりに頷いていた。


「では、早速だけれど、今日集まっていただいた趣旨からお伝えさせていただいてよろしいでしょうか?」

 アリエルは周りを見渡した。


 その時だった。急に会議室の扉が開き、「おお、皆もう揃っておったか」という声と共に皇帝陛下とエド、そして数人の従者が入ってきた。


「陛下!!」


 会議室にいた全員が驚き、頭を深く下げた。


「堅苦しいあいさつは抜きだ。そのままで良いぞ」

 と皇帝は言い、周りを見渡した。


「見慣れない顔があると思ったらマティス、お前も来ておったのか……そうか……ルイ、少しは成長したようだな」

 そう言ってニヤリと笑うと、ルイとマティスの顔を交互に見た。


「アリエル。こちらへ」と皇帝は手招きをした。


 アリエルは皇帝の側まで行き、膝を曲げた。皇帝はアリエルの肩を抱いた。


「アリエル。元気にしていたか? そなたのおかげで今日は見たい顔を見ることができた。礼を言うぞ」


「お父様……こんなに早くお時間を頂戴できるとは思っておりませんでした。ご多忙の中お越しいただき、光栄にございます」


「可愛い娘の呼び出しとあれば、いつでも飛んで来るのが父の務めであろう?」


「ふふふ。やはり陛下とお二人の殿下は同じ顔をして笑うのですね」

 とアリエルは三人の顔を見た。


「エド、ご苦労だったわね」


「予定の調整に少々時間が掛かりましたが、今夜であれば皇后陛下もサロンにお出かけになっておられますので、陛下においでいただくことができました」


「ふむ。アリエル、私に相談があるのだな。話を聞くとしよう」

 皇帝は椅子に腰を下ろした。


「では、シモン。皇帝陛下、両殿下にも完結に説明を」

 アリエルは言った。


「はい。では、ご説明させていただきます。現在この国では数年前から国税の横領が行われており、かなりの額に上ります。


 ハンプシャー侯爵、ハンブルグ侯爵、スミス侯爵が中心となり結託し、要職に就くことにより税や法を自由に操ることでその利益を貪っています。彼らの下に就く役人もすでに買収されている者が多く、不正が容認されている状況です。


 また、議会でもこの三家の貴族が中心となり、徒党を組んで表向きには皇帝の意向を汲んではいますが、ちょっとした法や税に関する取り決めを自分たちの都合に合わせてねじ曲げているのです。

 

 この動きが顕著になってきたのは八年ほど前からです。この件は財政難に陥っている役人を逆買収し、改竄の証言を取っております。ただ残念ながら裁判になった時、その者が真実を話す保証はありません」


「ふむ。だいたい私が思っていた通りの結果ということか」

 皇帝は顔色を変えず深く頷いた。


「……はい。ちなみにですが、ハンブルグ家の裏帳簿を押収してきましたので、税収や収益、それからハンプシャー家との利益に関する取り決めなどは大まかにでしたら割り出すことができました」


「そうか」


「また、この三家が中心となり、宝石の密輸事業にも手を出しています。売人、闇宝石商、宝石協会、ブルスト教会が結託して金を回しています。


 売人と闇宝石商については、目星をつけています。それから先日ブルスト教会のチャリティーオークションに使われた金貨がハンブルグ家の保管庫から見つかりました。


 ただいまブルスト教会に人をやって、そちらの調査にあたっています。こちらも、三家が秘密裏に取り決めをした契約を押収しています」


「ご苦労であった。よく調べな。では、私の判断は次にどうするか、だな。そのために私への謁見を申し込んだのであろう、アリエル?」


「はい。陛下のおっしゃる通りでございます。今、私たちが掴んでいるのは公に公開できる証拠とは言い難いものがほとんどです。


 出所を尋ねられるとこちらも不利益を被る可能性があります。しかし、このまま静観していても新しい証拠をつかめる確証はありません。ですので、こちらからも少し、働きかけてみたいと思っております。」


「ふむ。そなたの言う働きかけとは?」


「調略でございます」


「なるほど。アリエル、思うところがあるのだな。遠慮はない、言うてみるが良い」


「はい。まずはハンプシャー家、ハンブルグ家、スミス家のこの御三家が結託し、国家転覆を目論むというような事態だけは何としても阻みたいと思います。


 そのため、この三家を仲違いさせた方がよいかと。せっかく秘密裏に証拠書類を押収しましたので、これを利用して離間計を仕掛けます。


 現在ハンブルグ家とスミス家は婚約によって結束が強まっています。しかし、ハンプシャー家は皇室との血縁はあるものの、他の二家のような血縁関係はまだありません。


 彼らを結ぶのは共通の利害だけとも言えます。そこを利用し、ハンプシャー家がハンブルグ家から重要書類を持ち出し、ハンブルグ家を陥れようとしている流言を流してみてはいかがでしょう?」


「ふむ。なるほど。そうすることで、三家は疑心暗鬼にはなるであろうな。ルイ、どう思う?」

 皇帝はルイの方を見た。


「そうですね。お互いの猜疑心を掻き立てることはできるか思いますが、対立を煽り、双方の力を削ぐと言うことまでを見据えるとそれだけでは少し弱い気がします」

 ルイは冷静に言った。


「ああ、私も同じ意見だ」


その時だった。


「あ、あの……発言をよろしいでしょうか?」

 声を上げたのはマティスだった。

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