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41. 変革の時へ

 エルは自分の席から立ち上がり、会議室を見渡して頭を下げた。


「先ほど、アリエル様からご説明があったとおり、先日我々はハンブルグ侯爵家の舞踏会場に潜入し、執事室からこの机の上に置いてある書類を持ち帰ってきました。


 ざっと見たところ、あまり表沙汰にできる内容ではないため、もしも盗まれたことが発覚しても表沙汰には出来ないはずです」

 とエルは言った。


 エド、サイモン、アレンの三人は驚いた顔をしてこちらを見ていた。


「私たちもまだ全てには目を通してはおりませんが、税収の裏帳簿、密輸で得られた利益の帳簿、宝石教会の名簿、この件に関与しているブルスト協会の名簿、利益の分配についてハンブルグ家、ハンプシャー家、スミス家が交わしている密約の契約書がここにあります。


 ただ、これらはあくまで秘密裏に押収したものであるため、今すぐ証拠書類として表に出すことはできないと言うことをご理解ください」


 と言うとエルはアリエルの顔を見た。


「それから、保管庫の中に356枚の金貨がありました。先日ブルスト教会で行われたチャリティーオークションの際にマリーが絵画を落札しました。その際に落札した絵の支払いに使われた金貨35枚のうちの18枚が入っていました」


「チャリティーオークションというのは、もしかしてあの日のことでしょうか?」

 とオリバーは尋ねた。


「ええ、そうよ。殿下と教会でお会いしたあのオークションよ。私たちはそちらの会場に、絵画を落札するため、それから参加者の顔を確認するため、潜入捜査として参加していたの」


「だからあの場に……それにしても、なぜ金貨が18枚だとわかるのでしょうか?」

 とオリバーは聞いた。


「チャリティーオークションでの落札に使う金貨に仕込みをしておりました。金貨の裏に彫れたクラウンに十字の傷を入れる細工をしております」


「なるほど、そんなことまで……」とエドが言った。


「おそらく、いくらかブルスト教会にピンハネさせ、残りは全てハンブルグ家が管理し、関係者に再分配する三段なのでしょう。念のため保管庫28枚のコインには針金で別の目印をつけておきました」


「ありがとう。お手柄ね、エル」とアリエルは笑顔で言った。


「ただ、いくらブルスト教がピンハネしているとしても金貨356枚というのは、あまりにも少なすぎるわ。シモン、オークションの落札者と落札額を書面にまとめたわよね?」


「はい」


「後でその書面の用意を」


「承知いたしました」


「さて、これで以前より少しだけ情報が増えたわね」

 とアリエルが言うとエルが頷いた。


「アレン、あなたにお願いしたいことがあるの。」とアリエルは言った。


「今、財務を仕切っている大臣はハンプシャー侯爵かしら?」


「はい。おっしゃる通りです」


「そう。その下についている者の名前を全て調べられる?」


「はい。本日中に名簿にしてお持ちいたします」とアレンは言った。


「ありがとう。その者達の特徴も一緒に調べて頂戴。その者の財務状況、帝国に対する忠誠心、ハンプシャー侯爵に忖度があるかないか。これくらいでいいわ。その中から買収できそうな二、三名の目星をつけましょう」


「承知いたしました」


「もう一つ。サリー、あなたにお願いがあるの」

 アリエルは末席に座っていたサリーの方に目をやった。


「はい。アリエル殿下」


「かねてから伝えていたブルスト教会の件だけれど、来週からお願いできるかしら」


「承知いたしました」


「あなたには伯爵の未亡人として、喪に服すという名目で教会に見習い修道女として潜り込んでもらうわ。伯爵の遺産としてかなりの額を献金する予定だから待遇も悪くはないはずよ。あなたの主な仕事は一日五度の礼拝と、神官への配膳くらい。処遇がよろしくないようだったら、追加で献金をするわ」


「私にできますでしょうか?」


「ええ。大丈夫よ。何も難しいことはしなくてもいいわ。あなたが教会で見た人、見たこと、それを書き残してくれるだけでいいの。


 ただ、少々きつい環境下に身を置くことになってしまうことが気がかりなのだけれど。お金で解決できることであれば、金に糸目はつけないつもりよ」


「お心遣い、痛み入ります。精一杯務めます」


「ありがとう。三週間程したら、こちらから迎えをやるわ。可能ならば、定期的に面会に行けるように計らうつもりよ。その時に手紙と称してあなたの書き留めた書類を渡してもらえるかしら」


「承知いたしました。できるだけ、詳細に記して参ります」


「ありがとう。でも、無理はしないで。よろしくお願いね。こちらからお伝えすることは以上です。私たちはこれから押収した書類の精査に入ります。また、進捗があったら随時ご報告いたします」

 アリエルはそう言うとルイを見た。


 ルイは頷き立ち上がり頭を下げた。

「これから、この国は変革の時を迎えるだろう。いや、我々の手で変革させる。皆、力を貸してくれ」


 その声に皆立ち上がった。


「トルアシアとアルメリアの永久和平のために」


「すべての国民のために」


「未来続く繁栄のために」


「我々は皇帝陛下とルイ殿下と共にあります」


 顔を上げたルイの目にうっすらと涙が滲んだ。会議室の窓からは陽光が差し込んでいた。


 この国は光を見出したのだと、心が震えた。

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