40. この国で起こっていること
アリエルは、会議室に集まった参加者を見渡した。
「では、ここからは私がルイ殿下から引き継ぐわ」
と言ってアリエルは立ち上がった。
「ルイ殿下とオリバーにも今後はご協力いただけることになりました。ただ、殿下は公務もおありでしょうから、あまり表立っては動けない分、オリバー、どうか力を貸して頂戴」
「御意」
とオリバーは答えた。
「改めて私が今把握しうる限りの状況を説明しておこうと思うのだけれど、よろしいかしら?」
とアリエルが言うと全員が頷く。
「今、トルアシアの情勢は非常に危ういところまで来ていると私は見ているの。
表面上、議会は皇帝派と呼ばれる勢力が六割を占めていて、うまく回っているように見える。でもその実情は表面とは全く違うの。この六割と言われているうちのいくつかの貴族が結託し国の政治を自分たちの都合の良いように操っている。
外交上の重要な局面や国の運営の根幹に関わる部分だけを見ると、それほど悪いようには見えないかもしれない。しかし、細々した政策やそれに使用する税の振り分け、仕事の発注先、大臣達の采配で使える予算、これら全てにある特定の貴族の意思が大きく反映されているわ。
国税から、彼の元に多くの資金が流出していることは明白なの。それも単年の話ではないわ。前皇后陛下が崩御されたあたりから、年々その額は増えている。
そうよね、エド?」
「はい。アリエル様のおっしゃるとおりです。この国は外から見ると皇帝陛下を中心に、統率の取れた国に見えることでしょう。
しかし、内情は金と権力を持った貴族が自分達の利を貪っています」
とエドは悲しそうに言った。
「そうね。それに、国家予算の収支表、これもおそらく改竄されていると思う。本来であれば絶対に合わなければならない数字が、無理やりに合わせられている。
辻褄が合う様で合わない。でも一つずつを見るとおかしなところはないの。かなり、綿密に数字を塗り替えているのよ。それを裏付ける証拠は今のところないわ」
「……そんなことまでしているのか」
ルイは言った。
「ええ。そうよ。財務を握っている大臣が誰だか考えてみて。それだけではないの。肯定派と呼ばれている貴族のハンブルグ侯爵、スミス侯爵、リチャード伯爵、ハンプシャー侯爵この辺りは結託して不正に密輸した宝飾品を足のつかないように転売を繰り返した後、宝石協会に持ち込み手数料分を上乗せした分を正規価格として卸している。
そしてそこで得た資金はブルスト協会に持ち込まれ、資金洗浄された後また彼らのもとに戻されている。組織的にこんなことが繰り返されているわ」
「なんと、それはもう立派な犯罪ではないですか」
とオリバーは目を見開きこちらを見ている。
「ええ、それでもきっとこれは氷山の一角に過ぎないの。それにそこのまま行くと……」
アリエルは言い淀んだ。
「国家転覆……」とルイが口を挟んだ。
「……ええ、私の一番の危惧はそれです」
とアリエルが言うと、エドを始めトルアシア帝国の者は驚きを隠せないようだった。
「皇帝陛下はこの現状を知っていながら、何もしてこなかったのでしょうか?」
とオリバーが口を挟んだ。
「いいえ、それは違うわ。こんな状況を作為的に作られているにもかかわらず、表向きに秩序を保つことができているのは、皇帝陛下の並ならぬ手腕と努力があったからよ。何もしていないわけではないの。これまでは、牽制することに力を裂かれすぎて、何も仕掛けられなかったと言うのが正しいわ。だから私たちが調査に呼ばれたのよ」
とアリエルは言った。
ルイは黙って頷いていた。
「私は、何も知らなかったのですね……」とオリバーが言った。
「知っている者はほとんどいないわ。少なくとも内情まで知っているのは、陛下が信頼を置いている腹心の三人だけよ」とアリエルはエド達を見た。
「……それほどまでに、味方が少ないのですか」
「ええ、そういうことになるわね」
「……アリエル様、あなたは一体何者なのですか?」
オリバーはアリエルを凝視した。
「あら私は、殿下の婚約者よ」
アリエルは事もなげに言った。
「……恐ろしいお方だ……」
「私たちはアルメリアにいる頃からずっと、この宝石の密輸に関する件を捜査していたの。実際は持ち出しているのはアルメリア人のフリをしたトルアシア人だった。
おそらく組織的に犯罪を行なっている貴族に雇われている人間だと思う。それから捜査をトルアシアに移して調べていたらここまで来てしまったと言うわけよ」
アリエルは書類を指差した。
「さあ、じゃあここからが今日の本題よ。昨日私たちがハンブルグ家に忍び込んで拝借してきた書類がこれよ。ではエル、エミリー詳細を説明してもらえるかしら」
エルの方を見ると、エルは静かに頷き立ち上がった。
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