39. 共犯者の誓い
ルイは会議室を出ると、頭を冷やすために庭園に向かった。
広場まで歩くと、置かれているテーブルと椅子が目に留まった。ルイは椅子に腰掛け、足を組みテーブルに頬杖をついた。
アリエルに怒鳴りたかったわけではない。ただ、アリエルを失うかもしれないと思った時の悲しみが、気がつけば怒りに変わっていただけだ。
そしてそれ以上に、あの場に居合わせたのに何もできず、ただ見ているしかなかった自分に腹が立った。
アリエルは、ルイが考えるよりもずっと深く、自身が王族に生まれた意味を考え、生き方そのものに強い意思を持っている。そんなアリエルと対峙していると、自分の器の小ささを嫌と言うほど自覚させられた。
彼女の方が自分よりもずっと慈悲深くこの国の人間のことを想っているのだろうな、とルイは思った。
その時だった。ルイは後ろからそっと抱きしめられた。
「こちらにいらしたのですね。……殿下、心配させるようなことをして、ごめんなさい」
アリエルは悲しそうに言った。
「アリエル。あなたは悪くない。むしろ、今回の件で、私は礼を言わねばならない。命を張って、トルアシアのために動いてくれて、心から礼を言う。
それなのに私は何も知らず、あなたを守ることすらできず危険に晒すようなことをしてしまい、本当に申し訳なかった。無力な自分に腹を立て、あなたにきつく当たってしまったのだ。
愚かなことだ。本当にすまない。だからどうか、簡単に命を賭すなどと言わないでくれ」
ルイはアリエルに跪いた。
「心配してくれたのでしょう?」
そう言ったアリエルの目は涙で滲んでいた。
「ああ。あなたに何かあったらと思うと、昨日から気が狂いそうだった」
ルイは立ち上がってアリエルを抱きしめた。
「ごめんなさい……もうしないわ……」と言ってアリエルはルイの背中に手を回しきつく抱きしめた。
「アリエル、あなたの命は、私とトルアシアの命でもあるのだ。それだけは忘れないでくれ」
「……殿下」
「私は今まで、本当に何も見えていなかったのだな。だからあなたも私に何も言えなかったのであろう。……もし、あなたに今でも私の妻となる気持ちがあるのであれば、どうかその力を貸して欲しい、この国のために」
「殿下……力を貸すも何も、あなたはもうずっと前から私の共犯者よ。そうでしょう?」
アリエルは笑った。
「ああ、そうであったな。では逃げられない様に、誓いのキスを」
とルイは言った。
「これは賄賂よ」
アリエルはそう言って、ルイの唇にキスをした。
*
ルイはアリエルと共に会議室に戻り、
「では再開しよう。」と言った。
「まず、私から話をしても良いか?」
とルイが聞くと、全員が頷いた。
ルイは、頭を下げた。
「エド、サイモン、アレン、オリバー、サリー、これまで、私が至らないばかりに迷惑をかけた、本当にすまない。それにトルアシアという国をこの様な状態になるまで放っておいてしまったこと、心よりお詫び申し上げる」
「殿下、頭をあげて下さい」
とエドは言った。
ルイは頭を上げると続けた。
「それから、アリエル、エル、シモン、ハラス、エミリー、マリー、あなた方はアルメリアからわざわざこのトルアシアに赴いてくれた。それなのに、この度大変な危険に晒してしまったこと、心よりお詫びいたします。
そしてそれと同時に危険を犯してまでこの様な重大な任務を遂行してくれたことに礼を言う。あなた達がいなければ、このトルアシアは変わる機会を得なかったかもしれない。その功績はとても大きい。トルアシアを代表して心から感謝を申し上げたい」
ルイはその場にいる全員の顔を見た。
「情けない話だが、私はこれまで国の民のことなど、さほど考えてこなかったのかもしれない。貴族政治には嫌気がさしていたが、だからと言って何かを変えようとしたことなどなかった。情けないことに、ただ父の亡き後をどう無難に治めるかに気を取られた結果がこれだ……」
「殿下……」
「私は問題を起こさず、どうやってやり過ごすかということに囚われていた。だがアリエルは違う。王族が王族たる由縁を深く理解し、自身の人生を国に捧げて生きている。
私は未熟な上に、思慮が浅い。だがこれからアリエルの力を借り、アルメリアとトルアシア、そしてそれに関わる全ての国が永世和平を築けるよう、この身を捧げて行くつもりだ。だからどうか、私とトルアシアに皆の力を貸してもらえないだろうか」
ルイの目には涙が浮かんでいた。
「殿下、皆もうそのつもりでここにおります」とエドが言った。
「トルアシアの和平はアルメリアの和平にございます」とエルも言った。
「ただし、私達のアリエル様を泣かせた時には、命はないものと思っていただきたい」
とシモンが言うと全員が頷いた。
「ここにいる者は皆アリエルの味方と見えるな」とルイは苦笑した。
「あら、ルイ殿下は私の味方ではございませんの?」とアリエルは微笑んだ。




