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38. 皇太子の怒り

 普段であれば自然と目が覚めるはずなのに、その日は違った。


「アリエル様、いい加減お目覚めください」というエミリーの声で目が覚めた。


 アリエルが目を開けると、そこにルイの姿はなかった。昨日の夜の出来事は夢なのかもしれないと思った。


「ルイ殿下はもう食堂でお待ちです。早くお支度を」とエミリーが急かした。


「……ええ。わかったわ……」とアリエルはあまり頭がはっきりとしないまま、身支度を整えた。


 食堂に着くと、ルイはすでに席についてコーヒーを飲んでいた。


「おはようございます、殿下。遅くなって申し訳ありません……」

 アリエルが申し訳なさそうに言うと、ルイは笑った。


「おはよう。私が寝かしておいてやれと言ったのだ、別に構わない。アリエル、こちらへ」

 とルイは優しく言い、自分の正面に着座を促した。


「よく眠れたか?」とルイは意地悪そうにアリエルを見つめた。


「……はい」

 アリエルは身体中が真っ赤になるのを感じた。


 そんなアリエルを見てルイは嬉しそうに

「では食事を始めよう」

 と言った。



 ルイとアリエルが食事を済ませ、会議室の扉を開けると、もうすでに全員が席についていた。


「ご機嫌よう。皆、お待たせしました。では、始めましょう」

 アリエルは言いルイと共に席についた。


「エル、昨日押収した書類を出して頂戴」とアリエルが言うとエルはテーブルの上に書類を置いた。


「昨日、実は私たちはハンブルグ侯爵家にお邪魔したの。それで、ちょっと、その、色々とあって、執務室の保管庫から書類を拝借してきたの」


 アリエルは、バツが悪そうに言った。


「一体、どう言うことだ、アリエル?」


 ルイは声を荒げ、強い口調でアリエルを問い詰めた。


「えっと、まあ、あの……平たく言うと私がイーサンに一服盛って執務室の鍵を拝借して執務室から書類を持ち出したってことです」


「なんだと?!」


 アリエルがそう言うと、ルイは立ち上がって叫んだ。同席していたエドやオリバーも驚いた顔をしていた。


「どうしてそんな危険な真似をしているんだ! それにお前達はなぜ誰も止めなかった? 彼女に何かあっては取り返しがつかないだろう。状況をわかっているのか。何かあったらどう責任を取るつもりだった? それになぜ私に何も知らせなかった?」


 アリエルは、これほどまでに激昂するルイを見たことがなかった。


「……殿下、どうか私の部下を責めないでください。彼らはただ、私の命を受け、任務を忠実に全うしただけです。彼らの命は今、私が預かっています。


 彼らが私の命に背くということは、彼らにとって死を意味します。責めを負うべきなのは、そこまで思い至らなかった未熟な私です。それに殿下に伝えたら、絶対に反対したでしょう?」


「アリエル……」


「ごめんなさい……ただ、そうでもしなければこの膠着した現状を打破できないくらい、追い詰められていたの」

 アリエルの声は張り詰めていた。


「この国で今起こっている問題は見かけよりもずっと深刻で、あと一歩で深い闇に落ちそうな、ギリギリのところを綱渡りで凌いでいる状態だわ。だから、どうしても掴みたかったのよ……


 何か綻びを見出せるものを。それに、私の命一つでこの国の欺瞞と汚職を白日の下に晒せるのであれば、私はいくらでも命を賭すわ」


「……あなたはどうして、他国のためにそこまでできる?」とルイは低い声で言った。


「それは……それは私が王女として、王族として生まれたからよ。それ以外に理由はないわ」


 とアリエルは悲しそうに言った。


「この世界では、私たちは好む好まざるに関わらず、生まれ落ちた身分で生きるしかできない。そこに選択肢なんてないわ。


 だから、私は王族の娘に生まれてしまった以上、国民の幸せのために、彼らが少しでも幸せになれる様に生きる義務があるわ。だから……」


「もう良い、アリエル……」

 とルイは言った。


「声を荒げて、すまなかった……」とルイは言った。


「いえ……」


「……一旦、休憩なさいませんか、殿下」とエドが割って入った。


「……ああ、一時間後に再開しよう」

 ルイはそう言うと会議室を出た。


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