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33. 王女、男の部屋にて

 屋敷に入り、アリエルはマリーと合流すると、適当な社交辞令を述べ、参加者の出席状況を聞いた。


 アリエルはセンスを広げ、マリーに耳打ちをした。


「やっぱりイーサンの婚約者、来ているの?」


「はい。ご参加されているようです」


「それは少し厄介ね」


「しかし、聞くところによりますと、イーサンが御令嬢を部屋に招き入れるのは珍しいことではないとのことです。毎回この様な舞踏会があると、必ずお気に入りの令嬢を見つけるそうです」


「まあ、呆れた。これだから頭の悪い男って嫌いよ。でもそれならまあ、問題ないわね」


「……お気をつけくださいませ、ユーリ様」


「ええ。慎重にいきましょう」


「イーサンはどこに?」


「今、来賓の方々にご挨拶されている様です。おそらくそのうちこちらに回って来られるかと」


「婚約者と一緒に?」


「いえ、イーサン閣下お一人のようです」


「どうしようもない男ね」

 アリエルがそう言った時だった。


「ユーリ!」とアリエルを呼ぶ声が聞こえた。


 アリエルが振り返ると、悪趣味なほど派手に着飾ったイーサンが立っていた。


 イーサンは頭を下げ、足を引いた。

「デューク伯爵御令嬢ユーリ、本日はお越しいただき誠に光栄です。またあなたにお会いできて夢のようです」


「ハンブルグ侯爵御子息イーサン閣下にご挨拶申し上げます。この度はこの様な素晴らしい会にお招きいただきまして、アルメリアを代表して感謝を申し上げます」

 と膝を曲げた。


「ユーリ、今日は一段と美しい。ぜひ、楽しんで行ってください」とイーサンが言い、アリエルの手を取ろうとした。


 その瞬間だった。


 バイオリンの音がホールに響き、舞踏会が始まったようだった。


それと同時に


「イーサン、久しぶりだな!」


 という声聞き覚えのある声がした。


 アリエルが振り返ると、そこにはルイとオリバーがいた。


 ここは適当にごまかして一旦機を待つしかないと思っていたところ、アリエルはルイにダンスに誘われてしまったのだった。人目もあり断ることも憚られるため、アリエルはダンスの申し出を受けた。


 悪目立ちすることは避けたかったが、逆にこれはイーサンの気を引く機会だと割り切り、ルイの手を取った。


 しかし、アリエルがルイとダンスを終えて先ほどの場所に戻ると、もうすでにイーサンの姿はなかった。

「シモン、どうなってる?」とアリエルは尋ねた。


「はい。先ほどユーリ様がルイ殿下と踊られている間、イーサン閣下は別の方のところにご挨拶に回られました」


「機会を逸したわね。仕方がないわ。もう一度、待ちましょう」


 とアリエルは言った。


「シモン、今日の顔ぶれで招待客名簿にいない者はいないかしら?」


「はい。名簿に名前のある者はほぼ参加しています。見覚えのない顔は今のところ確認できておりません」


「私はマリーと共に宝石商について何か聞き出せるか、探ってみるわ」


 そう言いうアリエルはマリーと共に令嬢達の輪に混ざることにした。



 アリエルは、マリーから紹介を受け、令嬢達の輪に混ざった。世間話をしながらイーサンの様子を探っていた。話に相槌を打ちながら辺りを見回すと、こちらの様子を伺っているイーサンと目があった。


 センスを広げシモンに目配せをした。


「シモン、イーサンがこちらを見ているわ。飲み物を取りに行ってきて頂戴。それからなるべくエルとエミリーを私の側に来させて」


「承知いたしました」


 シモンはエルを探しながら、飲み物を取りに行きアリエルの側を離れた。

 アリエルが一人になり、辺りを見回しているその時だった。


「ユーリ!」


 声の方に目をやると、イーサンが再びアリエルに近寄って来た。


「ユーリ、楽しんでいるかい?」


 そう言ったイーサンはふらついていて、とても素面(しらふ)には見えなかった。


「ええ。私この様な華やかな場にお招きいただいたのは、初めてございます。誠に楽しゅうございます」


「あなたの様な華のある女性にふさわしい場所だ」と言ってイーサンはアリエルにウィンクをした。


「まあ、閣下。お言葉が上手な方だわ」とアリエルは微笑んだ。


「今日の閣下のお召し物、素晴らしいです。それに、そちらは素敵なカフスですわね。その飾りボタンも。とても美しいダイアモンドだわ」


 そう言ってアリエルはイーサンを見つめた。


「よろしかったら、他の宝石もご覧に入れましょうか?」


「まあ、そんな。私はそんなつもりで言ったのではございません。閣下にとてもお似合いだったので、思わずそうお伝えしただけですわ……」


 アリエルはそう言って目を伏せた。


「よろしければ、私の部屋であなたに宝石のコレクションをお披露目する機会をいただけないか?」


「まあ、そんな……」そう言いながらアリエルは遠慮がちに頷いた。


「ただ、どんな宝石もあなたの前では霞んでしまうでしょう」イーサンはそう言ってアリエルを見つめた。


「ふふふ。いけない方だわ。あら、閣下、グラスが空に」


 アリエルはそばにいたエルに目配せをした。


「そこのあなた、閣下にワインを差し上げて」


「はい、ただいま」


 エルがワインを渡そうとするとアリエルは、「私がお渡しするわ」と言ってエルからグラスを取りあげた。


「閣下。よろしければこちらを」

 そう言ってアリエルはにっこりと笑って差し出した。


 イーサンはアリエルから手渡されたグラスを一気に飲み干すと、アリエルの手を取った。


「ユーリ、さあこちらへ」


「まあ閣下ったら」

 アリエルはイーサンに手を取られ、エスコートする方向へ歩き始めた。


 イーサンに手を引かれながら、アリエルはエルを振り返った。


 言葉には出さず、「エミリーを呼んで。シモンは会場で待機させて」と言った。


 エルはそっと頷いた。


 イーサンはアリエルの手を取りながら、舞踏会の会場を出て二階への階段を登り始めた。


「悪いお方だわ」


「悪いのは美しい君だ」


 イーサンは、酒で呂律があまり回っていない。


「まあ、お上手だわ。閣下、私本気にしてしまいますわ」


 アリエルはイーサンにエスコートされるまま、イーサンの居室の前に立った。


 エルが後ろからこっそりとアリエルの後を追い、階段の影に隠れた。アリエルは振り返らず頷いた。


 部屋に入ると、アリエルはソファーに腰をかけた。

「閣下、私少し喉が乾きましたの。何かいただけますか?」


「ワインはどうかな?」


「素敵だわ。ぜひいただきたいわ!」


 イーサンはワインが置かれたテーブルまで歩くことさえ難しいくらいに足がもつれていた。それでもふらつきながら用意してあるワインに手をかけた。


 アリエルはイーサンの手に自分の手を重ね、

「閣下、よろしけば私に給仕させてくださいませ。お部屋にお招きいただきましたお礼に。何か、させていただきたいの」


 そう言ってにっこりと微笑んだ。


「そうか、美しい女性に給仕されるのは至高の喜びだな。あなたにお任せしよう」


 そう言うとイーサンはそのままソファに倒れ込んだ。


「御用命いただき光栄でございます」

 とアリエルは笑った。


 アリエルはグラスにほんの少しワインを注ぎ、ドレスの胸に忍ばせていた睡眠薬を素早く混ぜ込んだ。

「閣下、ワインのご用意ができましたわ」


 そう言うとすでに意識が混濁しているイーサンの口に一気に流し込んだ。


 イーサンが完全に眠りに落ちたのを確認した後、アリエルは静かに部屋の扉を開けた。見張り番が一人、廊下に立っている。


「そこのあなた、ちょっとよろしいかしら?」


 アリエルは小声で見張り番に声をかけた。見張り番はアリエルの方へそっと近づいた。アリエルは周囲を確認するように見渡した。


「あの、あまり大きい声では言えないのだけれど、実は閣下にお部屋に呼ばれて。あの、つまりそういう関係なのだけれども、ちょっとドレスを一人ではどうにもできないから、あそこにいる女の使用人を呼んでもらえるかしら?」


 とアリエルは恥ずかしそうに言って銀貨を一枚握らせた。


 見張りは少し離れた場所に待機していたエミリーを見つけ、それを伝えに行った。


 その隙にアリエルは、階段の影に隠れていたエルを部屋に招き入れた。


「エル、その男の服の中から鍵を探して頂戴」


 エルは頷いてイーサンの体を弄った。


「ありました」


 イーサンの上着の胸ポケットに輪で繋がれた鍵束は入っていた。


「全く無用心な男ね」

 そう言った時、部屋をノックする音が聞こえた。


「閣下、御令嬢、お呼びでしょうか?」

 アリエルは静かにドアを開けた。


「入って頂戴」


 アリエルが返事をすると、エミリーはそっとイーサンの部屋に入った。


「さて、ここからね」


「何とかここまできましたね」


「エミリー、エル。あとは二人に任せるしかないわ。でもどうか無理はしないで。今日の任務である宝石商のことはすでにハラスが情報を得ているから」


 アリエルはそう言って、二人の手を握った。


 二人は黙って頷いた。


「エル、あの男をベッドに寝かせて、丸裸にしてだらしなく布団をかけて頂戴。服は脱ぎ捨てたように置いてくれる?」


 アリエルはドレスの袖から口紅を取り出して指につけた。そしてそれを裸でベッドに横たえられたイーサンの顔と体に拭ってなすりつけた。それから香水をつけていた手首をシーツに擦りつけた。


「私が出ていくまで、念のためにこの男の口と手を縛っておいてもらえる?」

 アリエルがそういうと、エルは素早く男の手と口をそばにあったネクタイとベルトで縛った。


「エミリー証拠書類を持ち出せたら、鍵を持ってこの部屋まで戻ってきて」


「承知いたしました。見張りにはユーリ様のことを執事に伝えに行ったとでも言いましょう」


「私も、見張りにあなたが戻ってくることを伝えておくわ」


「エル、できるだけ証拠になりそうなものがあったら、持ち出して頂戴」


「それと私とイーサンがお楽しみ中だってこと、周囲に暗に匂わせておいて」

 と微笑んだ。


「全くあなたという人は……」


「頼んだわね」


 先にエミリーを部屋から出すと、エミリーは見張りに事情を説明しに行った。その隙にエルは部屋から出て暗がりに消えていった。

最後までお読みいただきまして、誠にありがとうございました。

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