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32. 舞踏会の裏で

 イーサンと会った三日後、アリエルは会議室にエミリー、マリー、ハラス、シモン、エル、そしてサリーを集めた。


「もうみんなに伝わっていると思うけれど、ハンブルグ家の舞踏会に潜入調査に入ることになったの。マリーも当日は貴族令嬢として参加して頂戴」


「エミリーとエルは屋敷に潜り込んで、当日は使用人として給仕してもらうわ」


「シモンは私の同伴者の執事として来てくれるかしら?」


「表向きの目的はハンプシャー家や周りの貴族と接触として懇意にしている宝石商を聞き出すこと。あとはブルスト教会との関係がある人間も割り出せるとなおよしだわ。


 それから、宝石協会とも強い繋がりのありそうな人間の目星を付けたいわね」


 アリエルがいうと、皆が頷いた。


「マリーには当日私が知人のフリをして話しかけるわ。その後は私に同伴して頂戴。社交界の力関係等を一通り皆に説明しておいてもらえるかしら?」


「承知いたしました」

 とマリーはうなずいた。


「エル、屋敷の見取り図は手に入った?」


「はい。今度の舞踏会に手伝いを頼まれていると伝えた後、ハンブルグ家の使用人から購入しました」

 そう言ってエルは机の上に地図を広げた。


「ありがとう。この国は何でもお金で解決できるのね」

 とアリエルは苦笑した。


「重要な書類はおそらくここの執務室ね……執務室の鍵はかかっている?」


「おそらく」


「ハラス、シモン、イーサンはどれくらい執務に関わっている?」


「はい。ハンブルグ侯爵に付いて領地運営等にも携わっているようです」


「ハンブルグ家の嫡男であるイーサンの署名がなされた書類も国に上がってきております」


「ふうん。じゃあ執務室の鍵、持っていると思う?」


「確証はありませんが、その可能性は高いかと」


「そう。イーサンがおそらく私に接近してくるはずだわ。私もうまく距離を取るように努めるけれど、念のために一服盛れる準備をしておきたいの。即効性のある睡眠薬と下剤を用意しておいて」

 事もな気にアリエルは言った。


「……承知いたしました」


「エミリーとマリーにも同じものを」


「それから、エルは当日なるべく私の目の届く位置にいて頂戴。折をみて合図を出すわ。当日はイーサンの飲み物に少しずつスピリタスを混ぜてなるべく早く酔いが回るようにして欲しいのだけれど……あらかじめワインボトルに仕込んでおけないかしら?」


「……まさか」


「ええ。できれば彼の部屋まで行きたいわ。泥酔で済ませてあげるなんて寛容な処置だと思うわよ」

 エルは苦笑いした。


「ハンブルグ家で使われている使用人の制服を調達しておきましょう。できる限り、采配が効くよう、お金の力を借りるかもしれません」


「備品の売却費がまだしこたまあるわ。シモンは私に随時参加者の相関関係を伝えて頂戴」


「護衛はいかがいたしますか?」


「そうね。マリーと私の馬車の中に3人ずつ待機しておいて頂戴。一人腕の立つ護衛を屋敷の中に忍び込ませておきたいのだけど難しいかしら? お金なら出すわ」


「検討してみましょう」


「それからハラス、ハンブルグ家が提出した昨年の納税に関する書類や、領地運営に関する書類を一式複製して。偽装用の書類としての屋敷に持ちみたいわ」




 それから、ただでさえ時間がないというのに、アリエルの公務の中に舞踏会のためのダンスの練習という時間が組み込まれた。


「こんなに重たい服に加えてこんな動きにくい靴を履いて踊るなんて、狂気ね……」


「淑女の嗜みです」


 エミリーはそういうと、時間を見つけてはアリエルに稽古をつけた。


「今だって手一杯だっていうのに、ダンスなんかに時間を費やすだなんて……馬鹿げているわ」


「アリエル様が舞踏会に参加されるとおっしゃったのです」


「……悪手だったわ」




 舞踏会の当日、アリエルとシモンの二人はそれぞれ変装して馬車に乗り込んだ。付き人に扮した護衛を四人ずつ乗せた馬車でアリエルの乗った馬車を挟む形で隊列を組みハンブルグ家に向かった。


「念のため聞いておくけれど、今日ルイ殿下は出席されるのかしら?」


「はい。出席者名簿の中に殿下のお名前もございました。ただ、来賓としてご挨拶をされた後、通常ですと殿下専用の控え室でお過ごしになることが多いと聞いております」


「ばったり会う可能性もあるわね……」


「いかがされますか?」


「この際、殿下のことは気にしてはいられないわ。あまり深く探られない程度に潜入捜査だということだけ伝えましょう。もしもの時の対応はあなたにお任せするわね、シモン」


「承知いたしました」


 三台で編成された馬車で屋敷まで向かい門番のところで止まった。豪奢に飾り立てられた門の向こうには、ゴテゴテとした装飾が施された大きな屋敷が見えた。


「舞踏会への参加だ」というとあっさりとその門は開いた。


 そしてアリエルを乗せた馬車は、エントランスの前につけられた。


「じゃあ、行くわよ、シモン」


「承知いたしました」


「できれば執務室にたどり着きたいわね」


「くれぐれもご無理はなされないようにお願いいたします」


「わかっているわよ」

 アリエルがそう言うと、シモンは馬車から先に降りアリエルに手を差し出した。


 アリエルとシモンは玄関の扉に向かい歩き出した。

最後までお読みいただきまして誠にありがとうございました。

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