30. 舞踏会への誘い
エミリーはアリエルに栗色のカツラを被せ、自分自身も髪の色、髪型を変えた。
他の三人も遠目には本来の姿が分からないよう変装していた。
アリエルは久しぶりに貴族の娘として、帝都に出た。
「やっぱりトルアシアって、すごい都会ね!」
「はい。アルメリアとはやはり規模が違いますね」
「宝石店が見たいわ。皇后に贈る宝石を探してるの。一番高くて、売ったら一番高そうなものよ。できれば非常に垢抜けないものがいいわね。それを送りつけて皇后の機嫌を取りたいの」
エミリーはその言葉に苦い顔をして笑った。
「その宝石が売り出されたら、行方を追うと言うことですね?」
「つるんでいる宝石商を割り出したいわ」
「承知いたしました」
「じゃあ、まず帝都で一番大きな宝石店から行きましょう」
アリエル達は帝都で一番大きな宝石店の前に馬車をつけた。宝石店の前にはすでに五台の馬車が止まっていた。
「ねえ、あの馬車の紋章、全てハンブルグ家の馬車だわ」
とアリエルが言った。
「中にハンブルグ家の方もいらっしゃるかもしれませんね」
「ついてるわね。行くわよ」
アリエル達は宝石店の前まで近づいた時だった。
宝石店の前に立っていた店員は、
「大変申し訳ございませんが、本日は貸切のお客様がいらっしゃいますため、入店はお断りしております」
と言った。
「そう。それは仕方ないわね。また改めるわ。窓から見える宝石を少しだけ拝見してもよろしいかしら?」
「はい。それでしたら問題ないかと」
と店員は答えた。
「ありがとう」
アリエルはそう言うと、店先に飾られている宝石を見るため、窓に近づいた。
「エミリー、売られている宝石を頭に入れて。エルはハンブルグ家の誰が来ているのか目を凝らして頂戴」
その言葉に二人は黙って頷いた。
アリエルはしばらく宝石に見入っているフリをしていた。
「ここからじゃよくわからないけれど、あの左側の首飾り、装飾の技術が見事ね。ただ、縁取りに使われている金属部分って純金かしら。混ぜ物入っていない?」
「はい。この店に置いてある金の部分、純金のものとそうでないものが混ざっているようですね」
「だいたい覚えた?」
「はい」
「エルは? 誰がいるかわかった?」
「はい。おそらくハンブルグ侯爵婦人とその嫡男、それから次女の方がいらっしゃっているようです。それと使用人及び付き人が五人ほど」
「使用人の顔、全部覚えた?」
「はい」
「じゃあ、長居は無用ね。いきましょう」そう言ってアリエル達は馬車に戻ろうとした時だった。
「お待ちくださいませ」
先ほどの店員がこちらに駆け寄ってきて、アリエルに声をかけた。
「ハンブルグ侯爵ご一家のご好意により特別に入店の許可が出ました。よろしければどうぞ、お入りくださいませ」
「あら、私、ハンブルグ侯爵閣下とは何のご縁もないのだけれど」
「お客様をお呼びするようにとのご指示でございます」
「そう。じゃあ、お伺いするわ。付き人の一人を同伴することを許可していただけるかしら? 他の者は外で待たせます」
アリエルはそう言うと、エミリー、エルには馬車で待つように指示を出した。
「こちらへどうぞ」と店員は言い、店の扉を開けた。
アリエルが店に入ると、ハンブルグ侯爵の嫡男とおぼしき若い男が立っていた。年の頃はアリエルと変わらないようだった。
「急なお声がけ、どうぞお許しください。外に美しい方が見えたので。私はハンブルグ侯爵の嫡男、イーサンと申します。本日は母に贈る品を買い付けに来たのですが、貴方様のお買い物を邪魔してしまい申し訳ございません。よろしければと思い、お招きさせていただきました」
「まあ。お優しいお心遣い、痛み入ります。ハンブルグ侯爵御子息、イーサン閣下、私はアルメリアより参りましたデューク伯爵の長女ユーリでございます。このような場にご同席させていただき、大変光栄でございます」
アリエルは膝を曲げた。
「何と、アルメリアよりいらっしゃっていたのですか。それなのに、我々が大変失礼しました。ここの宝石商はいいものを取り扱っています。どうぞごゆっくりと見ていってください」
「ありがとうございます、イーサン閣下」
アリエルは笑った。
「ところで、デューク伯爵令嬢ユーリ殿、トルアシアにはいつまでご滞在でしょうか?」
「はい、まだしばらくこちらに滞在する予定にございます」
「そうでしたか! それならば、週末に屋敷で舞踏会を開く予定があります。せっかく何かのご縁で知り合えたのです。よろしければぜひ、あなたをご招待したい。お越しいただけませんか?」
「まあ、そんな華やかな場に私のような田舎者が出たら、きっとご迷惑になりますわ」
「まさかそんな! トルアシアでもあなたのように美しい方には滅多にお会いすることはできない。きっと舞踏会の華になるでしょう。どうか、私の勇気を断らないでいただきたい」
そう言ってイーサンは膝を曲げた。
「お上手なお方だわ。では、閣下のご迷惑にならないのであれば、せっかくのお誘いですから、謹んでご参加させていただくことにいたします」
「それはよかった。使いの者を送りましょう」
「シモン、閣下に滞在先をお伝えしておいて」
とアリエルはシモンの顔を見た。
シモンはまたとんでもないことに首を突っ込んだなという顔をしながら、黙って頷いた。
アリエルは一通り店にあった宝石を物色すると、イーサンに頭を下げて店を出て馬車に乗り込んだ。
「反吐が出るわね、全く」
とアリエルは言った。
シモンとエルとエミリーも珍しく同意したように首を縦に振った。
「でも、ハンブルグ家に潜入できる機会を得たわ」
「また面倒なことになりませんかね?」
「大丈夫よ。うまくやるわ。私が誰だかなんて、あちらはわかってなんていないわ。それに、みんな協力してくれるんでしょう?」
アリエルは悪戯な笑顔で笑った。
「断れないことを知っていながら、悪いお方だ」
「イーサンに婚約者はいるの?」
「はい。現在婚約中ではあります」
「嫌な男ね。婚約者は誰?」
「はい。スミス侯爵の長女です。ただ、あの通りの財力と権力をお持ちですので、女性の交友関係は派手ではございます」
「まあ、蛆虫のような連中ね。招待状が来たら一通偽造して頂戴。エミリーとマリーにも参加してもらうわ。マリーには例の男爵と一緒に来てもらうわ。私の同伴はシモンが適任ね」
「くれぐれもお気をつけくださいね」とエミリーは怖い顔で言った。
「……わかっているわよ。ところで私、舞踏会には出たことがないのだけど、大丈夫かしら?」
「……基礎だけ私がご教授いたします」
エミリーは呆れた声で答えた。
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