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28. 執務室での面会

 ルイとオリバーはアリエルの執務室に通されていた。


 ルイがアリエルと向かい合ってソファに腰を下ろすと、オリバーは黙って壁際に立った。


「そうだわ。オリバー。よかったらお食事はいかが?今みんな食堂に集まっているの」

 オリバーはルイの方を見た。ルイは黙って頷く。


 アリエルは執事として側にいたエルに、


「エル、オリバーを食堂に案内して、殿下にお茶の用意を。それが終わったらエルも食堂でみんなと食事を取って頂戴。エミリーが戻っていれば、彼女にも声をかけて。晩餐の中で重要な話題が出たなら、後で議事録を私に」


 アリエルはエルに目配せをした。暗にオリバーにも情報を共有し、オリバーの知る情報も聞いておけということだった。


「承知いたしました」


「私の悪口は書かなくても良いわよ」と付け加えた。


「御意」


 エルはお茶を入れ、静かに執務室を出た。

 ルイとアリエルは目が会うと、笑い合った。


「二人でこんなふうに話をするのは、久しぶりだな」


「トルアシア城の夜のお庭以来です」


「アリエル、こちらへ」そう言って、ルイはアリエルの手を取り、自分の隣に腰掛けるよう促した。


 アリエルが隣に座ると、ルイはアリエルの頬に触れた。


「夜の庭であなたと話した時から、ずっとあなたが心の中にいた」


「……殿下。私もずっと殿下をお慕いしておりました」


 アリエルは頬に触れるルイの手に自分の両手を重ねた。


 ルイはもう片方の手でアリエルの頭を抱きよせ、アリエルの唇に口づけをした。

 アリエルの腕は、そっとルイの背中にまわされていた。


 居住まいを正したアリエルは言った。

「実は、皇后陛下のことで、ご相談がございます」


「ああ、オリバーから聞いている。皇后と接触する機会が欲しい、と言うことだろう」


「はい。おっしゃる通りでございます」


「それならば、皇室で歓迎の晩餐の席を設けると言うのはどうだろうか。おそらく父上も出席してくれるだろう」


「マティス殿下にも、ご出席いただけますか?」


「ああ。働きかけてみよう」


「ありがとうございます」


 ふと会話が途切れた時、アリエルは口を開いた。


「いつだったか殿下が、私に幸せについて尋ねられたのを覚えていますか?」


「ああ、覚えている」


「前皇后は殿下を心から愛していらっしゃいました。だから、殿下はきっと、ずっとすでにお幸せであったのではと、お伝えしたくて」


「ああ、私もそう思う。あなたが真実を教えてくれたおかげだ」


「私は殿下にとって酷なことをお伝えしてしまうことが、本当に怖かったです。そしてこれからも、殿下には知りたくもない多くの不都合で残酷な真実をお伝えしなければならないことを、どうかお許しください」


「どんなに醜い事実や都合の悪い真実があろうとも、そこから目を背けるつもりはない。あなたはそのために、ここまで来てくれたのだろう? 私はその期待に応えられるよう、責務を全うするつもりだ。だからアリエル、私のそばにいてくれ」


「はい。私はいつも殿下と共にあります」


「早く嫁に来い」そう言うとアリエルの手を取りそっと唇をつけた。


「それは殿下の手腕次第でございます」

 とアリエルは笑った。


 離宮からの帰り道、アリエルとの会話を反芻していた。


「マティス殿下にも、ご出席いただけますか?」


 尋ねたアリエルの言葉が気になっていた。


 ルイ自身もマティスについては、よくわからないことが多かった。城でも顔を合わせることなどほとんどなく、公務の場に出てくることも少ない。


 まだ十五歳と言うこともあるが、それにしては不自然だった。ルイ自身、元々現皇后についてはわからないことが多かった。


 そして今、母を死に追いやったという感情が加わり、彼女について否定的にならざるを得なかった。しかし、感情的になることで、困るのはおそらくルイだろう。今はとにかく、慎重になるべきだ。


 ルイは自室に戻ると母が残してくれた児童書を手に取った。本の中から母が残した言葉を探した。

「私は本当に愛されているのだな」と思えた。


 父と母の間のことはあまりわからない。ただ、母が残した遺書を読む限り、母は父と私を愛していたことがありありと伝わってきた。


 これまで、「どのように忠誠を誓わせ統治するか」そればかりに捕われていた。ルイは自分が見えているものがあまりにも少ないのだと思い知らされた気がしていた。

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