27. 議会と派閥争い
夕方になり、書類を整えたサイモンとハラスがようやく離宮に到着した。
アリエルはシモン、サイモン、ハラスを会議室に集めた。
「サイモン、ハラス、議会の派閥について、まとめてくれたかしら?」
「はい。こちらに詳細をまとめて参りました」
そう言ってハラスは十センチほど厚みのある書類をアリエルに手渡した。
「ありがとう。目を通しながら聞くから、かいつまんで殿下と私に説明して頂戴。
まずは皇帝派と言われている議員の内訳から。
特に問題のなさそうな人物の詳細は省略していいわ。後で私が書類に目を通すから」
「承知いたしました。現在皇帝派と呼ばれている貴族で特に権威があるのはルノー公爵、ハンプシャー侯爵、ハンブルグ侯爵、スミス侯爵、リチャード伯爵がいます」
「ルノー公爵以外は全員黒じゃない」
「……」
「完全な皇帝派の議席はどれくらいあるの?」
「はい。議席数でいうと、全130議席のうち、皇帝派と呼ばれている有力者の議席が先ほどの5家で、ルノー公爵が7議席、ハンプシャー侯爵が7議席、ハンブルグ侯爵が5議席、スミス侯爵が4議席、リチャード伯爵が3議席を持っています。
その他の貴族はそれぞれ1席ずつとなりますので、残りの皇帝派の議席は35議席程度です。その中でも完全に皇帝派と言えるのはおそらく13議席程度かと」
「少ないわね。じゃあ完全に皇帝派と言えるのは議会でも42席程度なのね」
「はい。そうです。それ以外の中堅貴族は表向きは皇帝派となっておりますが、おそらくハンプシャー家らに買収されているかと」
サイモンは言った。
「ええ、わかっているわ。国家予算の収支が、8年ほど前からいくら見ても辻褄が合わないの。どれだけ綻びを探しても、見つけられないくらい巧妙に改竄してある。
おそらくかなりの額の国税がどこかに流れている。それに今の皇后が即位したあたりから要職についている大臣達の顔ぶれが全面的に変わっている。
表向きの「皇帝派」と呼ばれる者達が、うまく流用していると見て間違い無いと思う。」
「私とハラスも同じ意見です」とサイモンが言った。
「ずいぶんと好き勝手やってるわね。残りの中立派の議員はどう?」
「はい。中立派と呼ばれる議員の議席数はおおよそ40席前後です。
完全に中立の立場を公言していて影響力を持っているのが、ハミルトン公爵、ブラントン公爵、マンチェスター公爵です。こちらの三家はそれぞれ議席を5議席ずつ持っています」
「なるほど。どちらかと言えばこの「中立派」と呼ばれる議員が本来のあるべき「皇帝派」と考えた方がよさそうな気がするわね。
権威よりもお金が優先される今の政治的状況では、中立派を貫くということが賢明と判断したというところでしょうね」
「はい。おそらく。現皇帝陛下はこちらのルノー公爵とこちらの4家との結びつきの方が強いのかと」
サイモンがいうとアリエルは頷いた。
「このハミルトン公爵、ブラントン公爵、マンチェスター公爵については、もう少し資産状況と現在の領地の状況と税収を調べて頂戴。ハラス、お願いできるわね?」
「承知いたしました」
「残りの中立派と呼ばれる貴族で気になる人はいる?」
「はい。残りの13議席を持つ者は公爵家のものが多く、目立った人物はいないように思えます」
「残りの一割前後の議席は地方議員の浮動票ね。でもこちらはすでに成金侯爵達の息がかかってそうな気がするわ」
「はい。アリエル様のご推測の通りかと」
「ありがとう、大まかな構造はわかったわ」
「シモン、エドにお願いしていた税収のまとめは用意できそう?」
とアリエルは尋ねた。
「はい、明日にはこちらにお持ちいただける手筈が整ったそうです」
「そう。やはりそこと照らし合わせないと、わからないことが多すぎるわ……」
「ところで、オークションで使用した金貨の流通は少しでも動きがあった?」
とアリエルはシモンのほうに目を向けた。
「今のところ両替商のところに流れてきたという話は聞いていません。おそらくまだブルスト教会の中にあるのかと」
「あそこの教会本当に怪しいわね。なのに、こちらはまだ確実な証拠を掴めていないのが悔しいわ。この間頼んでおいたブルスト教の聖職者の貴族出身者の名簿はできた?」
「はい。ただいまとりまとめております。ただ、王都以外の教会では顔と名前が一致していないものが多く、確証が持てていない者も多くいます」
「それは、追々でいいわ。取り急ぎでハンプシャー家、ハンブルグ家、スミス家、リチャード家の出身者の名前はあるかしら?」
「はい。スミス家、リチャード家の出身の者が何人かいます。それも要職についているものが数名います」
「ああ、あの成金侯爵。どこまでも図々しい人たちね、反吐が出そうだわ」
「……」
「でもこれでようやく、少しずつ繋がってきたわね」
ようやく、少しずつだが点と点が浮かび上がってきた。
「では、ひき続きサイモンとハラスは議会とハンプシャー侯爵家、ハンブルグ侯爵家、スミス侯爵家、リチャード伯爵家の動きを追って頂戴。それからブルスト教が彼らと接触している形跡があったら随時報告して」
アリエルがそういうと、二人は頷いた。
その時だった。エルが会議室の扉をノックした。
「アリエル様、ルイ殿下がお越しです。」
「あら、殿下が? まあ、そう……」アリエルはしばらく考えていた。
「でも今はまだ会議中だから、申し訳ないけれど、お帰りいただいてもらえる? また明日以降にでもこちらから使いを出しましょう」
「え?……しかし……」エルは言った。
「お待ちいただくのも心苦しいから、お帰りいただきましょう」
「……承知いたしました。」
そう言ってエルは渋々と部屋を出た。
「ごめんなさい、続けましょう」とアリエルは参加者の方に向き直った。
「なりませんよ、アリエル様」とサイモンが言った。
ハラスとシモンもサイモンに同意して首を縦に振っていた。
「何がかしら?」
「ルイ殿下を二回も追い返すなど。」
「……別に、追い返しているわけでは……そんな言い方しなくたって……だって今はまだ仕事中だし」
「トルアシアとアルメリアの和平を維持するのも大切な公務の一環です」とサイモンが言う。
「我々が一通りお伝えすべきことはもう、お伝えしました」シモンも続いた。
「それに調査が残っておりますので、我々も早々に切り上げたいですな」とハラスは目配せをした。
「……わかったわよ。では、今日はこれくらいにしましょう。サイモン、ハラス、シモン、よく調べてくれたわね、ありがとう。下がっていいわ。」
三人はアリエルに頭を下げた。
部屋を出ようとする三人に
「食事の用意をしていたのよ。よかったら食堂で食べて行って頂戴。本当は私も参加しようと思っていたのだけど、また別の機会にするわ。私の悪口で盛り上がることを今日は特別に許可しましょう」
とアリエルは笑った。
三人は嬉しそうに部屋を出た。
アリエルは窓を覗き、ルイの姿を確認すると玄関の方へ駆け出した。
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