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22. 皇太子のプロポーズ

 わかってはいたが茶会に出かけるのは、億劫だった。それでも第四王女に歩み寄ると決めた以上、避けては通れないと肚を決めた。


 ルイがオリバーを伴い離宮に到着し、門をくぐると、皇室の馬車と、ルノー家の馬車が目に留まった。

 ルイはその時初めてこの茶会がただの面会の場ではないことに気がついた。


「オリバー、どうなっている?」


「申し訳ございません。私もアリエル殿下から茶会の招待状を受け取っただけですので、詳細までは……」


「とにかく行こう」

 そういうと、離宮の玄関まで急いだ。


 入り口には以前見た執事が立っていて、

「ルイ殿下お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

 とルイとオリバーを中に招き入れた。


 離宮の中は、ルイが想像していたものとずいぶん違っていた。何の装飾もなく、必要最低限の調度品しか置かれていない。何よりもたたずまいが王女が住まうそれとはかけ離れていた。装飾品の類は全くなく、ガランとした空間だった。


「こちらでございます」

 とルイが案内されたのは、晩餐会場の扉の前だった。


 しかし、エルが扉を開けると、そこは大きな机がある会議室だった。周りを見渡すと、見覚えのある顔が目に入った。


「おお、ルイ。こちらに座れ」

 そう声をかけたのは皇帝である父だった。


「父上、なぜここに?」


「なぜだと? 可愛い娘に呼ばれたのだ。駆けつけないわけにはいかない」

 と父は言った。


 父の隣には側近のエド、サイモン、アレンの三人が座っていた。

 三人はルイを見ると「ルイ殿下にご挨拶申し上げます」と席を立ち頭を下げた。


 そして父の向かいにはルノー公爵夫妻が座っていた。

 ルイの顔を見ると、ルノー公爵は

「ルイ、久しぶりだな。婚約おめでとう」

 と言った。


「祖父君……ありがとうございます」

 とルイは頭を下げた。


 その隣に見慣れない女性が座っていた。他の参列者と比べると質素な身なりをしており、年の頃は母と同じくらいの女性だった。


 ルイは父の隣に腰を下ろした。オリバーも末席に腰をかけた。

 周囲をみまわしてもアリエルの姿はなかった。


 アリエルの登場を待つことなく、参列者にお茶と菓子が振る舞われた。ルイが手配したものだった。


「なかなかうまいな」

 父はそう言って菓子をほう張っている。


 ルイは状況を理解できず、ただ黙って父の隣に座っていた。


 しばらく、沈黙が続いていた。



 その時だった。


「アリエル殿下の準備が整いました」

 と言って、執事のエルが扉を開けた。


 扉が開き、そこに立っていたのは水色のドレスを纏い、眩しいくらいに飾り立てられた女性だった。そしてそれはルイがよく知る、夢にまで見た女性、ユーリだった。金色の髪には、自分が贈った髪飾りが飾られている。ルイは、思わず立ち上がった。


 ルイが黙ってアリエルを見つめていると、父が口を開いた。


「おお、アリエル。今日は一段と美しい。さあ、こちらへ来なさい」


 父はそう言って立ち上がって手招きをし、アリエルを抱きしめた。


「皇帝陛下にご挨拶……」

 そう言いかけたアリエルを遮って父は続けた。


「親子の間にそんな堅苦しい挨拶はいらぬぞ、アリエル」

 と父はアリエルの肩を抱いた。


「お父様、ご機嫌いかがですか?」

 とアリエルは笑った。


「可愛い娘から呼び出されて、嬉しくないわけがなかろう」

 と父は笑いアリエルの頬にキスをした。


 ルイは、訳がわかないまま立ち尽くし、ぼんやりとアリエルの方を見ていた。

 するとアリエルはルイの前に立ち、


「ルイ皇太子殿下にご挨拶申し上げます。アルメリアより参りました、アルメリア王国第四王女のアリエルにございます」


 と膝を曲げ、ルイの方を見て微笑んだ。ルイは、何が起こっているのかわからず、言葉が出てこなかった。


「婚約者のあまりの美しさに声が出ないと見える」

 と父は笑った。


「アリエル、今日のそなたは本当に美しいな。わざわざ来たかいがあった」

 とルノー公爵が笑った。


「おじい様、おばあ様、今日は急なお声がけにもかかわらず、お越しいただき誠にありがとうございます」

 とアリエルは二人に笑顔を向けた。


 アリエルはルイの方を向いた。


「ルイ殿下、騙すような真似をして申し訳ございません。私がアルメリア王国第四王女のアリエルにございます。初めてご挨拶申し上げます」


 ルイは「トルアシア帝国皇太子、ルイ・ハーノバーだ」

 とアリエルの方を見た。


「ようやくご挨拶できましたわね」


「あなたは、どこまでも策士だな」

 とルイは言った。


「あら、私は殿下に賄賂をお贈りいたしました。お気づきになられませんでした?」

 とアリエルは悪戯な笑顔を見せた。


 ルイはハッとして、腰につけている短剣を取り出し、鞘から抜いた。光に照らされた短剣の刃にArielという文字とアルメリアの王家の紋章が浮かび上がった。


「だからお前は鈍いのだ」

 と父は言った。


「父上は全てご存知で?」


「何をだ?お前がアリエルに惚れているということをか?」

 と父はルイをからかった。


「アリエルは、本当に私の婚約者なのですね?」

 とルイは尋ねた。


「くどい。だから初めからそう言っているではないか。何度も言わせるな。私がこの縁談を取りまとめるのにどれほどの労力を費やしたと思っている? だが、アリエルはまだ結婚するとは言っていない。私はお前に言ったであろう、アリエルのことは任せる、と」

 そう言って父は笑った。


「アリエル。どうか私にあなたを幸せにする権利を」

 ルイは跪きアリエルの手を取った。


「それはどうかしら? 殿下は妻になる人に忠誠を望むのでしょう?」


「あなたが手に入るのであれば、私は喜んで永遠の忠誠を誓おう」

 そう言ってルイは、握っていたアリエルの手に口をつけた。


「トルアシアは、アルメリアに永遠の忠誠を誓ったわね?」

 とアリエルは笑った。


「我が民の十代先までの繁栄と、永世和平をお約束いただけるのならば、喜んで我が身を差し出しましょう」

 アリエルはルイが握った手の上に、自分の手を重ねた。


「アリエル、あなたは今から私のものだ。つまり、あなたは今この瞬間からトルアシアのものになった」ルイはそう言ってアリエルを抱きしめた。

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