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18. 恋する王女

 チャリティーオークションに参加した翌日、アリエルはシモンと共に執務室にいた。


 大きな机に資料を広げ、エド達が持参した国家予算の収支を一つ一つ洗い出していた。前皇后が亡くなる前までは、皇后につけられている予算に対し細かく収支報告があげられていたため、皇后がどのような暮らしをしているのかが筒抜けになっている。


 そして、皇后が即位して、七年ほど経った頃に、側室として現皇后が離宮に召し上げられていた。

「ほう、この頃からね。ハイエナが群がり始めたのは」とアリエルは言った。

「議会の記録を見たところこの頃は、円滑な議会運営を阻むために発言権のある貴族が結託しているようでした」


 あえて派閥を作り、進まない議会運営を懸念した皇帝に便宜を図らせるというのが大まかなシナリオだったのだろう。議会の円滑な運用を約束する代わりに、ハンプシャー侯爵家から側室を召し上げるよう仕向けたのだろう。


「ハンプシャー家が今回の件の黒幕と見ていいのかしら?」

「それはそうとも言い切れません。元々ハンプシャー家は中立的な立場にいたようなのですが、現皇后の継母に当たる後妻がリチャード家より嫁いできたあたりから急に積極的に政治に参加するようになっています。その頃から急激に経済状態も良くなっています。こちらにも何かしらの意図が働いていると考える方が自然です」

「なるほどねえ。その辺りの背景はもう少し、調べておいてもらえる?」

「承知いたしました」


「それにしても側室に、予算をかけすぎているのが気に入らないわね」

「……」

「皇后が側室時代に離宮にいた頃、離宮にかけられた人件費の詳細や、使用人名簿はない?それから、この頃に彼女が購入した宝飾品購入先の名簿も。後、側室がきてから、なぜか皇室自体の人件費も少し上がっているのよね。側室が来たときに、皇室にも誰か送り込んでいる可能性があるから、皇室付けになっていた使用人の名簿と、皇后が懇意にしていた取引先の名簿も準備して頂戴」

「承知いたしました」

「それから前皇后のルノー家の公爵夫妻についても、詳しく調べて頂戴。お願いね」


 その時、扉をノックする音が聞こえ、エルが執務室に入ってきた。

「アリエル様。ルイ殿下から面会の依頼が届いております」

「そう……」

 アリエルはイ殿下に会いたいという自分と会いたくないという自分の間で葛藤していた。

「今度こそ、お会いしないわけにはいかないかと」

「そうよね……」

「もう、良いのではありませんか?そろそろ全てを打ち明けても」

「ええ、そうかもしれないわね……少しだけ、時間をもらえる?」

「承知いたしました。ただ返答はあまり伸ばせませんことをお心に留めておいてくださいませ」

「わかったわ」


 その夜、アリエルは眠れなかった。


 前皇后について考えていた。

 側室が来てから、気づかない程度に増えていた前皇后の使用人の数と使用人の配置換え。

 前皇后は、おそらく使用人に毒殺されている。しかし、何の根拠も掴めていなかった。現皇后がこの毒殺に直接関わっているとは考えにくい。ただ、側室だった現皇后を正室に召し上げたいという議会の意図は明白だった。一度この件を皇帝陛下に相談したい。しかし、証拠ものないのに、滅多なことは言えない。


「ルイ殿下、お母様が殺されたって知ったらどう思うかしら」

 とアリエルは呟いた。


 ルイも前皇后も貴族政治の犠牲者ね。若すぎた皇帝一人では、さすがにどうにかできる状況ではなかったでしょう。それでも皇帝は彼なりに、ここまでルイ殿下を守ってこられたのね。


 自分の家族とは全く違う家族のあり方に、アリエルは涙が出そうだった。


「どんなことがあっても、私だけはルイ殿下の味方でいよう」


 アリエルはそう決めた。

 そう決めると、今まで迷っていたことや悩んでいたことがどうでもいいことのように思えた。

最後までお読みいただきまして、誠にありがとうございました。

よろしければ、またお読みいただけますと嬉しいです。

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