17. 皇太子の深酒と決意
ハンブルグ家の舞踏会になど行く気には到底なれず、城に戻った。
城に戻るとサロンでオリバーに酒を付き合わせて過ごした。
ふらふらの足取りで半ばオリバーに抱き抱えられる形で部屋にたどり着いた。
ソファにもたれかかると
「皇太子とは、何とも不自由なものだな」と悲しそうにルイは言った。
オリバーは初めてルイの人間らしい部分に触れた気がしていた。
ルイは腰につけていた短剣を取り出し、じっと見つめた。
鞘から短剣を抜いてみた。ずいぶんと使い込まれているのだろう。刃の部分に彫られている文字は消えかかっていて、「A」という文字と何かの紋章だっただろう模様がうっすらと見えるだけだった。
「オリバー、もう下がって良い」と伝え、ルイはそのまま眠りに落ちた。
翌朝、執務室にいる父に呼ばれた。
父は開口一番に
「アリエルはどうだ?」と聞いた。
どうもこうも、あの城での婚約式以降、一度もアリエルと会ったことは無い。ただオリバーに手配させた花を事務的に贈っているだけだった。
「彼女は体調が優れず、伏せっていると聞いています。静養の邪魔になってはと思い、回復するまで面会を控えている状態です」
「なんと、あれから会っていないというのか……鈍い奴め」
父は何か考え込んでいるようだった。
「まあ良い。私があれこれ口を挟むのはやめておこう。アリエルのことはお前に任せることにする。」と父は言った。
「承知いたしました」
「ルイ。今、お前の目に見えているものだけが全てではないぞ。事実と真実は必ずしも同じではない。よく心得ておけ」
「はい、父上」
「では、下がって良いぞ」
ルイは、ユーリのことを想うのはもうやめようと決めた。
いくら想ったところで、彼女を幸せにできるのは自分ではない。本来自分が向き合い、幸せにすべき人は別にいるのだ。
いくら政略結婚であっても、そこに愛情がなかったとしても、お互いを理解し合うことはできるはずだろう。そう思い直しルイはアリエルのいる離宮に面会の申し入れを出した。
離宮からの回答は、「一週間後、ルイのための茶会を開くのでよかったら参列してくれ」というものだった。ルイは茶会用の菓子と花を贈るようにオリバーに手配させた。
少しずつでも、第四王女に歩み寄ることに決めたのだった。
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