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14. 会議と皇太子の訪問

 皇帝から託された三人の腹心が帰ったあと、アリエルが連れて来た五名の部下であるエミリー、マリー、ハラス、シモン、エルはしばらくの間、今後の方針について話し合っていた。


 これからルイの対応をどうするかは問題ではあるが、それ以外の部分については概ね意見が一致していた。


 皇后についてはこちらの調べの通りだった。


 前皇后はルノー家から皇室に嫁でいる。元々ルノー公爵は帝国とも深いつながりがあり、議会でも皇帝派の中枢にいる貴族だった。彼女が皇室に嫁いだのも、自然の流れだったと言える。


 現皇后はハンプシャー侯爵の次女で、十七年前に皇帝の側室として、召し上げられた。それも議会やハンプシャー侯爵の政治的意図が働いてのことだった。


 そしてルイの母親である前皇后が亡くなった後、側室であった彼女が、現皇后に即位した。現在、ハンプシャー侯爵の地位は、現皇后の兄が継いでいる。


 第二皇子であるマティスについてはいまだ掴みきれずにいた。第二皇子のマティスは皇帝と現皇后との間に生まれ、今年で十五歳になる。公の場に出ることはまだ少なく、教育については皇后に一任されているため、ルイとのつながりもさほどあるわけでもない。


「まあ、よくある話よね。皇室内の内輪揉めって。でもハンプシャー家ってみれば見るほど色々と怪しいわよね。私、おそらく前皇后は殺されていると思うの」


「我々の見解も同じです」


「現皇后がどこまで何を知っているのか、それからあの第二皇子もどこまで何を知っているのか。そこにもっと入り込みたいわね。それにしても、勝手知らない他人の台所っていうのもあるけど、この国の貴族政治は複雑そうで、色々やりにくいわね。皇帝陛下もルイ殿下もこれまで大変だったでしょうね」


 アリエルが言うと皆頷いた。


 翌日、朝七時にエド、サイモン、アレンの三人は会議室の席に着いていた。アリエルが頼んでいた書類も全て揃って円卓の上に山積みにされていた。ただ、三人の顔色はすぐれないように見えた。


 アリエル、エル、ハラス、シモン、エミリー、マリーも会議室の席に着く。


「ご機嫌よう。お加減はいかがかしら?」


「アリエル様、おはようございます。ご配慮ありがとうございます。昨日頼まれた書類を調達して参りました」


「まあ!ありがとう。仕事が早くて助かるわ。ところで、今日はどうやってこちらまでいらしたの?」


「はい、アリエル様の離宮に調度品をあつらえるという名目で、皇室で使用している荷馬車を用意してこちらまで参りました」


「なるほど、それはなかなか良い考えね。では、まず私が自由に使えるお金、そしてその予算と項目について取り決めをするところから始めましょう」


 そう言ってアリエルは今回の婚約のために皇室から割り振られた予算に目を通していった。


「この宮殿を改装するためにずいぶんお金がかかっているわね。べらぼうにかけられているここの備品って項目、一体何に使ったものなの?」


「アリエル様におくつろぎいただけるようにとの陛下の指示で、調度品、家具、絵画等全て一級品を揃えました。そのため少々予算がかかっているのではないかと」


 とエドは説明した。


「そう、それは素晴らしいわね。じゃあエミリー、早速だけど屋敷をまわって売り払えそうな調度品や美術品を調べてまとめてくれる? 足がつかないように処分できそうな質屋を探して、全て売却したらいくらになるか見積もりをとって頂戴」


「かしこまりました」


「これで自由に使える予算が少し増えたわね」


「……」


「それから、この離宮へ回されている予算の使い道については、私に権限があると考えていいのね?」


「その通りでございます。足りませんか?」 


「どうかしら。今のところ、何とも言えないわね。ところで、チャリティーオークションで絵画を買いたい場合や、皇后にお贈りするための宝石を買いたい場合は、こちらの予算から出すべきかしら?」


「……陛下に相談してみます」


 今回の調査にあたり離宮での療養のため、という名目である程度の予算が割かれていた。そして、その予算や管理、計上等についてもエドが一任されているようだった。


「昨日の男爵の件だけど、目星は立ちそう?」


「はい。明日には手配できる算段になっております」


「ありがとう。ここにいる間、私はあまり外には出られないわ。その代わりにエミリーとマリー、ハラスが現地調査に出ることになると思うの。だからこの三人の拠点にできる家を帝都に用意してもらえるかしら?できればそれなりの屋敷がいいんだけど。費用が足りなければ先ほどの備品の売却費から出して頂戴」


「……承知いたしました」


「それと、エドかサイモンの部下としてハラスを城にやることはできる?」


「そうしましたら私の遠い血縁より役人見習いを預かったということで、士官していただくのはどうでしょうか?」

とサイモンが言った。


「助かるわ。指示は私が出すから、ハラスはサイモンと共に主に城での調査に当たって」

 サイモンとハラスは頷いた。


「私はしばらくこの国家予算の収支に時間を割くことになりそうね」

 とアリエルが言った、その時だった。


 離宮の執事として従事していたアリエルの部下のエルが会議室の扉を叩いた。


「アリエル様。ルイ殿下がお見えです」


 全員がアリエルの方を見た。


「まあ、ルイ殿下が、わざわざ来てくださったの。……そう……じゃあ、お帰りいただいて」


「え?」


 そこにいた全員が顔を見合わせた。


「……しかし……」エルは食い下がろうとした。


「今日は体調がすぐれないから、お帰りいただいてもらえるかしら?」


「……承知いたしました」


 そう言うと、エルは引き下がった。


「よろしいのですか?」エドは尋ねた。


「よろしくはないけれど、どうにもできないじゃない。私、執務中だし。それに、今変装していないもの」


「アリエル様は、ルイ殿下の前では、病弱な第四王女でいらっしゃいます」とエミリーが付け加えた。

「病弱になるのに、二時間くらいかかるのよ。それに、この宮殿も改装しちゃってるから、殿下を招く場所がなくなってしまったの。一体どこでお会いすればいいの?」


 とアリエルが言うと、皆口をつぐんだ。


「では、ルイ殿下は、アリエル様の本来のお姿をいまだご存知ないのですか?」


 驚いたサイモンは尋ねた。


「ええ、まあそう言うことになるわね。実はちょっと最初に失敗しちゃって、それからなんだか本当のことを打ち明ける機会がないままに、ずるずるときてしまったのよ。でも、この件が片付いたら婚約自体も終わるし、私はアルメリアに帰るつもりだから、もう別にいいかなって思って」


 とアリエルは言った。


 エドはルイに同情したい気持ちになった。おそらくこの場に居合わせいるもの全員が同じ気持ちだっただろうことは顔を見ればわかった。


「だから、まあそういうことだから、とにかく仕事に取り掛かりましょう」


 アリエルの呼びかけで、全員が持ち場に戻ることになった。

最後までお読みいただきましてありがとうございました。


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