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13.  頭のキレる王女と皇帝陛下の側近

 皇太子のルイに急に縁談の話が持ち上がった。エドは現皇帝の元に仕え始めてから二十年程が経っていた。


 ルイのことは彼が五歳の頃から知っている。幼い頃から、後を継ぐ者として教育を受けていた少年だった。生まれ持っての素質か、若くして大人びて聡明な子だった。


 勤勉で忍耐もあり、歳を重ねるにつれ皇太子としても申し分なく有能な嫡男に成長していた。


 そんなルイとの結婚を希望する子女はそれこそ星の数ほどいた。


 国民皆が「この女性は!」と言える女性と結婚するに違いないと思っていたし、誰もがそう望んでいた。


 それなのに、ルイの婚約相手は「アルメニアの病床の第四王女」であったのだから、エドは驚かずにはいられなかった。


 しかしもっと驚いたのは、病で伏せっていると言われていたアルメリアの第四王女は、実は病など患っておらず、一部の役人ですら知らないトルアシアの機密情報を調べ上げる恐ろしく頭の切れる女性だった。


 

「初めてお目にかかります、エド様。アルメリアより参りました、アリエルにございます」


 と、王女は名乗る間もなくエドに挨拶をした。


 王女は既に彼の名前を知っていた。おそらく知っているのは名前だけではないはずだ。


 別にやましいことがあるわけではないが、どこまで彼女が自分のことを知っているのかと想像すると鳥肌が立った。


 アルメリアから王女が来る一ヶ月ほど前、エドは急に皇帝からアルメリアとの外交任務に就くことを命じられた。


 それに付随する形で宝飾品の密輸から、皇后の動きまでの一連の流れを知った。そしてエドは皇帝陛下からアリエルの下に付くように命じられたのだった。


 王女がアルメリアから到着した翌日の夜、エドは皇帝陛下に呼ばれ、王女の住まいとなる離宮に出向いた。目の前に病床の王女があらわれ、よろしくと微笑んだ時、エドはその美しさに息を呑んだ。


 エドはその時、ようやく皇帝が喉から手が出る程、彼女を欲しがっていた理由がわかった。


 トルアシアの皇帝と、アルメリアの王が去った後、王女は早速仕事に取り掛かった。

 エド様と呼ぶ王女に「私のことは、エドとお呼びください」と伝えた。


 すると王女は

「じゃあ、私のこともアリエルと呼んで」

 と笑った。


 それから、アリエルと共にアルメリアから来た五名の諜報員件従者であるエミリー、マリー、ハラス、シモン、エルを紹介された。皆聡明で、心の底に彼女に対する絶対の忠誠と信頼があった。


「エド、今回の私の赴任と滞在のために割かれている予算と名目を正確に教えてもらえる? できれば書面で出していただきたいのだけど」

 とアリエルは尋ねた。


「承知いたしました。いつまでにご入用ですか?」

 とエドは聞いた。


「そうね……いつまでにできる? できれば今後私が尋ねたものについては、すぐに出せるようにしていただけると嬉しいわ。少なくとも、いつまでに用意できるのかくらいはすぐにお答えいただける? 検討しますという回答は聞きたくないわ」


 とアリエルは笑った。


 物腰は柔らかかったが、彼女は決して甘くはないということはわかる。


「可能だったら、前皇后の亡くなる前の国家予算の収支と、現皇后が就任してからの国家予算の収支を比較したいから、こちらもご用意していただける? 平たくいうと、ここ二十年の国家予算の収支を全て用意して欲しいということなんだけど、早急にお願いできるかしら」


「……承知いたしました。明日のお昼までには」


「朝までには難しい?」


「尽力いたします……」


「それと、人を雇いたいの。できればこの国で男爵の地位を持つ方を二人ほど。口が堅い方で、私と年が近い未婚の男性が望ましいわ。ご用意していただけるかしら?」


「そちらは、今週中でも構いませんか?」


「そうね、まあいいでしょう。予算の兼ね合いもあるから、できるだけ早急に私に割り当てられている予算を提出してくださる?」


「承知いたしました」


「じゃあ、今夜はこの辺りで、いったんお開きにしましょう。明日、朝7時にこちらの会議室で申し送りから始めます。エド、サイモン、アレンはもう切り上げてちょうだい」


「承知いたしました」


「それから、明日以降こちらに来る際には、なるべく目立たないように来ていただきたいの。方法については明日話し合いましょう。とにかく予算がわからないとには、こちらとしても手の打ちようがないから、明日こちらに来るときには、私のために割かれている予算だけはご用意くださるかしら?」


「……承知いたしました」


「では、また明日。お会いできるのを楽しみにしておりますわね。」そういうとアリエルはとびきりの笑顔を見せた。


 ああ、こうして自分はこの人に懐柔されていくのか、とエドは思った。しかしそれも悪くないとも思えた。


 ふとサイモンとアレンの方を見ると彼らも高揚した顔をしていた。おそらくエドも同じように鼻の下を伸ばした情けない男の顔をしているのだろうなと思った。

この度はお読み頂きまして、誠にありがとうございました。


こんなに読んでいてくださる方がいてくれたのだと知り、とても嬉しいです。


よろしければ、次回もお付き合いいただけますと幸いです。

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