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100. 後ろ盾

 

 皇帝、皇后、ルイ、アリエル、マティス、エド、ルノー公爵、ハミルトン公爵は、騎士棟の地下の会議室に集まっていた。


「今回のシェリー男爵と闇宝石商の捕縛により、これまでの不正を立件するだけの証拠が揃いました」


 ルイは淡々と言った。


「大詰めだな」


 と皇帝は言った。


「はい。ようやくここまできました」


 ルイがそう言うと、皆も頷いた。


「アリエル、お前が来てくれたから今がある」


 皇帝は皇后の肩を抱き、アリエルに目配せをした。


 アリエルは苦しそうな顔をしていた。


「……今回の件で、この国のいくつかの家門は消えることになるのですね……」


 皇后であるダイアナの実家のハンプシャー家は、不正の中枢にいて、今回のことが明るみに出れば国家反逆罪に問われることは逃れられなかった。


「それについては、皇后も、マティスも納得している」


 皇帝がそう言うと、皇后もマティスも頷いた。


「この度のことで、ダイアナもマティスも後ろ盾がなくなる。それでも身を呈して全てを白日の下に晒すことを選ぶことに異論はないな?」


 皇帝は皇后とマティスに目をやった。


「ございません」ダイアナは皇帝を見返した。マティスも強く頷いた。


「あいわかった」


 皇帝は静かに言った。


「そなたたちの申し出により、皇后及び第二皇子は今よりハンプシャー家とは絶縁したことにみなす。それから、そなたたちからの告発状を正式に受理したことをここに宣言する。私が署名した文書を提出し、司祭がそれに署名することによって、お前達はハンプシャー家から正式に除籍されたものとみなされる。それで良いな?」


「はい」


 二人は強い眼差しを肯定に向けた。


「実は、これからのお前達の身元保証人として、名乗りをあげてくれた人物がいる。お前達が承諾すれば、これからその者の庇護下に入り、養子縁組を行う」


 そう言うと皇帝はルノー公爵の方を見た。


「よろしいかな、ルノー公爵?」


 ダイアナもマティスも驚いた顔でルノー公爵を見た。ルノー公爵は、前皇后の実の父であり、前皇后は現皇后であるダイアナの父によって暗殺されたのだった。


「皇后陛下。私たちは娘を失った。私はあなたの父上がしてきたことを生涯許すことはできないでしょう。しかし、娘は死ぬ間際にあなたを信じて、この国を託された。私はその娘の気持ちに報いたい。どうか、国のために、民のために、陛下を支えるあなたの義父にならせてはもらえないだろうか」


 ルノー公爵はダイアナを見て優しく笑った。


「これでマティスと私は完璧な兄弟になったな」


 ルイが嬉しそうに言うと、マティスは涙を滲ませていた。


「……陛下、ルノー公爵……ありがたき幸せにございます。その提案を謹んでお受けいたします」


 ダイアナは涙を止めることができなかった。皇帝はそんなダイアナをそっと包み、優しく背中を撫でた。


「私はとても欲深い。欲しいものは何としても手にいれたいのだ。しかし、一度手に入れたものは命に代えてでも守ると決めている」


 皇帝は、全員を一瞥して笑った。




「陛下、実は私からもお願いがございます」


 アリエルが口を開いた。


「なんだ、アリエル。お前が願いを口にするのは初めてのことだな」


 皇帝は嬉しそうに言った。


「はい。先日、オリバーが、私の元を訪ねてきました。その際、オリバーより、結婚の承諾を求められました」


「ほう。ルイ、ハミルトン公爵、知っていたか?」


 皇帝がルイとハミルトン公爵に目をやると、二人は黙って頷いた。


「私の前で好きな女と結婚できるよう約束を取り付けていたが、想い人がおったのじゃな。で、アリエル、オリバーの相手は誰なのだ?」


「私の部下であり、今回闇宝石商事件の陣頭指揮を取った、アルメリア国アイデール公爵家の三女のマリーです」


「そうか。アリエルの部下であったか。ハミルトン公爵も知ってるのか?」


「はい。倅がマリー嬢に惚れ込んでおり、私の屋敷でも知らない者はいないほどの溺愛ぶりです。倅の一方的な片思いかと思っておりましたが、どうやらマリー嬢もまんざらではなかったようです」


 ハミルトン公爵は嬉しそうに言った。


「ふふふ。私の大切なマリー公女が、ハミルトン家で手厚い待遇を受け、この婚姻が公爵家に心より祝福されるのであれば、アルメリア王家は持参金を惜しみませんわ」


 アリエルはハミルトン公爵の方を強い瞳で見た。


「私、ハミルトン・アレックスはハミルトン家を代表し、皇帝陛下及びアリエル王女殿下にお誓いいたします。ハミルトン家はマリー・アイデール嬢をアルメリア王国とトルアシア帝国を結ぶ重要な貴賓であると考え、大切な家族として迎え入れます。ハミルトン家はマリー嬢の生涯を通じてその盾となり剣となり、全身全霊でお守りすることをここに誓います」


「オリバーならば、きっとマリーを幸せにしてくれると信じておりますわ」


 そう言うとアリエルはにっこりと微笑んだ。


 皇帝はアリエルとハミルトン、それからルイの顔を交互に見て言った。


「よかろう、二人の結婚を許可する」


「ありがとうございます。ハミルトン公爵の後ろ盾も得たことですし、これでマリーをこの国の社交界に投入することができますわね。これからはこの国の社交界の情報も掌握でき、社交界にも我々の守備範囲を広げられそうですわね」


 アリエルは嬉しそうに言った。


「……アリエル、策略家だな」


 ルイは複雑そうな顔をして言った。


「ふふふ。私は純粋に二人の愛を応援したまでです、そうですわよね、ハミルトン公爵?」


「……はい」


 実のところ、マリーが社交界に入ることで得られる情報は格段に増えるのだった。皇室にとっても、二人の結婚に不利益どころか、利益しかなかった。


「今、この国ではハンブルグ家、スミス家、ハンプシャー家を中心に社交界の派閥が形成されています。マティス殿下の生誕祭が、その勢力図をすべて覆し、皇后陛下を中心とした新しい社交界を形成するまたとない機会になります」


 アリエルはにっこりと微笑んだ。


「私もそう思います」


 ダイアナはそう言って、アリエルを見た。皇帝は優しく皇后の肩を抱いて言った。


「ダイアナ、これからアリエルと共に新たな社交界の基盤を作ってくれ。ルノー公爵夫人、ハミルトン公爵夫人、それにアリエル、マリーは皆お前の味方だ。いつでも相談しろ、そして案ずるな」


「よろしく頼むわね、アリエル」


 皇后はそう言うとアリエルに笑顔を向けた。


「さあ、ここからが正念場だ。これから国の基幹が変わるだろう。私は理想ばかりを追いかける愚かな王である。だからこれからもお前達には苦労をかけ続ける。だが、私は天下泰平を諦めていないぞ。いつの日か、この国の民の命が、平等に扱われる公正な世が来るという理想を追うぞ」


「陛下、私たちも同じ意志でここにいる事をお忘れなきよう」


 とエドが言うと、皆頷いた。


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