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今年も彼女ができなかった  作者: 落川翔太
5/8

5.


外では雨が降っていた。六月の初旬であった。今朝のニュースで関東も梅雨入りが発表されていた。

 会社内では、社員たちがそわそわした雰囲気だった。今度の土曜日に、司の先輩である神崎さんの結婚式が行われようとしていた。司もその式に呼ばれていた。

 神崎さんが結婚か。すごいなあと司は感心していた。六月に式を挙げるのは、ジューンブライドを意識したからだと彼は話していた。

 司が結婚式に誘われるのは二度目だった。

 一度目は、二年前、中学の友人の結婚式だった。その友人は大学を卒業してすぐに結婚した。その友人曰く、大学を卒業してから結婚するつもりでいたらしかった。

 その時も、司はすごいなあと思っていた。

 それから、司は自分の周りで結婚する人がどんどんと増えていることに気付いた。そろそろ自分も結婚を考えてもいい歳ではないかと司は思っていた。

 けれど、そういう司には彼女もいないので、結婚を考えている人などいなかった。結婚を考えるよりも、まずは彼女を作るところからだなと司は思った。

 その土曜日、司は神崎さんの結婚式に来ていた。

 結婚披露宴になり、司は会場の中へと入った。そこにはたくさんの人がいた。司は指定された自分のテーブル席を探した。すぐにそれを見つけて、司はその席へと座った。しばらくしてから、何人かの人がそこへ座った。

 司は一度トイレへ行こうと思い席を立ち、そこから出てホールの外にあるトイレへと向かった。

用を済ませて戻ってくると、司はその会場の別のテーブル席に見覚えのある女性を見つけた。それは、以前、司が朝、会社に行くときに会ったあの女性であった。彼女はその席で年配の男性や女性らとお喋りをしていた。その後、彼女は席を立った。それから、彼女はこちらの方へやって来た。

「あ」

 その後、彼女が司に気が付いた。

「どうも」と、司は挨拶をした。

「あの……違っていたら申し訳ないですけど、以前、朝に電車でお見かけしませんでしたか?」

 それから、彼女がそう言った。

「ああ、はい。そうだと思います」

 司がそう言うと、「なら良かった!」と、彼女は嬉しそうに言った。

「毎朝、お見かけしていたのに、急に見なくなったので、どうしていたのかと思ってましたよ」

 司がそう言うと、「ああ、すいません。実は私、仕事を変えて、あの時間の電車に乗らなくなっちゃったんですよ」と、彼女が申し訳なさそうに言った。

「ああ、なるほど。そういうことですか」

「ええ」

「あの、失礼ですが、お名前をお聞きしてもいいですか? あの時、聞きそびれてしまったので」

 それから、司は彼女にそう訊いた。

神崎かんざきです」と、彼女が答えた。

「神崎さん?」

「はい」

「神崎って珍しいですね」

「よく言われます」

「そういや、新郎の苗字も神崎ですね」

「ええ。私、実は……。」

彼女がそう言おうとした後で、司は「ところで、どうしてあなたはこちらへいらしたんですか?」と、彼女に訊いた。

「私ですか? 私は……兄が結婚するので、家族で兄の結婚祝いに来てるんです」

 彼女がそう言った。

「そうですか。兄って、神崎和博かずひろさんのことですか?」

 司がそう訊くと、「はい。そうですよ」と、彼女は笑顔で答えた。

「え? じゃあ、あなたはあの神崎さんの妹さんですか!?」

「そうです!」

「うそ!? マジか! それはビックリした!」

「私もびっくりです。まさかここであなたと会うとは思わなかったですから」

 そう言って、彼女が笑った。

「そうですね。ところで、下のお名前は?」

春菜はるなです。私もお名前をお聞きしてもいいですか?」

 それから、彼女が司にそう訊いた。

「小室です。小室司といいます」

「小室さんというんですね……。小室さんも中々珍しい苗字ですね?」

「ああ、よく言われます。ところで、春菜さんはどんなお仕事をされているんですか?」

 その後、司がそう訊いた。

「私は今、化粧品の販売員をしてます」と、彼女は言った。

「へー、そうなんですね」

「小室さんは、何のお仕事してるんですか?」

「僕はお兄さんと同じ会社で働いてますよ。お兄さんは僕の先輩です」

「あー、なるほど。それで、小室さんも兄の結婚式に呼ばれたんですね?」

「そういうことになりますね」

「小室さんって、今、おいくつですか?」

「二十四です」

「え!? 二十四ですか!? 私も二十四です」

「本当ですか?」

「はい」

「偶然ですね」

「そうですね。ところで、小室さんはご結婚ってされています?」

「いや、まだです」

「そうなんですね。私も結婚してないです」

「そうですか」

「彼女さんとかいますか?」

「いないです。春菜さんは、彼氏いますか?」

 それから、司はそう彼女に訊いた。

「いますよ」

 彼女はそう言った。それを聞いた司は残念に思った。春菜さんには彼氏がいると言う。彼女に彼氏はいないと司は思っていた。だからそれを聞いて、司はとても残念な気持ちになった。

 それから、まあ、こんな美人に彼氏がいない訳ないじゃないかと司は思った。

 司は彼女に気があった。司の恋は、はかなく散った。

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