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side by side world(スバイス)  作者: 風見緑哉
side by side world へ
7/32

【並世】Day1 誕生日


(よし、完成じゃないけどこんなものかな)


 もう何時間経っただろうか。VRヘッドセットをかぶっているため時間の感覚がわからない。


 ニジーは休みを取ることなく、アバターの作成にのめりこんでいた。

顔のパーツから体のパーツまで、調整できる項目は1000を越え、こだわり始めるとキリがない。

精細な彫刻をするかのごとく、一つ一つのパラメーターをじっくり吟味した。


 震える手で作成完了ボタンを押す。


《準備ができましたか── 》


 ボタンを押すとまたどこからか声が聞こえてきた。

その言葉にニジーは頷くと、今さっき作成したアバターが手を差し出した。


(これは握れってことかな……?)


 差し出されたアバターの手を握る。すると次の瞬間には鏡の空間へ戻ってきていた。

正面の鏡を見ると、自身の身体が今さっき作成したアバターへと変身している。


 素体は裸だったが、今は白いワンピースを着ている。

くるくるっと踊るように回って全身を確認した。


(ほわー! かわいい! って自画自賛するけどかわいい! このアバターかわいい!)


 ピーコックブルーのセミロングの髪にセピアの瞳。鮮やかな濃いブルーの指先にターコイズブルーの尾羽。

ワンピースからのぞく背中の羽毛はオレンジだ。

 色彩豊かな鳥、『ライラックニシブッポウソウ』をイメージしている。


人間と鳥のハーフのようなファフィアウル族の、小さな女の子のアバターにしてみた。

 

挿絵(By みてみん)


 手や足をパタパタ振って動きを確認する。翼のような手は指の動きに反応し、5本指に連動して動くようになっていた。

動くたびに尾羽や羽の形をした髪先がぴょこぴょこと動いた。


(VRオンラインゲームの中ってこんなにリアルなのね……びっくりした。動作のタイムラグもほとんどないし、動きが滑らかすぎる)


《準備ができましたか── 》


 ようやく出発かというところで、もう一度鏡をよく確認する。


「いやちょっと待って。もう一回調整する」


 プレビュー画面で見ると、ほんの少しの違和感が気になってしまう。

満足いくまでアバターメイキングにこだわるのはクリエイターの性のようだ。


 そしてまた数時間後──


《準備ができましたか── 》


 何回目の問いかけか分からないほど調整を繰り返し続け、ようやくそこそこ満足いくアバターに仕上がった、と思う。


「よし、今度こそ! うーん、いや? やっぱりちょっと……」


《誕生後でもアバターの調節は可能です── 》

先に言って欲しかった。


 あまりにも調節を繰り返すからなのか、今まで言わなかったフレーズを伝えてきた。AIもしびれを切らすのだろうか。


「それなら準備、できました!」


 ばっと誇らしげに両手を大きく開いて見せる。

腕からちょこちょこと生えた不揃いな羽はまるで雛鳥のようだ。


挿絵(By みてみん)


《チュートリアルは展開しますか── 》


(チュー……トリアル?)

『はい』と『いいえ』のボタンが出たので、言葉的になんとなく『いいえ』を押した。


《承知しました。では誕生の準備を── 》


 ニジーのまわりに光が集まる。

光はドームのように全身を包みこみ、鏡の風景がぼやけた。


(誕生の準備? ってなんだろう……)


 自身を包んだ光はゆっくり上へ上へと移動しているようだ。

鏡の風景がすこしずつ下に遠ざかっていっている。


 光の中から様々な風景が見える。


山・海・川・森・平原・街・異郷。


どれもスバイスに存在する場所なのだろうか。

どこか現実世界にもありそうで、なさそうな場所。そんな景色が広がっている。


 広大なフィールドを人々が行き交い、活動している。

狩猟をしている人もいれば、ものづくりをしている人、ひたすら採集をしている人、何かを育てている人など、活動は様々だ。

空から人々の生活を眺めるのは楽しい。


(みんな本当にこのスバイスの住人みたいね)


オオオオオオ


 上昇速度は徐々に早くなっていく。

景色は地から空へと変わってきた。

天には全てを吸い込みそうな黒に七色の宝石の欠片を無数に散らしたかのような星々が虹色の帯に沿って瞬いている。


 光の上昇とともに無数の光の筋が周りをを取り囲んでは消えていく。

静かなオーケストラのBGMが光の上昇の速度に合わせ早く、力強くなっていく。


(どんどん上に上がっていく……)


ドクン、ドクン、ドクン、


 思わず心臓の鼓動まで早くなる。

次に何が起こるのか想像もつかない。どの伝記にもアバター作成については何も書かれていなかった。


オオオオオオオオオオオオオオ


 光は上昇の速度をさらに上げ、周りを包む光が白から濃いピンク色へと変わっていく。

まるで光が熱を帯びていくかのようだ。


(はやいはやい……ちょっと怖い……! でも目を瞑っちゃいけない気がする……!)


 さらに早くなる鼓動。

 身体の芯からゾクゾクしてくる。

現実世界にいる身体は地面に立っていて物理的には移動していないはずだが、思わずその場に座ってしまいそうになる。


(なに……何が起きるの!?)

周りの風景は流れ星が無数に降ってくるかのように光の筋となって瞬く間に過ぎ去っていく。



オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


 


 光の上昇速度とオーケストラの旋律が手を取り合い、最高潮に達する刹那──




オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ








 一瞬の静寂。








 次の瞬間、世界を見た。



 

 

 周りを包んでいた光が、幾重にも重なった花びらのように、一気に開いた。

あまりの眩しさに目を細める。


 全身で木々を吹き抜ける風を感じ、花と木の香りを感じる。


 はるか先に広がる地平線と、頭上には真夏の空を彷彿とさせる紺碧の天球。

空にあいた無数の裂け目からは大地に光が降り注ぎ、世界全体を照らしている。


 まわりを見渡してみると、大きな花の中心に立っていた。

ハスの花のような見た目のその花は鮮やかなマゼンタとホワイトのグラデーションになっており、花びら一枚一枚が淡く光っている。

 

 その場で足踏みすると、星の粒を敷き詰めた砂浜のようにキラキラと光が舞った。


ニジーを中心として、花が水を吸うように光が集まり、立っている場所から放たれた光が一斉に花火のように空に打ち上がる。


 景色が七色に輝き空気が震えた。

まるで世界が歓喜しているかのようだ。



『誕生日、おめでとう』と。


 

 ニジーは全身の毛が逆立ったように感じられた。

これが本当の鳥肌というものか、と呆然とその場に立ち尽くす。

バーチャル上の空間だと頭の片隅では認識していても、心はすでにこの世界に囚われてしまった。


「ほわぁ……」

思わず声が漏れる。


(なに、これ……。ここは並世なんだよね。スバイスの中なんだよね……?)

自分の顔や身体に手を当てて確認するが、ヘッドセットは装着しているし現実世界の身体はそのままだ。


 しかし、本当に別世界の中に入り込んでしまったと錯覚するほどに、目の前に広がる世界は存在感を示している。

眼下に広がる広大な樹海のような場所は青く透明で、木々が燐光を放っている。遠くには天球を突き抜けてその頂を隠す山も見える。


(これは、現実がどちらかわからなくなりそう)


 よく見てみると自分の乗っているものと同じような花が、上下左右さまざまなところに浮かんでいる。

 後ろを振り返ると、先程までは霧がかかって見えなかった巨大な緑の壁が背後にそびえ立っていた。

壁の頂上はニジーのいる位置からでは見ることができない。


《 誕生おめでとうございます── 》


 またどこからか声が聞こえてきた。穏やかな声の主の姿は見えない。


「あ、ありがとう。これが誕生ってことなのね」


《 はい。あなたは本日この世界『side by side world 』へ生を受けました── 》


 自然に返答されたことに驚く。自動音声ではなかったのだろうか。

「そ、そうなんだ……この世界では私は何をすれば?」


《 世界に決まりはありません。何をするか、何ができるかは全てあなた次第です── 》


 それはゲームとしてどうなのだろうかとニジーは考える。

目指すゴールやルールがなければ進むべき方向がわからない。


「じゃあ何もしなくてもいいの?」


《 何もしなくても構いません。この世界に生を受けた者には平等に1000時間が与えられます。時間をどう使うかはあなた次第です── 》


「……でもそれだと路頭に迷う人が多いんじゃ」


《 正解はありません。あなたの選んだ道が正解なのです── 》


「そういうものなのね……?」


《 初めにこの世界でのあなたの名前を教えてください── 》


「ニジー」

 新しい名前を付けようかと迷ったが、やはりスバイスでもニジーという名前をつけることにした。今世でも慣れているためわかりやすい。

スバイスでは他に同名のプレイヤーがいる場合でも名前を使用することができる。


《 ではここに名前を書いてください。名前を表す模様でもかまいません── 》


 ニジーの目の前に手のひら大の花びらがふわりと飛んできた。

どうやらここに名前を書かなければいけないらしい。


指で「ニジー」と書いた。


 すると、名前を書いた花びらの繊維が1本の糸のようになり、糸は折り重なり合いながら新しい物質を生む。

気付くと手には花を模した懐中時計が乗っていた。細かく薄い金色の目盛が入っており、針は時針と秒針の2本だけだ。

懐中時計の裏には自分の名前が刻まれていた。


《その時計はあなたに残された時間を教えてくれるでしょう。道標としてください── 》


 

ニジーの乗っている花の光が強くなる。



《準備はできましたか── 》


「待って、まだ何もわからない! 最初に何をすればいいの? どこへいけば??」


《それはこの世界の住民たちが教えてくれるでしょう。よく『観察』してみてください── 》


 花の光がさらに強くなる。


「待っ───」


《これからあなたの新しい命が始まります。ニジー、良き旅を ── 》


 カチッ

 懐中時計の針が動きだした。時針がほんの少しだけ右に時を刻む。



 

 


 その瞬間、世界がホワイトアウトした。



 


 目を開けると、周りの風景が変わっていた。

立っていた花は消え、人々が行き交う広場の真ん中に立っている。


 目の前には青々とした葉を茂らせた大きな木がそびえ立つ。木には無数の花が咲き、どの花も白く光っている。

 同じような木が奥にもたくさん続いているようだ。


その木の上の方に一際輝く花がみえた。


(あれは……)


 よく目を凝らして輝く花をみると花びらの外側に『ニジー』と書かれている。

あまり上手くないあのカクカクとした字は今さっき自分が書いた字だ。先ほどまであの場所にいたのだろうか。


 他の花もよく観察してみると全ての花に名前が書かれていた。


(本当にスバイスに来ちゃったんだなあ……これからどうしよう)


〜♪


 突然、聞き覚えのある音楽が外から聞こえた。


*******


【今世】


〜♪


 聴き慣れた街の防災行政無線から夕暮れを告げる音楽が聞こえる。



(もうこんな時間なのね)


 ニジーはヘッドセットを外し、伸びをすると一息つく。今世の時計を見て驚いた。

朝9時のワールドオープン時間から開始し、お昼に休憩を取ってから、ほぼ休みを取らずにスバイスに入り浸っていたようだ。

いつのまにか周りは暗くなっていた。


(こんなに長くゲームをプレイしたのは初めてだ……)


 それでもまだ最初の最初しか見ていない。

続きが気になるが、1日中ゲームしかやっていなかったことに罪悪感を感じ、今日はここまでにすることにした。


(明日がちょっと楽しみだな)


 大きな木の広がる広場からどのような冒険が待っているのだろうか。

様々な想像をしながら、VRルームを後にした。


──残り1000時間

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