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side by side world(スバイス)  作者: 風見緑哉
プロローグ
4/32

【今世】セットアップ前編

「う〜〜ん、ど〜しよ〜〜」

 ニジーは今、悩んでいた。


 するとピュリルがデスクの上に飛んできた。

 ピュリルは最新AIを搭載した鳥型のロボットだ。


[ ニジーどうしたのルルル? ]


「いやー、スバイスをプレイするならどんなアバターが良いかと思ってね」


 仕事場のデスクに広げられた紙には様々なアバターの書きかけの下書きが置かれている。

 ニジーはいま日本にあるネームドクリエイティブラウンジの1室を拠点にしていた。


 『ネームドクリエイティブラウンジ』と呼ばれる世界に複数カ所あるコワーキングスペースは、ネームドクリエイターは無料で利用することができ、宿泊できる施設も併設されている。

 ニジーは様々な野鳥を観察するために可能な限り都会から離れたラウンジを選んでいた。つまり田舎だ。


「うーん、鳥のアバターもいいけどやっぱり人型のほうが使いやすいかなあ」

[ ピュリとおそろいじゃなくなっちゃうルルル ]


 ニジーは普段、他の並世では鳥型をしたシンプルなアバターを使っている。

 このアバターも気に入っていないため、何度も何度も作り直していた。

「そうねえ。でもスバイス内で鳥を見つけたら描きたいしやっぱり手があると便利なのよ」


挿絵(By みてみん)


 ゆるい鳥の絵に人間の手が生えた絵を描く。予想以上に気持ち悪い図になった。

[ これは鳥じゃないっ! 鳥じゃないルルル ]

 ピュリルが怒ったようにバタバタと頭上に上がると暴れた。

髪の毛がぐしゃぐしゃに乱れて鳥の巣みたいになる。


「1000時間っていったら毎日6時間やったとしても5ヶ月以上の活動時間じゃない。それだけ長く使うアバターって思うとあまり適当なものでもねえ……」


 伝記で読んだ限りでは半年から1年程度かけて満了する人が多いようだ。

 人々の働き方が変わり、集中的に休みを取ることもできるようになった現代、スバイス休暇と称して半年程仕事を休む人もいる。


 その時、ピコンと軽快な音が部屋に鳴り響く。

 腕につけたウェアラブルデバイスに新着メッセージが届いた。


「おっ、カッコちゃんからの返信だ」


 ________


[ 昨日のメッセージ ]

 二ジー:今日は色々教えてくれてありがとう! カッコちゃんに会えたおかげでスバイスのことを少し知れたと思う。またスバイスについて色々教えてもらえると嬉しいな!


[ 新着メッセージ ]


 カッコ:昨日は話しかけてくれてありがとっ 私も二ジーさんと話せて嬉しかったっ


 二ジー:そういえば伝記盗難事件大丈夫だった? 結局閉館間近までいたのに手荷物検査されたよー


 カッコ:そうなんだっ……あのあと自分の伝記を確認してすぐに出ちゃったから……


 二ジー:それならよかった! 緊急クエストだーって騒いで外に出て行っちゃう人もいて大変だったの。伝記が早く戻ってくるといいね


 カッコ:そうだねっ


 ニジー:今ちょうどアバターをどうしようか考えてたんだけど全然決まらなくて困ってるんだ。動物のアバターって使っている人多い?


 カッコ:人型の方が多いけど、動物のアバターを使ってる人も結構いるよっ


 二ジー:普段鳥型のアバターを使ってるから今回も鳥型を使おうかなと思ったんだけど、スバイス内でも絵を描くにはやっぱり手があるアバターの方が便利かと思って


 カッコ:それならファフィアウル族をベースにしたらどうっ?スバイスには人と鳥のハーフみたいな種族がいるの。アバター作成の際にデフォルトで選択肢に入ってたはずっ


 二ジー:そんな種族がいるのね! 知らなかった。調べてみるねーありがとう!


 カッコ:うんっ お役に立てたのなら何よりっ 

 ________


(人と鳥のハーフかあ ちょっと面白いかも)


 ニジーは早速検索する。しかしネットでファフィアウル族について調べてみてもほとんど何も出てこなかった。

 様々な方法で検索を試みるが、名称が間違っているのではと思うほど何も出てこない。


 side by side world内での活動を今世のネット上にて公開することは禁止されていて、厳しく取り締まられている。

 特殊な形式で保存データがつくられており、今世の動画サイトやSNSでは個人が活動データを公開することができないといわれている。

 公式の情報やsbis図書館の情報などはたくさん出てくるのだが、ここまでスバイスのゲーム内に関連する情報が出てこないとは思わなかった。


(ほわー!半世紀前のゲームですらネット検索したら情報が出てたって言われてるのに、現代に情報がほとんど出てこないなんてありえる!?)

 ネットで調べればすぐに分かるが当たり前になった世の中で、『調べても分からない』という状態が逆に好奇心を刺激した。


 もう一度カッコにメッセージを送る。


 ________


[ 新着メッセージ ]


 二ジー:ファフィアウル族って調べても出てこなかった


 カッコ:うん笑 伝記を読むか、こうしてスバイスプレイヤーに聞くしかないもの。スバイスをやったことある人しか知らない情報が結構多いのっ


 二ジー:そうなんだ……


 カッコ:スバイス内でもそう。わからないことはスバイス内にある図書館で調べるか他のプレイヤーに聞くしかないっ。他のゲームみたいに親切じゃないのっ笑


 カッコ:効率よく時間を使いたかったら、はじまりの街で早めにギルドに入れてもらうかお師匠さんみたいな人を探すといいねっ


 二ジー:カッコちゃんがまだスバイスにいたらなあ。お師匠さんになってもらいたかったなあ


 カッコ:ふふふ、ゴメンネっ 先人プレイヤーとして今世から応援してるからねっ 今日はこの辺でもうねますっ


 二ジー:アドバイスありがとうー! おやすみなさい

 ________



 (ギルドかあ……私入れるかなあ……)


 ギルドとは、ゲーム内のプレイヤーが集まって作るグループのようなものだ。

 ギルドによって目的や活動方針が異なり、自分のプレイスタイルにあったギルドを選ぶことで同じような目的を持った仲間に出会うことができる。

 伝記によるとスバイスにもギルドは数多く存在し、それぞれのギルドはプレイヤーたちが自主的に運営を行なっているようだ。


 生来人見知りのニジーは、知らない人と一緒にゲームをすることに抵抗があった。

 そもそもゲーム自体が苦手で、いままでほとんど遊んでこなかった。

 たまに気晴らしに遊ぶゲームも基本ソロプレイでできるものを選び、誰かと一緒にゲームしたのは弟とやったボードゲームくらいなものだ。

 プレイヤー同士が協力する場面が多いと言われているVRオンラインゲームなどもってのほかだ。


(まあ、目的はシンプル。ただ最後まで時間を使い切るだけだから、そのくらいなら出来るでしょ。……一生に一度半年の我慢で目的が達成できるなら……)


 散乱したアバターのラフ画を片付け、自室に戻る。結局どのようなアバターにするのか決まらなかった。


「図書館で予習もしてきたし、明日から早速スバイス開始しよう!けどそのためには……」

招待状を取り出し、準備にとりかかった。


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