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side by side world(スバイス)  作者: 風見緑哉
仲間との出会い
32/32

【並世】Day7 師匠と弟子

(あー……そっか、こんなこともあるのね……)


 ニジーは呆然と観客席の脇に立ち尽くしていた。

 ステージ上に上がる入賞チームを眺めながら、ニジーを肩から下ろしたモクレンを見上げる。


「観客得票数は俺たちが1番だったのに失格ってどういうことだよ!?」

 モクレンは悔しそうな表情でトロフィーを受け取る入賞チームたちを眺めながら文句を言っていた。


「武器はコーデに登録してなかったから参加規約違反で失格なんて……ほんとすいません……」


 エントリーの際にコーデに登録していなかった大剣・紫炎華(しえんが)をパフォーマンスに使ったことがコンテストの規約違反にあたり、自動的に失格になってしまったとのことだった。


 モクレンは不服そうにしていたものの、ニジーが落ち込んでいるのを見て「仕方ねーな」と呟くと肩にポンと手を置いた。

「いんや、あのパフォーマンスがなけりゃ観客からの支持は得られなかっただろうよ。それに……」


 会場から少し離れたところで騒ぐ一団にチラリと目をやる。


「ぐぬううう! コンテスト中に妨害行為で失格だとお!? あれは妨害行為じゃねえ、挑発に乗ってやっただけだ!」

 ベルデルが悔しそうに地団駄を踏み、それをコルク海賊団の団員たちが慰めるのに必死になっているのを遠目から眺めた。


「俺らに嘘ついたバチが当たったんだな」

「ベルデルさんたちまで失格になるなんて……いや何というか……」


 観客投票1位2位の両チームが失格となったため、結局観客投票3位のチームが合計得点で優勝となったようだ。

 唯一の救いは経験値だけ貰えてレベルが上がったことだ。


「ま、あいつらも失格ってことはこの勝負は引き分けで結局俺の勝ちってことだ。はー、大図書館オルパイアに来ただけだってのに余計なことに巻き込まれちまったな」

 モクレンは大きく伸びをしながら気だるそうに言った。


「その言葉そっくりそのままモクレンさんにお返ししますよ……まあ、ちょっと楽しかったけど」


「そりゃ何より。んでこの際だ、ニジー俺の弟子になれよ」

 ニッと笑いながら自分を指差す。


 ニジーは一瞬その言葉の意味が分からずフリーズした。


「弟子!? いやいや、私花火師じゃないですし!」

「何で花火師の弟子なんだよ! 俺も本職花火師じゃねーよ」

 コンテストの設定をまだ引きずっていた。


「ってことは剣士の弟子!? いやいや、私剣士じゃないですし!」

「今から剣士になりゃいいだろ。ばっさばっさ獲物を狩れるの最高だぜ」

「多分剣士になりません! 戦うよりも鳥を追いかけてたいんですー!」

 その言葉を聞いてモクレンは不思議そうな顔をする。

「鳥を追いかける? 変わってんな。まー、師匠と弟子が同じジョブじゃなくても問題ねーし、スバイスの師弟システムは初心者にとってメリットしかねーぜ」

「ああ、そんなシステムがあるのね……」


(そういえばカッコちゃんが早めに師匠を見つけるといいって言ってた気がする。でもモクレンさんかあ……もっと優しそうなお姉さんの方がいいなあなんて)


 微妙な顔をしていたのかモクレンがずいと顔を近づけた。

 中性的で端正な顔立ちはやはり性別関係なく惹きつけられそうだ。


「なんだその不満そうな顔は?これでも俺がバリバリやってた頃は「紫炎華のモクレン」の弟子になりたいって奴らからの申請が腐るほど来てたんだぞ」

「それ自慢ですか」

「自慢じゃねえ事実だ! まー、めんどくせーから申請許可したことねーけどな」


 得意げに言うモクレンをニジーは可哀想なものを見るような目で見た。

 確かに戦う姿だけを見ていたら憧れる人も多いだろうが、挑発に乗りやすいところや無茶振りしてくる性格を知っていたらどれだけのプレイヤーが弟子になりたいと思うだろうか。


「大勢の前で宣言しちゃった分、既成事実が欲しいだけなんじゃ……!?」

「うるせー! 弟子になるのかならないのかどっちなんだ!?」


 ニジーは考える。


 モクレンの弟子になった場合。

『おいニジー、今日も狩りに行くぞ!』

『ええ〜また? 何匹狩れば気が済むんですか……』

『ニジーが俺と対等に闘えるようになるまでだ。まだあまり知られてねー穴場を教えてやる、ついてこい!』


(なーんて、今回みたいに振り回される未来が目に見えてる。でも1人じゃわからなかったことも教えてもらえるから安心かも。でも無茶振りされるのは嫌だな……)


 モクレンの弟子にならなかった場合。

『よお、嬢ちゃん。あれからモクレンとは会ってねえのか?』

『ベルデルさん、とコルク海賊団のみなさんですね……』

『前から嬢ちゃんがひとりになるのを狙ってたんだぜ。助けてくれる奴はどこにもいねえなあ』

『ひいい! 誰か助けてー!』


(なーんて、モクレンさんがいない状況でベルデルさんたちから絡まれたらひとたまりもないわ。って弟子になってもならなくても同じか! まあ弟子であれば助けは求めやすいけれども……)


 唸りながら悩むニジーを見かねたのかモクレンは耳打ちする。


「弟子になれば今回ニジーが使ったファッションアバター全部やるぜ」


(私の所持金じゃ1着すら買えなかったのにそれを全部!? このはっぴ自分で買おうとしたらどれだけ亀甲石を拾わなきゃいけないか……)


「なんと!なら弟子になります!!」

「いやそこはちょっと悩めよ。即答すぎんだろ。分かりやすくものに釣られてんじゃねーか。今後が心配だな」

 モクレンは腕を組みながら呆れたように言った。


「モクレンさんは私を弟子にしたいのかしたくないのかどっちなんですか!」

「何でちょっと上から目線なんだよ! 弟子側には色々メリットがあるが師匠側にはそこまでメリットはねーんだ。特にいらねーってんなら無理強いはしないぜ」


ニジーは色々答えてくれるモクレンに対し大胆になってきていた。


「スバイスでは師匠や弟子がいるの普通なの?」

「全員が全員ってわけでもねーが、ギルドに入るとそこの先輩プレイヤーと師弟関係を結んでるやつが多いな。俺も始めたての頃は師匠がいたぜ。まー、性格が合わなくてすぐに師弟関係は解消しちまったがな」


 モクレンの師匠と聞いただけで勝手にムキムキのボディービルダーのようなアバターを想像した。圧が強そうだ。


(そっか、合わなかったら解消もできるのね。そういえば赤い玉をくれたアルエナさんにも師匠がいたっけ。色々教えてくれる人がいるのは安心かな?)


「う〜〜、わかりましたよ! 弟子になりますよ! よろしくお願いします」

「そう来なくっちゃ!」


 ニジーの目の前に[プレイヤー【モクレン】から【師弟宣言】が来ています。了承しますか]というシステム上の文字が出た。


「これを了承っと」


 了承ボタンを押すと、軽快な効果音と共に自動でマップが開き、モクレンのいる場所に【師匠見習い】と書かれた一際目立つアイコンが表示された。ニジーのいる場所には【弟子見習い】と書かれている。


 あまりにも簡単に師弟関係が結べることにニジーは驚く。


「これだけで弟子になれたんですか? でも弟子見習いって書かれてるけど……」

「ああ、簡単なもんだろ。見習いは弟子と師匠になる前のお試し期間みたいなもんだ。一定数クエストを一緒にこなさねーと本来の師弟システムは使えねーんだよ」

「この期間があるおかげでお試しで師弟関係結んでお互い合わなかったら気軽に解消するってのができるわけだ」

「なるほど〜」


 お試し期間があることで気負うことなくプレイヤー同士が師弟関係を結べるシステムなのだろう。


「ちなみに弟子の申請断ったらこのはっぴはどうするつもりだったんですか」

 ニジーは今着ている白いはっぴを眺めた。花火の模様がカラフルで着ているだけでテンションが上がる。


「ははっ、弟子にならなくてもそのアバターは全部やるつもりだったけどな。どうせ同じもん2着持ってても使わねーし。下着みてーな初期服よりはまだマシだろ」

「ほわ!? 果物に釣られて罠にハマった鳥の気分!師弟関係解消していいですか」

「早えーよ!? アバターもらうために仕方なくアンケートに答えた的な感じだな!?」

「えー。で、師弟関係を結んだら何をすれば?」

「いんや、今日はもう終わるわ。俺がインしてる時にマップのアイコンから声かけてくれ。またな、ニジー」

 モクレンはくるりと背を向け挨拶するように手を上げるとスッと光の筋になって消えていった。

「速攻帰るんかい!」

 抗議しようにもすでにその場に姿はなかった。


 ニジーは呆れたようにモクレンが消えた方を見ていると、後ろからドスンドスンと地鳴りのような音が近づいてきた。嫌な予感がする。


「嬢ちゃん、モクレンはどこいったあ!?」

「ひっ! ベルデルさん、とコルク海賊団のみなさんですね……」

 顔を真っ赤にして怒っている様子のベルデルと、その後ろからついてきた黒い集団がニジーを囲んだ。


(早速役に立ってない師弟関係!!!)

 モクレンに助けを求めようにも肝心の師匠はすでにログアウト済みだ。


「モ、モクレンさんなら今さっきログアウトしていきましたよ」

 ニジーはコルク海賊団に身ぐるみ剥がされるのではないかと震えながらおそるおそるベルデルたちを見上げる。

 スカルメイクに四方を囲まれた状態で逃げられそうにない。


「ぐうううッ一足遅かったかあ!」


 ベルデルはがっくりと肩を落とすと大きくため息をついた。なぜか残念がっているようにも見える。

「くっそお、あの野郎勝ち逃げしやがってえ! 嬢ちゃん、今度モクレンに会ったら『次会ったら覚悟しておけよお!』って伝えておいてくれ」

「あ。ハイ。分かりました〜」


 そう言い残すとベルデルたちは特にニジーを襲うことなく大人しくステージの方へ向かっていった。

 悪役っぽいセリフの伝言を残していくところにどことなく可愛さを感じる。


(……ホッ。何もされなくてよかった)


 安心したのも束の間、ベルデルが何かを思い出したかのようにくるりとまたニジーの方へ向かってきた。

「なあ嬢ちゃん」

「はいいっ!?」

 今度こそ身ぐるみ剥がされるのではないかとニジーは身構える。


「ステージ裏に四つ折りの紙落ちてなかったかあ? 嬢ちゃんがさっきオレんとこに持ってきたヤツ」


 四つ折りの紙といえばモクレンが手書きでベルデルへの挑発を書いたものだ。


「あー、落ちてましたよ。これですよね」

 ニジーはポケットから四つ折りの紙を取り出す。

「そうそうさっき落としちまったみたいだったからなあ。その紙貰えねえか?」

「いいですけど……なんで?」

 ニジーが紙を差し出すと、ベルデルは両手で大事そうに受け取った。

「モクレンからの手紙なんてレアすぎ……じゃなかった、コンテストの妨害行為をしたわけではなく挑発された証拠として審査員に突き出してやろうと思ってなあ! ありがとな嬢ちゃん!」


 ガハハとわざとらしく笑いながら去っていくベルデルを疑わしそうな目でニジーは見た。

(多分あの紙じゃ証拠にならないと思うけど。もしかしてベルデルさんって……?)


 1人その場に取り残されたニジーは呆然と立ち尽くす。


(師弟関係役に立たなかったし解除しとこうかな……)

 残念ながら解除の仕方が分からなかった。


 結局大図書館オルパイアの探索はほとんどできないまま7日目も終わったのであった。


 ── 残り964時間


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