【並世】Day7 ペアルックコーデコンテストを終えて
「ほわー、ほんっと緊張したー……」
ニジーはステージ裏の観客から見えない位置にくると大きくため息をついてその場に座り込んだ。
「ペアルックコーデコンテストで一生分の注目度を使い果たしたような気分……」
「ははっ、即興にしてはうまくいったんじゃねーか?観客からの反応も思ったより良かったしな」
「ツッコみたいこと色々ありすぎて。モクレンさんいつの間にコーデの説明用意してたんですか」
「ん? さっき待ってる間に調べた。理由なんて後付けでもどうにでもなるだろ」
(……コーデ選んだ本人はどうにもならなかったけど!)
モクレンはパフォーマンス後にも関わらず特に疲れた様子もみせていない。
「そういえばさっきの花火の掛け声って一体……」
ニジーがそう言いかけたところで、巨大な影がドスンドスンと地面を揺らしながら2人の前に近づいてきた。
「ゼエゼエ……モオオクウウレエエン! てめえ俺の合言葉をパクるとはどういうつもりだ……ッ!! あと嬢ちゃんモクレンの弟子なんだってなあ!?」
スカルメイクとタキシードの上に、赤の花火はっぴと黄色い安全ヘルメットを被ったベルデルが息を切らしながらやってきた。奇抜なコーデすぎてゆるキャラのようにも見える。
後ろには団員と思われる数人がついてきており、団員達も皆揃って紅白の花火はっぴを着ている。
「お。お前たちも花火はっぴに投票したんだな。サンキュー」
「話聞いてたか!? ま、まあ? 夏も近いしこの花火はっぴのチョイスは悪くなかったぜえ」
「投票?」
ニジーは不思議そうにモクレンとベルデルを見る。
「コーデコンテストでは出場者の着用しているアバターを購入すると、1チームにつき1人1点まで観客投票できる仕組みだ。観客投票数と審査員得点の合計でコンテストの結果が決まるんだぜえ。弟子なのにそんなこともモクレンに教えてもらえなかったのかあ?」
ベルデルはニジーに目線を合わせるようにしゃがみ込むと詳しく仕組みを解説した。意外といい人なのかもしれない。
(え? なら何でベルデルさんたちはっぴ買ってくれたんだろ……勝負してるはずなんだけど)
コルク海賊団だけで20人以上がはっぴを着ているということはそれだけ敵に塩を送っているということだ。この程度問題にならないくらい得票する自信があるのだろうか。
「いや弟子っていうのはその場の……」
とニジーが言いかけたところでモクレンが手で言葉を遮った。
「俺らの花火パフォーマンス良かったろ? ニジーがあの短時間で考えたんだぜ」
「おお、それはすげえな嬢ちゃん。本当に日本の花火を見に行こうかと一瞬思っちゃったぜえ。ってちがーう! オレの合言葉をパクったことに抗議しにきたんだった!! しかも嫌がらせみたいに微妙にフレーズ変えやがって!!」
ベルデルは息を整えながら1人でノリツッコミする。
「なーに言ってんだ。先にあの合言葉をパクったのはお前じゃねえかベルデル。あれはグラウプが考えたコルク海賊団の合言葉だ。しかも勝手に改変したのもお前だろ?」
モクレンは不機嫌そうな顔で言い放つ。
会話についていけないニジーは2人を交互に見た。
「あ、あのー『弱虫団長海わたる 船が沈んで魚のエサさ』ってどういう意味?」
「『団長』じゃねえぜえ! 正しくは『船長』!」
「ひい! すいません!」
ベルデルにずいと顔を近づけられて固まるニジー。巨大なスカルメイクが目の前に近づいてくるとホラーだ。
「『海賊船長海わたる 船が進んで最高なのさ』が本来の合言葉だ」
モクレンは遠くを見ながら過去を懐かしむかのように言った。
「はっ! 弱虫グラウプには『弱虫船長海わたる 船が沈んで魚のエサさ』がお似合いだったけどなあ。最後の最後までペコペコしやがってよお」
その言葉にまたモクレンが殺気立つ。
「おい、お前が気軽にグラウプの名前を呼ぶんじゃねえって言ったろ。3枚におろすぞ」
「おーおー受けて立つぜえ? さっきステージ上で一撃加えられなかったことだしなあ。まだ決闘の勝負はついてねえだろお」
「え! いつの間に決闘してたの?」
ニジーはモクレンとベルデルをよく見てみると頭上にHPバーが表示されている。
「ということはさっきなんか飛んできたのってベルデルさんの斧!?」
「今さら気付いたのか? ニジー自身が『ベルデルさんの一撃があれば』って言ってただろ」
「いや、だって早すぎて何が飛んできたのかも見えなかったし……」
「そうだろそうだろお。オレの自慢の必殺技だぜえ。その名も『ベルデル・ストーム』だ!!」
団員たちからオオーという歓声が上がった。
(名前がダサい)
自慢げに言うベルデルに対しニジーは可哀想なものを見るような目を向けた。
「でも紫炎華に弾かれて建物の向こうまで飛んで行ったけど」
「ゔぐっ、それはモクレンだからできる事であってだなあ……。普通のヤツじゃあ目で追うこともできずに吹っ飛ばされるはずなんだよお……」
現れた時に息が上がっていたのは斧を回収に行っていたからだろうか。
「と・に・か・く! あのメモも含めお前からの挑発に乗ってやったんだあ。もう1回勝負してもらうぜえ」
ベルデルが大斧を構える。
「ふん、打ち上げ準備の礼に勝負ぐらいしてやるよ。また一撃でやられて泣くなよ」
モクレンも紫炎華を抜くと挑発するかのように笑った。
(待った待った! 勝負はペアルックコーデコンテストで決めるんじゃなかったの!?)
ニジーはあたふたするが2人を止められそうにもない。
今にも決闘が始まろうとしたその時、ステージから司会者オリゾンデのアナウンスが響いた。
[さぁて! これをもちまして全ての出場者のパフォーマンスが終了しましたん! ただいまより審査と集計に入りますん。出場者の皆様はステージ前に並んでお待ちくださいん!]
「チッ、命拾いしたなモクレン。だがオレらの勝利は揺るがねえぜえ! 野郎どもいくぞ!」
「「オオー!」」
ベルデルはスッと決闘状態を解くと取り巻きの集団と共にステージの前へと消えていった。
「めんどくせー戦いに巻き込まれなくて助かったぜ」
モクレンも紫炎華を一振りしてバングルに戻すと、気だるそうに歩き出した。
(結構ノリノリな感じだったけど実はめんどくさかったのね……)
その時、コルク海賊団が先ほどまでいた場所に四つ折りの小さな紙が落ちていることに気付いた。
(あ。あれはさっき私がモクレンさんから頼まれて渡しに行った紙だ)
ニジーはサッと紙を拾い上げてみる。
そこには『決闘の続きだ。一番目立つ場所で俺に一撃だけ食らわすチャンスをやるぜ』と書かれていた。
意外なことに可愛い字だ。字が可愛すぎて挑発というにはどうも迫力がない。
「ってステージ始まる前からベルデルさんのこと挑発してたんじゃないですか……」
「燃える紫炎華を花火に見立てるのはニジーのアイデアだったろ。ベルデルは単純だから挑発に乗ってくるとは思ってた」
多分向こうも同じように思っているのだろうと、ニジーはモクレンにも可哀想なものを見るような目を向けた。
「それにしてもあんなに荒っぽい感じだとは」
「あんくらいしないと目立たねーだろ?俺らも早く行こうぜ」
審査中は全チームがステージ前に今回のコーデで一列に並び、観客が近くでコーデを見たり試着したりできる時間のようだ。
(ひゃ、ひゃあ……人がいっぱいいすぎて落ち着かない……)
ニジーとモクレンのペアも何度も観客たちからスクリーンショットを求められた。
普段人前に立つことのないニジーはブルブルと震えながら、モクレンの影に隠れて空を飛ぶ鳥を数えることで気を紛らわしながらその場をやり過ごしたのだった。
[さぁて! みなさんお待ちかねですよねん! ただいまよりスバイス公式ペアルックコーデコンテスト結果発表をおこないますよおおん!!!]
司会者のオリゾンデがステージ中央の台に乗って登場し、結果の書かれたボードをステージに上がっている審査員たちから受けとる。
[お、おっとお!?こ、この結果は今までにない感じですん。これは発表していいんですかねえん?]
何やら司会者すらも困惑する結果のようで、審査員と若干揉めている。
[大変お待たせいたしましたん! では一応観客得票数の多かった上位5チームを先に発表していきましょおおん!]
ドラムロールが鳴り、ステージ前は緊張に包まれる。
ダララララララララ……ダン!
「観客得票数、第1位は───『チームモクレンニジー』!」
オオオオオオ!!!
会場が大きく盛り上がった。
[普段そこまで数が出ないはっぴが、店の目玉商品の販売数を抜くほど一時的に爆売れしたそうですん! これも紅白の花火はっぴの効果ですねん!!」
ステージ上に立てられたスクリーンに花火を打ち上げていた時の映像が映し出される。
(え、うそ?)
ニジーはそのアナウンスを聞いて耳を疑った。
「おー、ニジー観客得票数1位だってよ! これはマジで優勝狙えるんじゃねえか?」
モクレンは嬉しそうにニジーをひょいと肩車する。
「っちょ、何するんですか!」
「影に隠れてねーで観客に手でも振っとけ」
ニジーはまた耳まで真っ赤になるのを感じつつも、控えめに観客に向かって手を振った。
「かわいい〜♡」という歓声のおまけがついた。
「観客得票数、第2位は───『チームコルク海賊団』! スカルメイクのフェイスペイントでの得票が絶好調でしたん! パフォーマンス中は会場にいる全員がガイコツになったかと思ったくらいでしたからねん!」
今度はコルク海賊団の一団から歓声のようなブーイングのような微妙な声が上がった。
(ベルデルさんたちの得票数もやっぱり多かったんだ)
「なんだか海賊団の皆さんがこっち睨んでいるような気がするんですが……」
肩車されているため少し先にいるコルク海賊団の様子がよく見える。いかついアバターたちの視線が痛い。
「気にすんな。あいつらだって勝負だって分かっててこっちにも投票したんだからな」
順位が発表されるたび、観客たちのアバターが投票したチームのコーデに変えていた。
観客席にいる人の多くは複数のチームに投票しているようだ。イベントの人気ぶりがよくわかる。
こうして5位までが順調に発表されていった。
[さぁて! 観客投票の結果を発表したところで、審査員得点との合計でコンテスト入賞チームを発表していきますよおおおおん! 呼ばれたチームはステージ上までお上がりくださいん]
(ほわーなんかドキドキする……! 本当に入賞しちゃってたりしたらどうしよう!?)
ニジーはソワソワしながら無意識のうちにモクレンの前髪を引っ張っていた。
「動揺しすぎだぜニジー。俺らの勝利は確実さ!」
そういうモクレンも先ほどよりもテンションが高そうに見える。
オリゾンデがマイクを構えて、勿体ぶるかのようにゆったりと会場を見渡す。
[今週のテーマ『祭』のペアルックコーデコンテスト、映えある優勝者は──────────]




