【並世】Day7 ペアルックコーデコンテスト前編
「うわー、こんなにプレイヤーいっぱいいるんだ……みんなコンテストに出る人達?」
「ほとんどが観客だろ。コーデコンテストはスバイス公式が定期的に開催してる人気イベントだからな」
ニジーとモクレンはコンテスト用のファッションアバターを調達し、中央通りのイベント広場に戻ってきていた。
先ほど準備中だった広場には爆音でBGMが流れ、多くの人々が集まっている。
光ったり動いたりといった派手でユニークなアバターを着用しているプレイヤーが多く、この一帯だけお祭りのようだ。
[〜♪ ペアルックコーデコンテストにエントリー希望の方はエントリーコーデを着用の上ステージ裏受付までお越しください]
広場にアナウンスが流れると、ステージ前に集まっていたプレイヤー達がぞろぞろと一斉にステージ横に並び始めた。
「お、エントリー開始したな。早めに登録しとくか、っとその前に」
モクレンは手慣れた様子でジェスチャー操作するとニジーの目の前にポップアップ画面が表示される。
[プレイヤー【モクレン】から【ファッションアバター10件】【登録コーデ1件】の取引申請が来ています。了承しますか]
ニジーは了承ボタンを押すと、目の前にもらったファッションアバター一覧が3Dで表示された。
登録コーデと書かれたアバターを押すと、着用しているアバターが先ほどショップで決めた参加コーデに早変わりする。
白Tシャツにデニムにサンダル、麦わら帽子にサングラスという究極の夏のベーシックスタイルだ。
モクレンの選ぶコーデがあまりにも微妙すぎたため、ニジーが『今世で着ても通報されなそうな夏のファッション』としてコーデしてみたのだった。
「こんなに簡単にコーデ全体替えられるんだ!?」
「そんなに驚くことか?」
モクレンも先ほどニジーが選んだコーデに変更する。最初に試着していた赤いビキニがTシャツの下から透けて見えていかにも夏らしい。元々がモデル体型のアバターのためシンプルなコーデでも様になる。
先ほど微妙なコーデばかり提案されたのが不思議なくらいだ。
2人はエントリーの列の最後尾に並ぶ。それにしても周りに並んでいるコンテストの参加者と思しきプレイヤーたちは、大きな羽根飾りをつけていたり仮面をつけていたり光っていたりととにかく派手だ。
(いや待って逆にこれ私たち地味すぎない……!?)
「ハッ、逃げずに戻ってきたかあモクレン! ペアの相手は見つかったのかあ?」
周りのプレイヤーのアバターをキョロキョロ見渡していると、後ろから聞き覚えあるダミ声が聞こえてきた。
ニジーとモクレンは同時に振り返る。
「ああ、ばっちりだぜ……って誰だよ」
「ほわ! ガイコツ!?」
後ろにいたのは顔に白と黒の派手なスカルメイクをした黒いタキシードの巨大な男性が立っていた。メイクが厚すぎてすでに元の顔がわからない。
彼の取り巻きもみんなスカルメイクをしていて、その一帯だけハロウィンの仮装大会のようだ。
「あまりにもコーデが素晴らしすぎて誰だかわからないと言いたいんだな!」
「いや分かるわ。ベルデルそのまんまだろ」
ベルデルはモクレンの隣でキョロキョロと挙動不審な動きをしているニジーに目をやる。
「そこのファフィアウルがモクレンのペアか〜。見ない顔だな?無理矢理連れてこられたのか?」
「あ、分かります?」
ベルデルはニジーと目線を合わせるようにしゃがみ込み、同情するかのような表情をした。
「それは災難だったなあ。こんなおっかないヤツに脅されたら断れないよなあ」
「横にいたからってだけで連れてこられたんですから」
「そうかそうか。モクレンとコーデ考えるのも大変だったろお。なんせダサ着のモクレンって団員から噂されてたぐらいだからなあ」
「なるほど、やはり。なるほど」
ニジーとベルデルはヒソヒソと話す。
「おいそこ意気投合してんじゃねーよ」
モクレンは腕を組みながら不機嫌そうに言った。
ベルデルは立ち上がるとモクレンとニジーのペアルックコーデをジロジロ見る。
「お前ら、地味オブ地味だな。今世のコーデとすりゃあ悪くねえがここはスバイスだぜえ? 地味すぎて逆に目立つわ」
「地味すぎて目立つ!?」
目立たないようなファッション選んだはずなのに逆に目立つと言われて衝撃を隠せない。
「そいつは嬢ちゃんのコーデだろお。モクレンがそんな地味コーデするわけねえもんなあ」
地味地味言われて地味に傷つくニジー。
「お前たちこそ、そのコーデのどこが『夏』なんだよ。ハロウィンは夏じゃねーぞ」
「あっれえ? 今日のテーマは『祭』だぜえ? ステージにもでっかく書いてあんだろお?」
ベルデル一味はニヤニヤと笑いながら2人の様子を眺める。
「はぁ?」
「……なっ!?」
モクレンとニジーは驚いてステージの方を振り返ると、確かに真ん中に飾られた横断幕には『テーマ<祭>』と大きく書かれていた。
ニジーはその事実を知った瞬間、さぁっと血の気が引いた。震えながらモクレンのほうを見る。
「あ……私、聞き間違えて……」
「いいや、こいつは俺たちに向かって『夏』って確かに言ってたぜ。ニジーは悪くねーから安心しろ」
モクレンは一歩前に出てベルデルを睨みつける。
「おいベルデル。勝負事に嘘つくとはいい度胸じゃねーか」
「ハッ、勝負前に自分で確認しねえてめえが悪いんだろ。その地味コーデはなんの『祭』なんだろうなあ〜?」
2人の周りを取り囲んでいるコルク海賊団からドッと笑いが起こった。
「チッ、ニジーいくぞ。作戦練り直しだ」
「お、ここまで来て逃げんのかあ? エントリー終了まであと10分だぜえ」
モクレンは時間を確認し、踵を返すとエントリーの列から抜ける。
「逃げやしねーよ。ただお前らに勝つために準備するだけだ」
「ほーう。楽しみに待ってるぜえ」
2人はコルク海賊団の一味からできるだけ離れるように早足でステージ横に回り込んだ。
「ったくベルデルの野郎、嘘の情報流しやがって! それを鵜呑みにした俺たちも甘かったが」
「私も普通に信じちゃいました……。でもエントリー終了まであと10分しかないって言ってましたね」
「時間がないのは本当みたいだぜ。にしても『祭』か……手持ちで祭らしいアバターは無いな。今からアバター街に戻ってる時間はねーしどうするか」
(祭りかあ……最初に試着した浴衣を買ってれば夏祭りっぽかったけど)
ニジーは自分の持っているファッションアバタ一を眺める。
モクレンも自分の手持ちのアバターを確認しているのかしきりに着せ替えている。やはり最初に着ていたコーデ以外全部微妙なファッションアバターばかりだ。安全ヘルメットなど何に使うのかわからないような小物まで出てきた。
「祭……祭といえば……あ!」
ニジーはモクレンが何故か安全ヘルメットをかぶってる姿を見て思いついた。
「そのヘルメットって2つあります?」
「ああ、ギルドイベントに使ったアイテムだからいっぱいあるぜ。欲しければやるよ」
ヘルメットをいっぱい持っているという謎にニジーはツッコミを入れたかったが時間がないのでスルーする。
「モクレンさん、これ!」
ニジーはヘルメットを受け取ると同時に逆にあるものを受け渡した。
「こんなんよく買ったな!? 確かに祭りっぽいっちゃ祭りっぽいが……」
「さっき決めてたコーデの上にコレ着るだけでいいのでは?」
「あー確かに。だがコレとヘルメットになんの関係が?」
「それは……」
ニジーはモクレンにアイデアを耳打ちする。
「ほぉ、なるほど。もう時間もねーしそれでいこう!」
「即決! 自信ないけど!」
[〜♪ ペアルックコーデコンテストのエントリーまもなく締切です。参加を希望される方はエントリーコーデを着用の上ステージ裏受付までお越しください]
参加者の大半はすでにエントリーを済ませたのか、先ほどの列はすっかりなくなっている。
「参加しまーす!」
パタパタと手を振りながら受付に飛び込んでいったのだった。




