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side by side world(スバイス)  作者: 風見緑哉
仲間との出会い
27/32

【並世】Day7 アバター街 後編

 ニジーは少し離れたところからじーっとビキニ姿のモクレンをながめる。


「なんだよ、そんなにジロジロ見て」


 首の細さや豊満な胸、高めのウエストの位置などは女性的だ。だが肩幅が広く逆三角形の上半身や、ゴツゴツした筋肉質の腕や脚などは男性的だ。なんといっても直線的で引き締まったお尻のラインはまさに男性の骨格だろう。


「だ、……男性?」


 モクレンはニッと笑うと親指で自分の胸を指差した。

「残念、両性だ」


 ニジーは一瞬思考停止する。

 ぽっとカエルが思い浮かんだ。


「両生類……陸も水中もいけるってこと??」

「ちげーよ! 今の話の流れでどうしたらそうなるんだよ!? 女と男の両方なんだよ!」

「両方!!」


 ニジーは想定外の設定に衝撃を受ける。

(『両性』ってどっちの性別でもあるってこと……!? モクレンさんのコーデが難しいってベルデルって人が言ってた理由はそれかー!!)


 モクレンは腕を組みながら呆れたように言う。

「ったく、なんだそんなことかよ。初期アバター作成の時に男性・女性・両性・無性から選べたろ。スバイスじゃ珍しくもなんともねーよ」

「そうなの!? でも両性ってコーデ難しくないです?どっちに合わせればいいのか……︎」

「あー、確かに両性コーデ見本は比較的少ないかもしれねーな。で、このコーデどうよ? 着てみるか?」


(この派手な水着を着こなせるアバターって限られると思うけど……)


「……」

「……」

「……ニジー、ビキニ似合わねーな」

「人間アバターじゃないから仕方ないですよほんともう! 人間アバターでも着こなせる自信ないけど!」

 

水着というより日焼けの痕みたいで泣きたくなった。そしてファフィアウルにハイヒールは似合わなすぎる。


「うーむ。『夏』っつったら水着しか思いつかなかったが。ま、色々試してみっか」


 30分後。


(……ベルデルさんがなんでペアルックコーデで勝負を挑んだのかわかった気がする)

 ニジーはまだイベントが始まっていないにも関わらず、すでにぐったり疲れていた。


(まさかとは思ったけど、モクレンさん実はコーデ苦手なのでは?)


 本人の前では口が裂けても言えないが、出てくるコーデがどれも微妙すぎて、よくこのとんでもないプロポーションのアバターでこんなにダサいコーデができるものだと逆に感心してしまう。


 本人は自信満々そうにニジーにも勧めてくるので、どうやって却下しようか言い訳を考えなければならなかった。


「あ、あのモクレンさん?元々着てたコーデみたいなシンプルなのがいいんじゃないですかね」

「これか?」

 モクレンはパッと一番最初に着ていたコーデに戻す。

 胸元が大きく開いているタートルネックのへそ出しコーデも、今まで出してきたものに比べたら神コーデに見えてしまう。むしろそのままコンテストに出た方がまだ良いのではとニジーは思った。


「これは俺のコーデじゃねーんだ。コルク海賊団のオシャレ番長だったクークーっつーメンバーにこの店のアバターで全身コーデしてもらったのさ。イケてんだろ?」


(やっぱり別の人のコーデだったー!!)

 ニジーはがっくりと肩を落とす。このままモクレンにコーデを任せておくとステージ上でコルク海賊団から笑いものにされる未来しか見えない。


「あのっ、一応私もコーデしてみてもいいですか?」

「なんだよ、俺のコーデが気に入らないってのか?」

「またまたぁ〜そんなわけないじゃないですかー! こういう所初めて来たから面白くって。ナイスバディのモクレンさんに着てみてもらいたいアバターいっぱいありますし! 多分!」


 ニジーは顔をひきつらせながら無理やり笑顔をつくる。

 巻き込まれた上に笑いものにされるくらいなら、無難なコーデを選んで目立たずイベントを乗り切りたい。


「ほぅ、面白れーじゃねーか。もうあんまし時間がないが10分やる。迷ったものは全部2着ずつ買え」

「やったー! ありがとうございます!」


 ニジーはパタパタとショップ内全体を見渡した。

(私もファッションコーデに自信ないけどモクレンさんに比べたらまだマシ! 多分!)


 良さそうなアバターに触って試着してはとりあえず手元のカゴに入れていく。

 着脱が一瞬でできる分、今世よりも簡単に色々なコーデを試すことができるので面白い。


(両性の人間アバターにファフィアウルのペアルック……うーん、どんな?)

 どちらも未知のコーデのため、どのようなファッションが正解なのかわからない。

 ただ同じものを着ればいいだけなら簡単だ。ペアルックの相手が、圧倒的な存在感を放つモクレンでなければの話だが。


 とりあえず『今世で着ても通報されなそうな夏のファッション』を勝手にテーマにしてニジーはアバターを選んでいった。


(迷ったものは買えって言われたからさっき迷ったアレも買っとこっと)


 10分後。


「こんなのどうですか!」

「おー、普通すぎる気もするが意外と夏っぽくていいんじゃねーか?」

「モクレンさん、ソレ似合いますね〜。下にさっきのビキニ着てもいいかも」

「よし! もう時間ねーからこれ全部買って会場に向かうぞ」


 ニジーはカゴの上に表示されている購入ボタンを押すと、合計の値段を見て目玉が飛び出そうになった。

(……ってアバター高っ!?)


 どのファッションアバターも高額でニジーの手持ちのサイドでは到底買えそうにない。

 買えたとしてもせいぜい小物程度だ。


「あ、あのモクレンさん?」

「ん? どした」

「ファッションアバターの価格が高くて1着も買えそうにないんですけど……」

 クエストをスルーしてこなければ買えたのだろうか。


「あー、心配すんな。全部買ってやっから。一昨日臨時収入も入ったことだしな」


 モクレンはニジーからカゴを受け取り、自分のカゴの中身と合わせる。中身が光になって消えたところを見るとすでに購入が完了したのだろう。


「臨時収入?」

機工作士(きこうさくし)のロボっぽいのが空から落ちてきたのを受け止めただけでたんまりだぜ。笑えるだろ」

「はい?」


 今、何か衝撃的な言葉が聞こえた気がした。


「それって玩具のロボとかじゃなくて……大機工人(だいきこうじん)クァバルデのこと?」

「確かそんな名前だった気がすんな。緊急クエストだったから覚えてねえや」


(私たちに緊急クエストの報酬がほとんど入らなかったのってこの人が原因かー!!!)

 緊急クエストの当事者すぎてニジーは開いた口が塞がらない。

(いやでも本当にあのまま墜落してたら壊れてたかもしれないし、お礼を言うべきか言わざるべきか……)


 ニジーは遠い目をしながらブツブツと独り言を呟く。


「本当は線路のとこで受け止めるつもりだったんだがなー。駅長脅して電車走らせたのも無駄だったし、変な動きするロボだったな」

 モクレンは何気なく言うが、その言葉が上の空のニジーに届くことはなかった。


「ありがとうございました〜♡ ペアルックコーデコンテスト頑張ってくださいね」

 店員がショップを出ていく2人に向かって深々とお辞儀をする。


「狙うは優勝! 喧嘩売ってきたベルデルに一泡吹かせてやるぜ。いくぞニジー!」

「本当に大丈夫かなあ……このコーデで」


 ニジーは不安な表情で自信満々のモクレンの後をまた追いかけイベント広場へと向かっていった。

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