【並世】Day7 ペアルックコーデ
「おーおー、コルク海賊団のメンバーが勢揃いしてやがる。また増えたんだな」
白と紫の髪の目つきの鋭いアバターがウェーブのかかった長い髪をかき上げながら言う。
「コルク海賊団?」
「さっき俺に突っかかってきたベルデルってやつが今はギルドマスターを務めるギルドさ」
ニジーは今、「紫炎華」の異名を持つ剣士・モクレンと一緒にクルッティコラの街の中央通りにあるイベント広場にいた。
ただの決闘避けに連れてこられただけだが、まさか決闘の際に圧倒的存在感を放っていたモクレンとこうして並んでいることが信じられなかった。
(なんかすごい注目集めてる気がする……モクレンさん良くも悪くも目立ちすぎだよ〜……)
スラリと背が高くオーラのあるモクレンと並んでいると、まるで飼い主とペットのようだ。イベント広場に向かって中央通りをただ歩いているだけで、多くのプレイヤーの視線を釘付けにしていた。
イベント広場の中央には大きなステージが立ち、これから何かのイベントが行われるのだろうか、ステージ前で黙々と準備をしている人々が見受けられる。
広場には通りがかりのプレイヤーの他に黒いバンダナをつけたガラの悪そうな一団がおり、準備をしている人々に絡んでいた。
「海賊さんたち特に暴れてないですね?」
「まったく、急いで来た意味なかったじゃねーか。まあ暴れられてても面倒くせえが」
先ほど伝えにきた人の話ではベルデルたちがイベント広場で暴れていると言っていたが、見たところ平和な状態が保たれている。
モクレンは近くにいた黒いバンダナの小柄な男性に呼びかけた。
「おい、呼ばれたから来てやったぞ。何の用だ?」
小柄な男性は突然後ろから声をかけられたことにびっくりしたのか、その場で飛び上がるとステージの方を向いて呼びかけた。
「ヒッ! モ、モクレン……。本当に来たのか。親分ー! モクレンが釣れましたゼー」
「人を魚みたいに言うなよ」
さっき一撃でやられていた海賊帽の男性がこちらに振り返ると、先ほどより多い取り巻きを連れてステージの方から悪巧みをしているような表情で近づいてきた。
「よく来たなあモクレン! もう一度勝負だ」
「ベルデルお前、さっき俺に決闘で負けたばっかりだろ……まだ懲りないのかよ。今日の決闘はもうお断りだぜ」
モクレンは憐れみの表情で全く懲りていない様子の相手を見る。
「今度は決闘じゃねえ。これからここで行われるイベントでの勝負だ」
「ほう?」
「まあ、今度の勝負はお前に勝ち目はねえけどなあ」
「面白れーじゃねえか。どんな内容だ?」
勝ち目がないと言われたことに反応したのかモクレンが少し興味を示した。
「ええ〜?教えてほしいのお?」
「早く言えよ」
少し勿体ぶるようにベルデルはニヤニヤと笑うと、バッとステージを指差した。
「次はこれからここで行われるイベント『ペアルックコーデコンテスト』で勝負だ!!!」
シーーン
場が完全に沈黙した。
「帰る」
モクレンがくるりと後ろをむいて歩き出す。
「おっとお〜? 売られた喧嘩は全部買うのが信条じゃなかったかあ? それとも何かあ、自信がねえのか?」
「なんだと……?」
ベルデルはギョロギョロと魚のように目を見開きつつ、指を差しながらわざとらしく言う。
「あぁ〜、そうだ忘れてた! モクレン、お前は生粋のソロプレイヤーだったなあ! そもそもペアルックコーデコンテストに一緒に参加できるような友達なんていなかったかあ。そもそもイベントに参加すらできないんじゃあ話になんねーな」
周りの取り巻きたちがチラチラとモクレンの方を見ながらクスクス笑った。
「……ぐっ!」
核心をつかれたのかたじろぐモクレン。
(モクレンさんどう考えてもそんな安っぽい挑発に乗っちゃだめですって。ってのるわけないか)
ニジーは冷めた目で2人のやりとりを眺める。
「るっせえ! 余計なお世話だ。お前たちこそ海賊のナリでコンテストに出ようなんておこがましいんじゃねえのか!」
ベルデルは甘いなとでも言いたげな表情で人差し指を立ててチッチッチと舌打ちした。
「海賊はオシャレなんだよ! それにオレらには団員もアバターアイテム所持数も多いからなあ。どんなコーデにも対応できるぜえ」
周りを取り囲んでいるコルク海賊団にはヴィジュアル系団員などもいるようだ。
よくよく見るとベルデル自身のアバターも貴族風でオシャレだ。だがどことなく頭が悪そうな雰囲気のためおしゃれ感は相殺されている。
「それに比べててめえはコーデが難しい両性アバターだろお? ペアもいねえ、コーデも難しいとなりゃあ今のうちに尻尾巻いて逃げた方が恥をかかずに済むんじゃねえのかあ」
ニジーはモクレンを見る。
顔をひきつらせながら挑発に耐えてはいるようだが目が笑っていない。嫌な予感がする。
「いやあ〜よく考えてみれば、勝負って言ったら決闘しか頭にない脳筋モクレンさんにペアルックコーデなんて100年早かったかあ。そもそもペアルックって何か分かるのかなあ〜?」
ドッと笑いがおこった。
俯きながら震えるモクレン。先ほどの場が凍りつくような雰囲気とは違うがやはり腹を立てているのだろう。
「……さっきから好き勝手言いやがって……」
「おしゃれ番長のクークーがいねえとやっぱダメかあ〜。今のコーデもあいつの置き土産だろ?クークーにコーデしてもらう前はダッセえアバター使ってたって噂、知ってるぜえ」
ブチッ
(あ、キレた)
我慢の限界を振り切ったことを横目で見ているだけでもわかった。
前に置いてあったイベント用のイスにガンっと足をかけると、今度はモクレンがベルデルを指差しながら言った。
「ここまで馬鹿にされたらやってやろうじゃねーか! ペアルックコーデコンテスト、受けて立つ!!」
ヒールで椅子に穴が空いた。
ヒューヒューと子分たちがはやし立てる。
(いや、なんで! なんでそうなるの!?)
ニジーは空いた口が塞がらない。決闘は強いが頭は弱いのだろうか。
「乗ったな?イベントの開始は1時間後だ。それまでにペアを見つけてコーデを揃えられなければお前の負けだ」
「いいぜ、勝負となりゃ話は別だ。俺のコーデ力を舐めんじゃねえぞ」
「どんな格好を晒してくれんのか楽しみにしてるぜえ〜」
「今日だけで俺に2度も喧嘩売ったことを後悔させてやる」
お互い睨み合いながらバチバチと火花を散らす。
(もう帰っていいかな……)
同レベルの挑発のし合いに呆れるニジー。
「今日のコーデテーマは『夏』だ。恥かかねえようせいぜい頑張るんだな」
ベルデルは取り巻きたちと爆笑しながらモクレンとニジーの前から去っていった。
テーマを伝えていくあたり意外と親切なのかもしれない。
「海賊さんたちと決闘せずに済みましたよね! では私はこれで……」
ニジーはそそくさとその場を離れようとする。
その時、ニジーの肩をモクレンが掴んだ。
「おい、ニジー。何逃げようとしてんだ。早くアバター街にいくぞ」
「え、なんでどうして?」
「今回は極めて面倒くせえ『ペアルックコーデ』で勝負なんだ!2人でアバターコーデを揃えないと参加できねーんだよ」
「だから?」
ニジーは不思議そうにモクレンを見上げる。
「一緒にコンテストに出るぞ」
一瞬思考停止した。
「えええー! なんで私までコンテストに出なきゃいけないんですか!?」
「なんでって、お前しか近くにいなかったからな」
さも当たり前のように言うモクレン。
先ほどベルデルにからかわれていた友達がいないというのは本当なのだろうか。
突然自分に白羽の矢が立ってニジーは動揺が隠せない。
「い、いや、なんで私がモクレンさんとペアルックしなきゃいけないんですか! 恋人でもないのに!?」
モクレンは腰に手を当てながらずいとニジーに顔を近づける。中性的で端正な顔立ちは性別関係なく惹きつけられそうだ。
「今世じゃあるまいし別にアバターのペアルックなんざ誰でもするだろ。それにニジーお前その服、初期アバター作成の時から1度も変えてないだろ?下着で走り回ってるようなもんだぞ。この際新調しろよ」
「えっ、そうなの!?」
「服アバターもらえるクエストが輝鏡花の聖域か鏡樹の森辺りの初期クエストであったろ。やらなかったのか?」
ニジーは自分の着ている白いワンピースを眺めるが、確かにスバイスを始めてから1度も服は替えてない。変える方法すらわからない。
鏡樹の森といえば、鳥とパーソナルバディのパバディと階段を転げ落ちた赤い玉を追いかけて走り回っていただけだった。
「初期服のままだと初心者丸出し……って、まだ3レベルじゃねえか! 逆によくこのクルッティコラの街まで来れたな」
しゃがみ込んでニジーと目線を合わせる。ニジーのプレイヤー詳細情報を見たのかモクレンは目を丸くした。
「チュートリアルを兼ねた初期クエストをほとんどスルーしない限りは街に着くまでに10レベルくらいは上がるようになってるって聞いたことあるんだがな」
「えぇ!?確かに輝鏡花の聖域からほとんどクエストやってなかったかも」
「人によってクエストの発生はランダムだが、初期クエストだけは今後の冒険に必要なアイテム一式を報酬としてもらえるはずだ。今度やっとけ」
今まで誰も教えてくれなかったため、他のプレイヤーから教えてもらわないと普通が分からない。
いつの間にかほとんどのクエストをスルーしていたようだ。
「ま、このコンテストに出るだけでも経験値と報酬が貰える。お前にとっても別に損はないはずだぜ」
「海賊さんたちに私まで目をつけられたりしません?」
「金目のものもスキルもまだ持ってねえ初心者に絡むほどあいつらも暇じゃねえよ」
「そう言われるとなんかちょっと悔しいけど……」
確かに1人では出られないイベントに参加するチャンスではある。
(アバターの変え方も分かんないし、他のプレイヤーから下着のまま走り回ってるって思われるのも嫌よね……)
「う〜、分かりましたよ! 協力しますよ!」
ニジーはブンブンと手を振りながらあくまで不本意ですよということをアピールする。
「そうこなくっちゃ!」
モクレンは立ち上がりニッと笑うと親指で中央通りの奥を指差す。
「そんじゃ、アバター街に向かうぞ!」
(なんでまたこんなことに……)
そう心の中で呟きながらも、ニジーはこの状況を少しだけ楽しんでいた。
モクレンは口は悪いが色々と教えてくれている。
ニジーは紫と白の髪を揺らす背中をまたぴょこぴょこ追いかけていった。
side by side world<スバイス>をお読みいただきありがとうございます。
今後、毎週土曜8:00(または隔週土曜日)に更新していければと思います。
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