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side by side world(スバイス)  作者: 風見緑哉
仲間との出会い
22/32

【今世】休日

挿絵(By みてみん)


 ジュリリリリリリリ


 ジュリリリリリリリ


 静かな部屋に鳥の鳴き声のドアチャイムが鳴り響く。


(ん……誰……)


 ジュリリリリリリリ


 夢と現実の狭間にふわふわと浮いているようで、この心地良い場を離れたくない。


「おーい」


(誰かが、呼んでる……)


「おーい、姉ちゃーん。生きてるかー」

 聞き覚えのある声にゆっくり目を開けると、ボサボサの黒髪の眼鏡をかけた男性が目の前に立って顔を覗き込んでいた。

 部屋のライトがまだ開ききらない眼を刺激する。


「う、眩しい……。ってキリ!? どうしてここに?」

「……ネームドの活動1週間更新してないようだったから、死んでないかと思って一応様子見にきた。キーは管理人から借りた」


 弟、キリだ。

 ニジーはVRルームチェアに座りながら眠ってしまっていたようだ。


挿絵(By みてみん)


 ぼーっとした頭で自分の周りを見渡す。

「あれ、パバディは?」

 いつもついてくる白いモヤは見当たらない。また逃げてしまったのかと少し不安になる。


「パバディ? ……スバイス内の誰か? ここは今世だよ。しっかりして」

「ああ、そうだった」


 ニジーはフラフラと椅子から立ち上がりキッチンで水を飲む。

 昨日は半日以上ログインしていたため、長い夢でも見ていたかのようだ。


(ルーさんとリャホリィさんにまた会えるかなあ)


 キリはティーセットを用意すると2人分の紅茶を淹れテーブルにつく。


「……あれだけまめだった姉ちゃんが1週間もSNS更新しないなんて、その様子だとスバイスに魅入られた?」

「スバイス始めてから1週間……って逆にまだ1週間しか経ってないの? 色々ありすぎて1ヶ月くらいに感じてた」

「……スバイスの体感時間は長いって言われてるけど本当なんだね」


 ニジーはキッチンで遅い朝ごはんの準備だ。

 おおあくびをしながら冷蔵庫を開ける。

 デリバリー注文している1週間分の食材を眺め、サクランボを取り出した。


(ああこのサクランボ、赤い玉みたい。えっと名前はデバ……デバネズミの瞳?)


「スバイスやってみてどう?」

「うん……なんだろう。分からないことも多いけど毎日が新しい気がする。行くたびに新しい発見があるし、なんか色々巻き込まれるし。今世よりもドタバタしてる感じ」

「へえ、面白そうだね」


 ベーコンとトーストの香ばしい香りが部屋に漂った。

繋グ屋(つなぐや)にモーニングもあるのかしら?今度見てみよう)


「でもメニュー画面とか出ないのは変よね」

 それを聞いてキリは目を丸くする。

「メニュー画面のないゲームなんてありえる?ちょっとスバイスやってる友達に聞いてみようかな」


 トトトっとウェアラブルデバイスから誰かにメッセージを送る。

 するとピコンと軽快な音が鳴り響き、速攻返事が返ってきたようだ。


「姉ちゃんチュートリアルやらなかったの?」

「あー……ちゅーとりあるって何かわからなくてスルーしちゃったのよね。名前的に怪しそうじゃない?」


「ぶっ!」

 キリが紅茶を盛大に噴き出しむせた。


「……ちょっ、スバイスのチュートリアルをスルーする人って……操作方法のネタバレしたくない人かVRオンラインの玄人しか……いないんじゃない?」

 キリは悶絶しながら笑いを堪えている。

「……チュートリアルは操作説明のことだよ。逆に今まで1週間よくプレイできたね?」

「私もそう思う」


 キリはスバイスをプレイしているらしい友人から聞いた基本的な操作方法をニジーに教える。

 ボタンではなくほとんどジェスチャーで操作できるようだ。実はチュートリアルもいつでも出来るとのこと。


「今日ログインしたら早速試してみるね」

「せめて1週間に1回くらいは休んだほうがいいんじゃない。なんか姉ちゃんいつもより疲れてそうだし」

「そう?元気だけど」


(どちらかというと早く大図書館オルパイアに行きたいのよね)


 キリはピュリルの様子も見にいく。

「って、もしかして今週一度もピュリル起動してないんじゃない? 最後の起動が前に僕が来た日になってる」

「そういえば、そうね」


 ニジーは今まで毎日欠かさず鳥型AIロボットのピュリルを起動していたが、スバイス中心の生活になってしまったことで、ピュリルにまで気が回らなくなってしまっていた。


「こまめに起動しないと逆に不具合出るかもしれないから起動してあげて?ピュリルかわいそうだし」

「うん、分かった」


(パバディもピュリルと同じような形に変身できるかしら)

 こうしてキリと話している間もスバイス内の事ばかり考えていることに、ニジーはハッとした。


「姉ちゃん本当に大丈夫? 魂、今世に戻ってこれてる?」

 キリは珍しく心配そうに問いかけた。

「なんで? 今私はここにいるでしょ?」

「……ならいいけどさ」


「あ、そういえばスバイス内のバーガーショップで買ったアップルパイが冷蔵庫に残ってる」

「……マジか」


 キリは冷蔵庫の奥にあったスイーツを見つけると震える手で運んできた。

「ほわわー! これ繋グ屋の新作アップルパイじゃないか……! チェックしてたけどまだ食べたことなかったんだ!! なぜここに!?」


 一心不乱に写真を撮っている。3Dスキャンまでし始めた。

 スイーツを前にすると寡黙な性格が豹変するほど弟は大の甘党なのだ。


「……今までファーストフードとか興味なかったみたいだけど行ってみたの?」

 キリはアップルパイをちびちび大事そうに味わっている。

「いや、スバイス内の飲食店で料理を頼むと繋グ屋からドローンが料理を運んできてくれるみたい」

「へえ、食べてるところ外から見たら多分超シュールだけどね」

「ちょっと、スバイス内で食事取りにくくなるからやめて!?」


 確かに外から見たら、VRルームに1人座りヘッドセットを被った状態で、独り言のように何かを話しながらドローンが持ってきた食事を食べている完全に怪しい人だ。


 弟は時間をかけてスイーツを平らげると、満足そうに立ち上がり食器を片付けて外へ出た。


「……ま、生存確認できてよかった。ちゃんと発信しないとネームド剥奪されるよ」

「うん。ありがと。頑張る」


 そう言ってキリはドローンで自分の拠点へと戻っていった。


(弟、いいやつだ)


 朝起こされ、遅めのご飯を食べ、キリと話し、仕事をし、洗濯と掃除をし、昼寝をし、仕事をし、夕飯を作って食べ、また仕事をし、SNSに作品をアップし、シャワーを浴びて、本を読み、ベッドに入る。


 全てが新しく刺激的なスバイスと比べて、今世はなんて平凡な日常なんだろうとニジーは暗くなった外の景色を眺めながら物思いに耽る。


 そうしてひっそりと今世の休日が終わっていった。

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